試験結果がもたらしたモノ
期末試験から一週間が経ち、試験結果が発表された。
学年の5%にあたる上位10名は、成績優秀者として廊下に貼り出される。
それはごく一部の生徒達の話であるため、残りの95%の生徒達が物見遊山で結果を見に行くことがほとんどだ。
「アイナ!すごいねっ!!」
一緒に結果を見に廊下に出て来ていたカシュアは、横にいるアイナに思い切り抱き付いた。
「中途半端だな………」
だが、結果を見つめるアイナの横顔は暗い。
前回圏外だった彼女は今回9位であり、アイナの手応えとしては上位3位に入るほどだと思っていたため、納得いっていないようだ。
ちなみに、1位は前回同様レインだ。2位と大差で1位に座にいる。そのこともあり、アイナは余計に凹んでいたのだ。
「何言ってるの。十分すごいよ。だってほら。」
カシュアが視線を向けた先には、アイナを羨望の眼差しで見つめ、話したそうにしている男女の姿があった。
二人とも、実技の授業の時に共に石を温めていた仲間達だ。
「トルシュテさん、僕たちと同じダークスなのに…本当にすごいよ。」
「尊敬するわ。うちの学園で初めての快挙じゃないかしら?」
アイナ達と同じ暗髪の、キース・ロングラントとエリナ・シャルロッテ。二人は、自分事のように喜んで声を掛けてくれた。
「あ、ありがとう!ロングラントさんとシャルロッテさんだよね?」
名前を呼ばれた二人は一瞬だけ驚き、互いに顔を見合わせた。
アイナは、初日に皆の名前が分からなかったことを悔やみ、それから全員の顔と名前を丸暗記していた。
貴族名鑑を買う余裕はなく、先生に無理を言って学園の名簿を見せてもらっていたのだ。
「いいわよ、エリナで。私もアイナって呼ぶわ。」
「僕もキースでいいよ。」
「ありがとう!」
また話せる相手を見つけたアイナは、嬉しそうに笑っている。
和気藹々と話す四人のことを疎ましそうに見る者も少なくなかったが、アイナにとってはどうでも良かった。
自分のことを嫌う100の人より、自分のことを大切に想ってくれる1人の方が絶対的に価値があると感じていたからだ。
「おいっ!アイナっ…!!!!」
「なっ!?」
4人で楽しんでいたところに男が勢いよく割って入り、アイナの両肩を強く掴んできた。その勢いのまま、彼女のことを壁に押し付け、両手首を拘束する。
「お前は!なんてことをしてくれてんだ!自分の立場を理解してるのか!!?俺たちはこんは風に目立つべきでは…っ」
掴んだ両肩を激しく揺らし、自分の感情を直接ぶつけてきた。
「ちょっ、ちょっと、兄様っ!!!」
「彼女、嫌がってますよ。」
騒ぎに気付いたレインは、表情を変えぬまま腕力でアイナから男を引き離すと、足を掛けて肩を掴み、背中から軽く床に叩きつけた。
アイナに兄様と呼ばれていたため、これでも手加減をしたらしい。
「ゲホッゲホッゲホッ……お前は一体何なんだ……他所の家の事情に首を突っ込みやがっ」
起き上がり、自分のことを叩きつけて来た相手を目にしたアイナの兄、ケルストは目を見開いた。
ただの下級生が邪魔して来たのだと思っていたのだが、実際はこの学園で最も地位の高いレインであったからだ。
「言い分は聞きますよ。」
「ヒィッ…………」
口ではそう言いながらも、一切手心を与えないことがよく分かる、見事な笑顔であった。
ケルストは表情をなくし血の気を失い、返事もせずにその場から走って逃げて行った。
「トルシュテさん、怪我はない?」
一転、いつもの穏やかな笑顔をアイナに向けてきた。
「うん、だ、大丈夫。ありがとう。」
「僕は先生に報告してくる。ロッテさん、トルシュテさんのこと宜しくね。」
「は、はい!!」
初めてレインに名を呼ばれたカシュアは、ひっくり返った声で返事をした。
レインは、心配そうに見てくるアイナにひとつ頷くと、担任の元へと向かって行った。




