星空の下で
村長の一言で今日は宴を行う事になった。
世界樹の方も、アンデッド化したクロの母親が湖の傍からいなくなり、エルフ達によって湖の水が浄化された事によって目に見えて葉が艶やかになってき回復しているのが分かる。
やはり、アンデッド化したクロの母親が原因だったようだ。
俺にとっては何とも言えない気持ちだけど……。
ちなみに、湖に残ったエルフ達は調査もしたようだけど、ドラゴンがアンデッド化した原因とかは分からなかったみたいだ。
そもそも、あの場所以外に影響を受けたような場所もなく、飛べないアンデッド・ドラゴンがどうやってあの場にきたのかも不明だそうだ。
結局のところ、何も分からないという結果になった。
その結果にいろいろと複雑な気分の俺は宴には参加せずに、少し離れた木の下で休んでいる。
クロの為に前向きになると誓った俺だが、エルフの調査結果を聞く限りではやはりクロの母親をあんな風にした黒幕がいるような感じに、なんともやるせない気持ちになる。
でも、俺が調べても何か分かる訳でもなく、もどかしい気持ちで宴って気分じゃないので、宴には参加せずにこうやって一人で過ごしている。
参加せずとは言ったけど、クロにはちゃんとご飯を与えないといけないし、料理だけは食べてきた。
そして、クロはというとお腹がいっぱいになったのか、クロは俺の立つ横の地面で寝そべって眠りについている。
今日はいろいろあったしクロにはゆっくり休んで良い夢でも見てほしいものだ。
俺は視線を前に戻す。
ここから見える広場では火を囲んでエルフ達がお酒を飲んだり、踊ったりしていて、その中には酔っぱらって上機嫌でテンションが上がっているゼクスも参加している。
あいつ、また問題起こさなかったらいいけど……。
「ショーマさん」
ボーっと宴の様子を眺めていると俺を呼ぶ声がし、声の聞こえた方に振り向くと横にセシリーが歩いてきていた。
「セシリー……」
「今日はお疲れ様でした」
そう言ってセシリーは俺の横に並んで立つ。
「あぁ、お疲れ様」
本当ならここで仲良くなるチャンスなんだろうし、何か盛り上がるような会話をしないといけないんだろうけど、今の俺はクロの母親の事を考えていたので、そういう気になれずに、ただそれだけしか言葉を返せなかった。
「……」
「……」
すると、セシリーは俺の言葉に反応せず、何も言わずに俺の隣に立ち沈黙が流れる。
ヤバイ、何か気の利いた話をしないと……。
「……あのドラゴンさん、何かあったのですか?」
「っ!?」
すると、唐突にセシリーの口から思いがけない言葉が出てきて俺は動揺し、言葉を発することができないままセシリーの方へと向き直る。
なんでセシリーの口からドラゴンって言葉が……。
「その様子だと当たりですね」
「……」
「何があったか教えてくれませんか?」
「……」
俺はセシリーの言葉に何も返せない。
そして、しばらく沈黙が流れる。
「ショーマさん」
セシリーは再度俺の名前を呼ぶ。
「私はショーマさんにたくさん救われました。それなのに私はショーマさんが辛そうにしている時に何も出来ないのは辛いし心配です。エルフの方々を呼びに行って戻ってから様子が違うから……。だから、もし何かを一人で抱え込んでいるなら話だけでも聞かせてください。私には何も出来ないかもしれませんが、ショーマさんの抱えている事を共有させてください」
「セシリー……」
セシリーは真っ直ぐな目で俺の事見ている。
そんなに真剣に俺の事を……。
「実は――」
俺はセシリーの真っ直ぐな瞳の前に、真剣に俺の事心配してくれている気持ちを前に、黙っている事は出来ずに話し出した。
「そうですか、そんな事が……」
俺はクロの母親の事を話した。
どういう経緯があってクロが俺の元にきたのか、俺がクロの母親を投げた事でこういう結果を招いた事、クロと母親は話し合って最後に自分達で覚悟を決め、俺にとどめをお願いしてきた事、そして、俺が、自分が安易にしてしまった事でクロと母親が永遠に離ればなれになってしまった事に対する申し訳なさ……一度は決意したはずだったけど、ダムが決壊したように自分の想いまで長々と話してしまった。
でも、セシリーはそんな俺の話が終わるまで、黙って話を聞いてくれた。
「そうなんだ……俺は自分のした行為を許せない……っ!!」
話せば話せす程、抑えた感情が溢れ出てくる。
「そうですか……でも、ショーマさん、それは違うと思います」
「……えっ?」
「人は未来の事は分かりません。その時に行動した事がどういう事になるかなんて誰も分かりません。ショーマさんは自分の事を許せないと言っていますが、それはクロちゃんにも、クロちゃんの母親にも失礼だと思います」
「……失礼?」
「そうです。クロちゃんとクロちゃんの母親はショーマさんを認めた、ショーマさんに対して怒ったりはしていないはずです。クロちゃんの母親は、きっとクロちゃんが立派になって育っているのを見てショーマさんに託したのだと思います。クロちゃんもクロちゃんで辛い現実を受け止め、ちゃんと前を見て生きて行こうとしています。それなのに、認められた……託されたショーマさんが後ろばっかり見ていてどうするんですか?」
「――っ!?」
「過去を変える事は出来ません。でも、未来はこれから作っていくものです。クロちゃんとクロちゃんの母親が前を見ているんですから、クロちゃんの育ての親であるショーマさんが後ろばっかり見ていてどうするのです? それこそ失礼な話です」
前を見ているクロ達と後ろばかり見ている俺……。
「……そうだ、セシリーの言う通りだ」
「それにショーマさんのおかげで生きる希望を取り戻したララちゃんもいるのですから。私もショーマさんにはいろいろ助けられていますよ?」
そう言ってセシリーは微笑みかけてくれる。
セシリー……。
「ショーマさんっ!?」
気付くと俺はセシリーを抱きしめていた。
「……少しだけ……少しだけこうさせて欲しい」
なぜこんな事をしたのか分からない。
セシリーに救われたからなのか、セシリーの事を愛おしく思ったからなのか、それとも違う感情からなのか……。
セシリーは俺の言葉には何も言葉を返さずに、そっと背に手を回してくれた。
俺はそのまましばらくセシリーを抱き締めた。
そして、木の下で抱き合う俺達を星たちはそっと見守るように照らしていた。
次回の更新は28日(水)の予定で次回が年内最後の更新になるかと思います。
最近は忙しく、更新が遅くなり申し訳ありませんm(__)m
28日(水)は仕事休みで年内最後なので、二話更新できるように頑張りたいと思います。
それにしてもクリスマス短編書く時間がなかった……。
でも、少し甘い感じになったし大丈夫ですかね?
次のバレンタインは需要があれば……。
今年も残り少ないですが、よろしくお願いします!
そして、メリー・クリスマス!!




