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気まずくなった

「あ~良く食って、良く飲んで、良く寝て……最高だな、ショーマ!! 終わりよければすべて良し! ガハハハ!!」


 明けた翌日、俺達はエルフの村を離れようとしている。

 というのも、世界樹の回復が、エルフ達の予想よりも早く、一晩で回復し、夜が明ける頃には葉は青々した色に戻っていたのだ。


 それを朝の見回りで見つけたエルフがすぐさま村長に報告、そして、俺達に気を利かしてくれた村長は、すぐさま世界樹の葉でエリクシールを作ってくれたのだ。

 クレイの娘の病状が分からない以上、一刻でも早く帰りたいと思っていたからありがたい事だ。


 そういう事で今日この村を発つ事になり、俺達はエルフの村の入り口にいる。

 ゼクスが上機嫌なのは昨日の夜におもいっきり飲んで食って騒いで起きた昼過ぎにはすべての準備が終わった後だったからだろう。

 それともアルコールが残っているのか。



「それにしてもショーマ、元気ねぇな? 風邪か? それにセシリー様も」


「い、いや、そんな事ないって! ほら元気元気!」

「そ、そうよ! 私も元気よ!?」



 俺とセシリーは二人してゼクスの言葉に動揺する。

 というのも、昨日の夜、ああやって抱き締めてしまい、昨日の夜は雰囲気もありそのままの空気であの後も普通に話したりしたのだが、一夜明けて素に戻ると途端に意識して恥ずかしくなり普通に接する事が出来ない。


 今の俺はカイトの事を言えない状況だ。


「いや、それならいいが……」


 鈍感なゼクスは、俺とセシリーに何かあったとは思ってもいないようだ。


「大丈夫だ! だから気にするな!」


 俺は今のうちに根を摘んでしまおうと強引にゼクスに畳み掛ける。


 すると、ゼクスは「そうか、なら分かった! 帰りは俺に任せてショーマとセシリー様は馬車の中でゆっくり休んでくれ!!」行きは俺とゼクスが交互に御者をしていたが、ゼクス自ら帰りの御者は任せろとかって出た。

 よほど機嫌が良いのだろう。


 おそらくはエルフの酒よほど美味しくて昨晩たくさん飲んだのと、土産にその酒をもらえたからだと思う。

 まぁ自分からかって出てくれた事だし任せるとしよう。


 ちなみに酒の味について分からないのは、クロの件があったからと、この前に酒を飲んで何とも言えない展開になったので今回は自重したのだ。

 俺はあまり酔わない方だけど、昨日の夜の雰囲気で飲んだらどうなっていたか……。

 もちろんセシリーも飲んでいない。


「おにいちゃんありがとう!」


 何とかゼクスをやり込めたと思っていると、見送りにきてくれていたリタが声をかけてきた。


「いや、俺はやるべき事をしたたけだから」


 決して恰好をつけている訳ではない。

 本当の事だ。

 世界樹を救わなければ世界樹の葉は手に入らなかったし、この世界にとっても大きな影響を与えていただろう。


 それにこんなにエルフに受け入れられる事もなかっただろうし。村の入り口には多くのエルフが見送りに来ている。

 その最初村に入った時に見られていた視線とは大違いだ。


「リタを助けて頂いてありがとうございました。そして、世界樹も……。それなのに最初見た時は疑ってすいません」


 リタに続いて歩み寄ってみたリタの父親が頭を下げる。

 そして、その後ろにいる母親も一緒に頭を下げた。



「いえいえ、頭を上げてください。元はこちらが無断で入ろうとしたのが原因でしたから」


「すいません」



 それでもリタの父親は謝ってくる。

 この人、真面目な人なんだな。



「お兄ちゃん凄いよね! リタ将来お兄ちゃんのお嫁さんになる!」


「こら、リタ!」



 すると、リタがまた話に入ってきて父親が制止しようとあたふたしている。


 最初の時と大違いだな。

 最初は速攻で拳が飛んできたのに。

 きっと、リタの中では俺は世界樹を救ったヒーローにでもなっているんだろうな。


「あっ、でもお兄ちゃん人間だからリタが大人になったら死んでる?」


 うっ……やっぱり言う事は少し残酷かもしれない。

 まぁ俺は厳密には魔王だから生きていると思うけど。

 でも、リタもエルフだから見た目以上に年は……。


「こらっ!! リタ!! 本当にすいません!!」


 そんな事を思っていると、父親はまたしてもリタを制止しながら謝ってくる。

 この人、この先苦労するだろうな……。



「いえ、気にしないでください。じゃあ、そろそろ俺達行きますね。リタ、ちゃんとお父さんの言う事聞くんだぞ?」


「え~……でも、お兄ちゃんが言うならそうする!」


「はは!! じゃあ元気でな!」


「うん!」



 リタに別れを告げると、俺は村長に向き直る。



「今回はいろいろありがとうございました」


「いや、礼を言うのはこちらのほうじゃ。感謝しておる。覚えておいてくれ、我々エルフはこの恩を忘れない。何かあった時は力になろう」


「ありがとうございます。俺も何かあったら出来る限り力になりますんで」


「ほぉっ、ほぉっ! 頼もしい言葉じゃ。ありがたく受取ろう。では、元気でな」


「はい、みなさんも元気で!」



 こうして俺達は無事エリクシールを手に入れ、エルフの村を後にした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……」


「……」



 無事、今回の旅の目的を達成した俺だが、この旅で新たに発生したミッションの前に俺は手も足も言葉も出ずに苦戦している。

 そう、ゼクスが御者で外で上機嫌に鼻歌を歌っているせいで俺とセシリーは二人っきりで無言なのだ。


 なんとかしなければ……。



『おい、ヘタレ』


『なんだ急に!? 俺はヘタレじゃない!』


『じゃあ話しかけろよ』


『それは……』


『ほら、ヘタレじゃねぇか!』


『違うわ!』


「……ショーマさん?」


「ほへっ!?」



 グラムと話しているところに急にセシリーが話しかけてきたので、俺は変な声で返事してしまう。

 すると、それにつられセシリーは笑い、俺もつられて笑い場の空気が和んだ。



「ショーマさん、あの~」


「ハイ、ナンデショウ?」



 場が和んだとはいえ、名前を呼ばれ構える俺。



「私が力になれるか分かりませんけど、何かあったら頼ってくださいね? ショーマさんには助けてもらってばかりなので、私も力になれる事があったらなりたいですし」


「セシリー……」


「それに私は後輩ですからね、何でも遠慮なく言ってください」



 そう言ってセシリーはにこっりと笑ってくれる。

 まいったな、こりゃ……。



「分かった、じゃあこれからは遠慮なく言わせてもらうよ」


「はい!」



 そう言って俺とセシリーはにっこりと笑う。



「おいなんだ!? にっこりして楽しそうじゃねぇかショーマ。俺も話に入れてくれ!」


「ダメだ! ゼクスは御者だろ? 自分でいったじゃないか? ほら、前を向いて!」


「話くらいいいじゃねぇか!!」


「ほらゼクス、前が危ないですよ?」


「セシリー様まで!?」



 青空の下に俺とセシリーの笑い声が響き渡る。


 こうして俺達は和気あいあいと帰路へと着くのだった。


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