俺にできる事
クロはグラムの柄を咥え、俺に持てと言っているように見える。
そして、クロの母親も首を下げ、俺に差し出しているように見える。
この事を考えるとその言っているようにしか見えない。
でも……。
『グォォ……』
すると、俺の戸惑いに気付いたのか、クロの母親は少し顔を上げ、そして俺の顔を見て鳴く。
その目は『こうなってしまった自分の命を終わらせてほしい』と言っているように見える。
視線の先を変え、クロの方を見ると「キュウ」と鳴いた。
もしかすると、さっきのさっきの話の中でそう言った話もしていたのかもしれない。
『なぁショーマ』
すると、グラムが話しかけてくる。
『なんだ?』
『クロの母親がなんであんな風になっちまったかでも分からねぇけど、今みたいな状態は望んでないんじゃないか?』
『それは……そうかもしれない。でも……』
『最初はあのドラゴンは攻撃してきた。それが今はして来ない。その理由を考えたか?』
攻撃してこない理由……。
『クロの母親はあんな姿を望んでいない。でも、最初は攻撃してきた。それはきっと自分の子供が心配だったからだ』
『……』
『でも、クロの母親はクロを見て自分の子供だと気付いた。そして、クロもそれが分かり、話をしていく中でおまえの事を認めたんじゃないのか?』
『認めた……?』
『あぁ、おまえならクロを……自分の子供をちゃんと育ててくれるってな』
『っ!?』
『自分でも分かっているんだろう。あの姿では子供を育てる事も、まして一緒に暮らす事なんて出来ないって。それでも一目自分の子供の姿を見たかった……だからなんとしても生きようとしてた。でも、自分の子供は立派に育っていて子供の口から話を聞いておまえを認め、自分の役目は終わった……そう思ってるんじゃないのか? これ以上生きているのは子供にとっても、自分にとっても辛い事だって。だから、とどめをさしてほしい……そう思っているんだろう』
『でも……』
『馬鹿野郎!! おまえがどれだけ責任感じてるか知らねぇけど、一番辛い思いをしてるのは、クロとクロの母親だぞ!! あいつらはその辛さを乗り越えて結論を出したんだ! クロだっておまえに頼めばおまえが悩むってのは分かってるはず! でも、今の状態の母親の母親の願いを叶える為にはおまえに頼まないと出来ない、クロも辛い決断をして行動してるんだ! 親代わりのおまえがそんなんでどうする!!』
……グラムの言う通りだ。
辛いのはクロとクロの母親なのに、俺は……。
『……グラム、サンキュー。目が覚めた。力貸してくれるか?』
そうだ、今俺に出来るのはクロとクロの母親の願いを叶える事。
俺が起こした結果だ、今までの責任と今回の事態の責任はこれからも背負って生きて行く。
そして、クロをしっかりと育てていく!
『へっ、やっと調子戻りやがったな。あぁ、いいぜ!! 本当は斬るの嫌だけど貸しにしてやらぁ!!』
グラムの言葉を聞いた俺はクロが咥えている柄を受け取る。
「クロ……こんな事になってすまないな。俺にできる事は何でもする……だから、任せろ」
「キュウ!」
言葉が通じたか分からないけど、クロは鳴き声で返事してくれた。
こうなってしまったからには俺は俺にできる事をする。
クロだってクロの母親だって辛い決断をしているんだ。
原因を作った俺が責任から逃げてはいけない。
俺はクロの母親を殺す決意をしてグラムを構える。
しかし、相手は脅威の再生能力を持っている。
出来るだけ再生させないで痛みとかを感じさせないようにするには……。
『グラム、この前の変形は出来るか?』
俺の魔気を利用し、グラムと意識をシンクロさせればグラムの能力が解放され大剣となる。
大剣になって威力が上がるけど意識が同調している分、剣は振りやすく、剣を振るうスピードが上がれば少しでもクロの母親を楽にしてあげることが出来る。
『あぁ、出来るぜ。でも、ショーマが考えている通りにしてやろうとするならもう一段上の能力の方がいいぜ』
『もう一段階上?』
『あぁ、能力の解放第二段階と言ったところだな。どうする?』
この前の能力解放でも結構しんどかった。
あれ以上って事か……でも……。
『やろう』
少しでもクロの母親が苦しまないのなら、クロに苦しむ母親の姿を見せない可能性が上がるなら俺はやれる事をやる!
『さすがショーマだな!』
『当たり前だ! 俺を誰だと思ってる? 俺は史上最強の魔王、ショーマだ!!』
俺はそう言うと魔気をグラムに送り、グラムと意識をシンクロさせる作業に入った。
次回の更新は19日(月)か20日(火)になります。
年末で仕事とプライベートが忙しく、更新が遅れますがこれからもよろしくお願いしますm(__)m>




