いろいろあったけど事件は解決した
「ショーマさーん!!」
しばらくして、セシリーの声が聞こえ、ゼクスと一緒にエルフの数名を引き連れて戻ってくる姿が見えた。
「はぁ……はぁ……まさか倒したのですか……?」
セシリーは俺の元に駆け寄ると肩で息をしながら、周りの様子を見て聞いてきた。
「……あぁ、まぁな」
「すげぇじゃねぇか!! どうやって倒したんだ!?」
セシリーの言葉に答えると、後から来たゼクスが驚きながら問いかけてきた。
「まぁ俺とクロとで協力してだな」
俺は心の中でクロに謝りながら言葉を返す。
「さすがドラゴンテイマーってか!! それにしてもよく倒せたもんだぜ!!」
「まぁオーク・キング倒してるからな。それより――触るな!!」
ゼクスとの会話からクロの母親のいた場所に視線を移すと、その場所を調べようとするエルフ達が目に入り、俺はそれを止めた。
「あっ、いや、悪い。アンデッド化したドラゴンだったからな。触ると影響が出るかもしれない」
半分そうで半分は嘘だ。
クロを母親を跡形もなく倒したとはいえ、その場に残る再生しないかすかな残骸や液体はクロの母親そのものだったものだ。
容易に触って欲しくなかった。
「……分かりました。私が浄化しましょう」
事の成り行きをみていたセシリーがそう言って一歩前に出る。
「親愛なる神よ、汝の導きにより、命を失いし者を浄化させたまえ」
これは……。
セシリーが言葉を口にすると、クロの母親のいた場所一帯を淡い白い光が包み、そしてその場所は綺麗になった。
「ふぅ~……」
「セシリー様、大丈夫ですか?」
「えぇ、少し疲れましたが大丈夫です」
「そうですか。でも、さっきのは神官が死んだ者に行う魂の浄化魔法。負担も大きいのに、なぜ、アンデッド・ドラゴンに……?」
「アンデッド化した魔物を浄化するには、この魔法が有効だとルークスから教わりました。詠唱が必要なので場所を指定しながらしか発動できないので戦闘中には使えませんが。それに、あのアンデッド・ドラゴンにも歩んできた命の道があると思います。だから、最後は安らかに眠って欲しいと思いましたので」
ゼクスが言う通り、セシリーが使った魔法は人が死んだ時に使う魂の浄化魔法だ。
死んだ者の魂を浄化させ、安らかに眠らせられる事が出来るという魔法。
しかし、それを使うには魔力も多く必要で神聖魔法の適正もないといけないから、それを使えるのは神官くらいらしい。
しかも、それを使うと魔力の使用量が多いため、一日一度くらいしか出来ない為、高額で貴族や商人と言った裕福な人が死んだ時しか使用されない。
俺はそれを街でシシリーとしてのセシリーと一緒に行動している時に、貧民の人間が餓死しているのを見つけ、それを見たセシリーが「亡くなった後は……いえ、みんな平等でないといけません」と言って、この魔法を使った時に話を聞いた。
セシリーは神聖魔法の適正があったのと、ルークスとの修行でこの魔法を使えるようになったと言っていたけど、負担は大きく、使用すると立ってられない程、疲れると言っていた。
それをセシリーは何も知らないのにクロの母親に使ってくれた。
そして、周りに心配をかけないようにああやって気丈に立っている。
セシリー……。
「……ありがとう」
俺はただセシリーに感謝の言葉を口にする事しかできなかった。
「いえ、私がこうしたいって思っただけですから。さて、いろいろあって疲れたし帰りましょうか。ここに来るまでにアンデッド・ドラゴンを倒せた後の湖の調査はエルフの方で行うって村長さんが言ってましたので」
「セシリー……」
「さぁ、帰りましょう。ショーマさんも疲れたでしょうし、私も少し疲れました」
そう言ってニッコリとセシリーは笑う。
俺は何かセシリーが俺の事を気遣ってくれている気がして、その気持ちが嬉しくもあり、申し訳なくも感じながらセシリーの言う通り、湖の調査はエルフに任せて帰る事にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そうか……」
俺とセシリー、ゼクスの三人は湖に来たエルフ達を置いて先にエルフの森へと帰ってきた。
帰りの道中にセシリーは浄化魔法の負担のせいか、躓いてこけそうになり、俺が支える形になって二人して顔を赤くするって言った場面もあったけど、帰ってきたのだ。
そして、俺達は湖であった事を村長に伝えたのだが、その話を聞いたエルフの村長は難しい顔をして黙ってしまった。
「どうしたんですか? もしかして湖の水の浄化は難しいとかですか?」
俺は気になって問いかける。
世界樹が大地からエネルギーを得ている以上、湖の浄化が出来ないとなると、今までの影響を考えた場合、自然と浄化されるのを待っていたら世界樹が枯れてしまうという事態もあり得る。
そうなればクレイの娘さんは……
「いや、湖の浄化は我らエルフの魔法を持ってすれば可能じゃ。それに効果はもう出ているようじゃ。しかし……」
そうか、それなら世界樹は大丈夫そうだ。
でも、じゃあ何が気がかりになっているんだ?
「何が気になるんです?」
村長はしばらく考えて口を開く。
「……アンデッド化していたというドラゴンの事じゃ」
「それが何か気になるのですか?」
意表をついて出た言葉に、俺が反応できないでいると代わりにセシリーが続きを促す。
「うむ。わしは長い事生きているが、今までにアンデッド化したドラゴンというのは見た事も聞いた事もない。それが気になっておってな」
「ドラゴンはアンデッド化しないものなんですか!?」
村長の言葉に俺は食いつく。
もし、村長の言わんとしている事が普通ではドラゴンはアンデッド化しないというものだとしたら、クロの母親は何者かにアンデッド化されたという事になる。
そうだとしたら……許せない!!
「いや、分からん。ただ、長く生きて見た事も聞いた事もないだけじゃ。もしかしたら、儂の知らないところでいたのかもしれないじゃろし」
「そうですか……」
でも、逆に言えば今まで見聞きした事ない事が身近で起きたって事だ。
もし、そんな事をした奴がいたとしたら……。
「とにかく、警戒はしとくつもりじゃ。考えても分からん事じゃしな。まぁ現場を調べて何か分かる事もあるかもしれないが、おそらくはないじゃろ」
「もし何か分かったら教えてくれますか?」
「良かろう。そなたたちは恩人じゃ。それくらい問題ない。それと、世界樹が回復したら葉をもって帰るといい」
「本当ですか!?」
「あぁ、先ほどそなたちが戻ってくる前に世界樹の様子を見ていた者から連絡があってな、どうやら世界樹の方が少し元気になってきたらしい。湖に残った者が水を浄化させている効果じゃろう。おそらく、数日中には世界樹は回復するはずじゃ。エルフは受けた恩を返す。それに世界樹もそれを望んでおられよう」
「「ありがとうございます!」」
俺とセシリーの声がシンクロする。
クロの母親の件ははっきりとしないけど、焦っても何か分かる訳ではない。
何かあればすぐに動けるようにしておこう。
とりあえずはクレイの娘の方は助かりそうで良かった。
「さて、この話は終わりじゃ。今日は宴を行うぞ!」
次回の更新は明日か24日(土)にできるようにしたいと思います。




