いろいろ言葉を失った
……へっ?
「あっ、もちろんシシリーちゃんも誘ったよ。いや、シシリーちゃんじゃなくてセシリーちゃんか。まさかシシリーちゃんが王女様だとは思わなかったよ! ショーマ君が意識失ったままどうしようかと思ったら馬車の中で『城に運んでください! 私はセシリーです!』なんて言うんだもん」
いやいや!!
いろいろツッコミどころ満載だぞ!?
まず、シシリーがセシリーって気づいたのは、まぁ納得できるとして、王女って気づいたのにおまえはなんでちゃん付けなんだ!?
呼び捨てにしてる俺が言うのもなんだけど!!
それに王女って分かったのに飲み会に誘うのかよ!?
あと、俺が主役とか言って勝手に話進めて俺の都合とか全く無視してるじゃん!!
「あれ? 反応がないけど、それほど嬉しく思ってくれた?」
「いや、違う。いろいろ呆れただけだ」
俺は即答で言葉を返す。
すると、アースは「あれ? 僕なんか変な事言ったかな、ミリア?」とミリアに言い、ミリアは「ううん、私はやっぱりアース君は優しいなって思ったよ?」と目の前で二人の世界に入ろうとするアースとミリアを見て俺はため息をついた。
なんだろう、こいつらを見てるとさっきまで真面目にいろいろ考えていた自分がバカみたいに思えてくる。
「とりあえず、詳しい店とか時間とか決まったらまた言うからね!」
「お、おい! アース!!」
呆れている間にアースはミリアとのやりとりで何か納得したのか、そう言ってミリアと一緒に去って行った。
はぁ~……やっぱりあいつと会うと碌でもない。
俺はこれ以上、アースに何か言っても余計にややこしくなるだけだと思い、諦めて宿屋へと足を進めて帰って休むことにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「決まったよ!」
「……」
俺の目には満面の笑顔で声をかけてきたアースと、その斜め後ろに大人しく立っているミリアが映っている。
依頼を受けに行こうと、いつもの昼の時間にギルドへと向かったら、待ち構えるようにして二人がいたのだ。
「あれ? どうしたの?」
「いや、何もねえよ。何が決まったんだ?」
どうしたのってそうやって待ち構えられていていきなり『決まったよ!』なんて言われたら、普通はリアクションに困るだろ。
「あぁ、それね」
俺はそれ以外に何を待ち構えていたお前に聞くんだ、と言いたいのを我慢する。
「昨日話した快気祝い話だけど、一週間後の夜に『ムーンライト』でやる事になったから!」
「……」
……こいつボケてるのか、天然なのか。
まず、第一に昨日俺に会ったのに結局、主役とか言ってる俺の予定は聞かずに帰って、今日にはもう他の人の予定を聞いて話を纏めてから俺に言ってくるってどういう事だ!?
俺の都合悪かったらどうするんだ!?
それに、昨日の今日で話を纏めてくるのもビックリだけど。
そうやって呆れている間にもアースはマイペースに「あっ、夜にいったんギルド前に集合してからみんなで行くからね」って言ってくる。
……やっぱり勇者って手強い。
「あれ? 言葉が出ない程、嬉しい?」
「……もう、そういう事にしておいてくれ……」
いろいろ思う事があったけど、アースに対しては無駄だと、俺はすべてを諦めてそう言った。
「それで、誰が来るんだ?」
基本的な事は諦めるとして、メンバーだけは確認しておかなければならない。
場所のムーン・ライトってのはこの前、クレイが奢ってくれた場所だから問題ないにしても、もし、こいつがぶっ飛んだ思考でメンバーがおかしな事になっていたら止めなければならない。
すると、アースは「う~ん……」って考え出す。おいおい、まさかメッチャ多いわけじゃないよな!?
「えっと、僕にミリア、そしてショーマ君にセシリーちゃんでしょ、それからカイト君にカレンちゃん、あとは――」
おいおい! そこまでじゃないのかよ!!
俺の予想ではそこまでだぞ!?
「ギルド長さん」
ま、まぁクレイは分かるか。
「ネリーさん」
ネリーさんもまぁ……カイトもいるしな。
「ゼクスさんにルークスさんでしょ?」
何!? ゼクスにルークスだと!?
「あとは――」
「おいおい!! まだいるのかよ!!」
俺はこれ以上出てくるのを恐れて、思わず口に出してしまった。
「あっ、それだけだった!」
そう言ってテヘペロするアースを見て、俺は殺意を覚える前にずっこけてしまった。
「ショーマ君大丈夫!?」
「大丈夫ですか!?」
ずっこけた俺に二人は声をかけてくる。
大丈夫? じゃねえよ!
「……あぁ、大丈夫だ」
心で愚痴りながらもそれを隠して立ち上がる俺。
どうせこいつらに言ったところで二人の世界に入るか、ややこしくなるだけだしな。
「良かった」
そう言うアースに同意の意味を示すように頷くミリア。
……もう何も言うまい。
「それにしても多い人数だな」
「ううん、本当はもっと多かったんだ。でも、みんな忙しいみたいで……」
「おい……ちなみに誰を誘ったんだ?」
「えっ? う~んと、セシリーちゃんのお父さんお母さん、お兄さんと後は宿屋のおばちゃん、それからこの街の冒険者と――」
防衛反応か、俺の耳は途中からアースの言葉を拾わなくなっていた。
「――を誘ったんだけど、ダメだったんだ。ゴメンね? あぁ、セシリーちゃんのお父さんとお兄さんは行きたがってたけど、お母さんに『その日は忙しいでしょ?』と言われて諦めてたっけ? 行きたそうにしてたよ」
あぁ、それはフィリスさんが止めたんだな、きっと。
でも、その様子だと飲み会の後、また呼び出し喰らうかもしれないな、うん。
……あぁ、それかゼクスかルークスが極秘任務を受けているか。
それにしても国王と王妃をセシリーのお父さん、お母さん呼ばわりとは……。
「……あぁ、それは残念だ」
俺は何もしていないはずなのに、何かいろいろ疲れてそれしか言葉を返せなかった。
すると、アースは「だよね、でも仕方ないよ。みんな忙しいからね。じゃあ楽しみにしててね! あっ、料金は僕のおごりだから安心してね!」と言ってミリアと一緒に去って行った。
いや、俺が心配しているのはお金の問題じゃない。
もちろん、お金の事も大事だけど……といろいろ思いながらも、俺はもはや反応する気にもなれず、ただただ仲良さそうな二人の背中を見送った。
この日、俺が依頼を受けなかったのは言うまでもない。
ネット小説大賞一次通過しました!
嬉しくて久しぶりにテンション上がりました!
これからも頑張るのでよろしくお願いします!




