不幸の手紙
「暇だなぁ…行くところもやることもお金もないし、外は雪だし、はぁー…何か事件とか面白いこと起きないかな…」
「お嬢様、不謹慎ですよ…」
冬休み初日、アイナは自室で暇を持て余していた。
復学してからあまり手を掛けていられなかった庭仕事をやろうと意気込んでいたのだが、生憎の天気に断念せざるを得ない。
「だって暇なんだもん…学園ってタダで行けてあんなに色々体験できて友達も出来てすごい場所だったんだね…もう文句は言いません…」
「この国の教育施設の運営は税金で賄われていますからね。」
「うん、皆の税金を無駄にしないよう、暇な時こそ勉強でもするか。」
やる気になって机に向かうアイナに、リリアは小菓子を添えて紅茶を用意した。勉強を頑張る彼女へのご褒美だ。
アイナは久しぶりの甘味を嬉しそうに口に放り込みながら教科書を開く。
「あ、そう言えば兄様見かけた?」
「いえ…それがまた随分と自室に篭られているようでして….」
アイナと違い、ケルストは自分のことは自分でやるため、使用人の手を借りることはほとんどなく、1人で自室にいることが多い。
そのため、普段からあまり顔を合わせないのだ。
「大丈夫かな…あとで様子見に行くかな…」
アイナがペンを回しながら考え事をしていると、乱暴にドアの開く音がした。
「アイナっ!!一体これはどういうことだっ!!アルフォード公爵家からお前に手紙が来てるぞっ!」
「はい?」
父のケントンがノックもせずに勢いよくアイナの部屋に入ってきた。
彼は怒りで顔を赤くし、握りつぶした紙を手に持っている。
「見舞いだという手紙には、ケルストの名前まで書いてあった。お前達は一体公爵家相手に何をしてくれたんだ…」
「は…………」
アイナの机の目の前で項垂れるケントン。
話している内に冷静になったのか、先ほどまでの激昂した様子は無くなった。
そんな彼の様子と入れ替わるように、今度はアイナが声を荒げた。
「というか、色々とおかしいでしょう!どうして手紙をもらっただけで怒られないといけないの!そもそも、娘への手紙を勝手に開かない!そして何より、あの男!!まったく余計なことを…!!」
アイナは怒りのままに、ケントンが手にしていた手紙を奪い取った。
皺皺になっている紙を手で伸ばして、素早く中身に目を通す。
『親愛なるアイナへ
変わらず元気に過ごしているかな。
これはささやかながら僕からの見舞いの品だ。
先日は大変だったね。ケルスト殿はもう落ち着いただろうか。もしなにかあれば、またいつでも僕のことを頼るように。
追伸
君と会える新学期が待ち遠しい
レイン・アルフォード』
レインからの手紙を読み終わってすぐ、アイナは手にしていた便箋を握り締めた。そしてそのまま両手で思い切りぐしゃぐしゃにする。容赦がなかった。
「お、おい!公爵家からの手紙をそんなふうにしては……」
「はっ。大層ご立派な手紙だこと……額縁に入れて家宝にでもしましょうか?」
先ほどまで自分の手で握りしめていたというのに、ケントンは焦ってアイナのことを止めようとしてくる。
だが、怒りが頂点に達しているアイナには父親の声など聞こえてやしなかった。
その怒りの矛先は完全にレインへと向かっている。
「とにかく、一旦落ち着け。ケルストも交えて話をするぞ。場合によっては公爵家に謝罪に行かねばならん…リリア、部屋にいるケルストを下の階に呼んできてくれ。」
「畏まりました。」
急いで部屋を出ていくリリア。
レインからの手紙によって、一気に物々しい雰囲気に早変わりしたトルシュテ家。
こうして、アイナの希望とおり、なんとも忙しい冬休みの幕開けとなったのだった。




