裏ではこんな話に
レインがドームに戻ると、ちょうど授業が終わるところだった。ローブの白黒関係なく、皆先生の周りに集まっている。
戻って来たレインに、皆気遣わし気な目を向けた。
「トルシュテさんは極度の貧血とのことです。校医も少し休めば大丈夫と仰っていました。」
「レイン君、もし魔力暴発だったらと君が願い出てくれて大変助かりました。このドームの外に出ると、私の力では抑え込めませんから。ありがとうございます。」
「いえ、クラスメイトが困っていたのですから、自分に出来ることをするのは当然です。」
先生からの労いの言葉に、にこやかな笑顔で当然だと言うレイン。
彼の心の広さとその行動力に、クラスメイト達からは自然と称賛の拍手が送られた。
授業が終わり、皆着替えのためにロッカールームへと向かう中、他の人と距離の空いた隙を狙ってアイタンがレインに話しかけて来た。
「で?本当のところは何があったの?」
瞳をキラキラと輝せながら聞いてくるアイタンに、レインは嫌そうに顔を背けた。
彼の友人は、普段は一定の感情を保っているというのに、人の不幸事となると途端に興味を持って首を突っ込んでくるきらいがある。
話すことは気が進まなかったが、アイタンの性質をよく知る彼は、隠せば隠すほど相手が躍起になることを嫌と言うほど経験している。
それを思うと、ここで話すこと以外に選択肢はなかった。
「あいつ、魔略測定器と同期しようとしてた。」
「は?」
さすがの万年ポーカーフェイスのアイタンも、明後日の方向過ぎる展開に、開いた方が塞がらない。
「で、案の定魔力を吸い取られたってわけ。ほんと、馬鹿。あり得ない。」
「嘘でしょ…普通そんなことする?」
「だからあいつは頭がおかしいんだよ。馬鹿を超越してる…」
助けた時のことを思い出したレインは、イライラが再熱してきた。
顔に出ないよう、ため息で負の感情を外に押し出す。
「でもそれを助けてあげるんだから、レインってほんと優しいよね。授業中にいきなり血相を変えて走っていくから何事かと思ったら、彼女の元に真っしぐらなんだもの。あんなに必死になるなんてまさか、」
「おい」
「ふふふ、そんなこと言っていいのかなー?あの時、僕が魔力暴発かもって騒ぎ立てていなければ、あの場面を他の人たちにも見られちゃってたけど?」
「・・・」
何も言い返せなくなったレインは、そっぽを向いた。相変わらず、分かりやすい反応だ。
彼の反応に味を占めたアイタンは、さらに嬉々として追い込んでくる。
「でも、魔力の供給ってさ、別に口付けじゃなくてもいいよね?」
「ゴホッゴホッゴホッ」
あの場面をそこまで詳細にしっかり見られていたことに驚いたレインは、思わず咳き込んでしまった。
クラスメイト達に気取られないよう、レインは急ぎながらも背を向けて見えないように角度に気を遣ったはずなのに、目ざといアイタンにはしっかりと見られていたようだ。
「…急を要したためだ。太い血管に口を付けた方が手っ取り早く魔力を注入できる。せっかく助けるのに、後遺症が残ったら後味悪いだろ。」
「急を要するねぇ……それなら、唇が一番だけど?」
「・・・」
固まったまま反応を示さなくなったレインに、堪え切れなくなったアイタンが腹を抱えて笑い始めた。
一度笑い始めると中々止まらない彼は、しばらく笑い続け、レインの魔力行使によってようやく笑いを止めた。
「はははっ、ごめんって。今日はこれで終わりにしておくよ。そろそろ教室に戻らないとマズイしね。」
目に溜まった涙を指で拭いながら謝るアイタンに、レインはただただ睨み付けている。
「ああそうだ。彼女まだ保健室だったよね?昼休みに様子見にいく?心配だよね。」
「行くかよ。めんどくさい。」
「ふぅん。じゃあ僕が代わりに様子を……って、なんで睨んでくるのさ?」
「授業遅れるぞ。」
歩くスピードを速めたレインの後ろを、にこにこ顔のアイタンが追いかける。
相変わらず、アイタンのその横顔はとても愉快そうであった。




