三本の矢ならぬ三個の顔
「うぉぉぉおおおおお!!!!」
俺とカレンが同時に動き出すと、左右の顔は俺とカレンを見据える。
問題の真ん中の顔はというとキョロキョロと俺とカレンの方を見ながら、どちらを標的にするか迷っているようだ。
そうしている間に、俺とカレンはケルベロスの魔法の射程圏内に入った。
すると、左右の顔はさっきと同じように魔法を放つ。
そこまで見た俺は、目の前に迫る炎を避けると、その先には俺に対して後ろを向いている真ん中の頭が見えた。
行ける!!
そう思った俺は、真ん中の頭めがけて飛びかかった。
「っ!?」
しかし、捉えたと思った瞬間、ケルベロスの身体は後方へと移動していった。
こいつ、視覚も身体の動きも共有しているのか!?
今の攻撃は真ん中の顔からは死角だったし、当然カレンの方を向いている顔も死角だった。
俺の事を見ていたのは炎を吐く顔だが、てっきり身体の動きは真ん中の顔がコントロールしているのかと思ったけど、そうではないようだ。
思えば、両方から来た時点で、避けるという選択を取らないと思ったらこういう事だったのか。
避けるなら避けるで、俺はカレンと対になる感じで動くつもりだったし、カレンもそのつもりだっただろうけど。
それにしても、おまけにスピードもそれなりに速いし本当厄介な奴だ。
スピードだけだと俺とカレンの方が速いけど、あの雷魔法を警戒すると、一瞬出遅れてしまう。
しかし、その一瞬があいつに逃げる時間を与えてしまう。
どうする? 魔法喰らうの覚悟で行くか?
……いや、雷魔法はダメージに耐えられたとしても、身体を動かす筋肉の自由を一時的に奪う。
そうなったら攻撃を加えるどころか追撃を喰らい、ただ単にあいつにとって都合の良い展開になるだけだ。
すると、後方へ飛び距離を取ったケルベロスの真ん中の顔が俺の方へ向く。
「くそ、ゆっくり考える時間を与えてくれる訳ないか」
こうなったら、動きながら突破口を探るしかない。
足を止めていると雷魔法の的になると思った俺は、カレンの動きを見ながら対になるように動き、雷魔法を放たれないようにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それからしばらく、一進一退というかお互いに一撃も与えられないまま、攻防のやりとりは続いた。
洞窟内でいろいろ制限がるとはいえ、俺、いや、Sランク冒険者のカレンと二人がかりでこれほど手こずるとは思わなかった。
それほどまでに、あの雷魔法がやっかいだ。
あれさえなければ余裕で決着がついていただろう。
だけど、あれがある事で警戒せざる得ない。
いや、それだけでない。
雷魔法があったとしても、顔が一つで一対一なら問題ない。
あの顔が三つある事で、ケルベロスに攻防一帯の動きが出来ているのだ。
一つ一つなら問題ないのに、集まれば難易度が格段に上がる。
まさか、学校で習った三本の矢の話を身をもって味わうことになるとはな。
「このままでは埒があかない、行くぞショーマ!!」
「へっ!?」
いきなり、カレンに言われ何のことか分からない俺は呆気に取られる。
いやいや!
行くぞって何を!!
俺は心の中でそう叫びながらも、動かないのはいけないと思い、カレンがケルベロスに向かって走るのを見て、同様にケルベロスへと向かいながらカレンが何をしようとしているのかを探る。
なんだ? 何をしようとしている?
カレンの動きを見ているが、特別何か変わった事をしている訳ではない。
そして、そのままケルベロスの射程に入ろうとした時にカレンは動いた。
「ショーマ!! やれ!!」
カレンはケルベロスの射程に入る直前で、奴の頭を飛び越えるように跳躍しながら叫んだ。
そして、カレンを追って水魔法を放つ顔も上を見ながらこちらを見てくる。
「そういう事か!!」
俺は、カレンのやろうとしている事を察知して動き出す。
「グォッ!?」
今までと違う突然の動きにケルベロスが戸惑う。
カレンがしようとした事はこうだ。
同じ場所にいたままでは、同じ顔と真ん中の顔に対応されてしまう。
それならば、突然の予期しない動き、さらに無視できない動きで顔を一方向へ向ければ良い。
そして、混乱に乗じて反対方向からもう一人が攻撃するって作戦だ。
あいつ、勝手におとりをやりやがって。
そうは思いながらも、カレンの行動を無駄にしない為に、俺は真ん中の顔と水を吐く顔に悟られないように回る。
もちろん、炎を吐く顔は俺を追うが、予想外の事でそれぞれが身体を動かそうとしているのか、指揮系統がメチャクチャになっているようで、俺はどの顔の視界からも外れる。
よし、もらっ――っ!?
そう思った時、真ん中の顔が異変に気付いたのか、こちらの方へ向こうと首を捻りだした。




