世界樹に影響を与えているもの
「なんか変な匂いがしますね……」
「キュウ……」
上流を目指して歩くと、川は少し細くなっていく。
すると、それとともに異臭がするようになってきた。
クロは鼻が利くのか、嫌そうな表情を浮かべながら俺の頭の上で丸くなっている。
「もしかたら正解かもな」
「まさか川に原因が……いったい何が……?」
「さぁな? 行ってみないと分からない」
「じゃあ急ぎましょう!」
セシリーの言葉にゼクスも頷き、俺達は足を速めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「こいつのせいか……」
川の上流へと向かうにつれ、異臭はきつくなり、川の元になっている湖に辿り着くとそいつはいた。
黒色だけどなんとも言えない色のドラゴンのようなもの……そいつが湖の傍らに陣取っている。
なぜドラゴンではなく、ドラゴンのようなものっていうと、その体はところどころに骨が見え、身体からは何か液体のようなものが垂れ、その液体に触れたであろう、足元の草木が枯れているからだ。
名前をつけるとしたらアンデット・ドラゴンと言ったところか?
「あれはなんですか……?」
「一見ドラゴンに見えるが……」
「ドラゴンのアンデットバージョンみたいなものだろうな。見てみろ、あの垂れて液体みたいなのが湖に入っている」
アンデットドラゴンの周りには奴から垂れた液体で、水たまりの様になっており、それが湖へと流れている。
「あれが湖を汚し、世界樹に影響を与えていると?」
「あぁ、十中八九そうだろうな」
「でも、なぜ世界樹だけが影響を?」
「それは分からないけど、世界樹ってくらいだから、森や草木を守ろうとしているとかかもしれない」
「じゃあ、あれをなんとかすれば世界樹は?」
「……おそらく」
「じゃあ私が倒します!!」
「セシリーっ!?」
「セシリー様!?」
俺とゼクスが止めるよりも早くにセシリーは駆け出し、
「ホーリー・ランス!!」
魔法を放つ。
セシリーの放った魔法は神聖魔法であるホーリー・ランスであり、アンデット系の魔物には有効だけど……
「効いてないっ!?」
セシリーの魔法はアンデッド・ドラゴンに当たったけど、その肉が一部剥がれ落ちただけでさほどダメージはないように見える。
相手は腐っても(見た目の意味でも)、ドラゴンだ。
そうそう簡単に倒せないだろう。
すると、セシリーの攻撃でこっちに気付いた。
「きゃっ!?」
「セシリー危ない!!」
アンデッド・ドラゴンはセシリーに気付くと、こちらに顔だけ向けてブレスを吐く。
その動作に気付いた俺は一気に加速し、間一髪のところでセシリーを抱え躱す事が出来た。
「大丈夫か、セシリー?」
「だいじょ……ぶです」
「そうか、よかっ――っ!? ゴメン!!」
俺は謝りながらすぐにセシリーを下ろす。
咄嗟の事だったから、俺はセシリ―をお姫様抱っこの状態で抱えていたのだ。
「いえ、ありがと……ございますぅ……」
というセシリーだが顔が赤い。
てか、人の事を言えず俺も恥ずかしさで顔が熱い。
「セシリー様、お取込み中悪いですが、あいつは待ってくれません。おいショーマ、どうする?」
ゼクスの言葉に我に返ると、アンデット・ドラゴンはゆっくりと立ち上がっているところだった。
「あぁ、そうだな。でも、奴を倒すしかない」
「そ、そうですね。でも、どうやって……?」
魔気を解放すれば簡単だけど、今はセシリーもゼクスもいる。
グラムを使って倒すしかないけど……さてどうする?
「ショーマ見ろ!!」
ゼクスが叫ぶので、アンデッド・ドラゴンを見ると、さっきセシリーの魔法でダメージを受けた場所に腐食した肉が再生していた。
「まさかの再生能力つきかよ……」
確かに剥がれ落ちた肉がそのまま残らないのなら、こんなに長い間、世界樹に影響を与えていないかもしれないけど……それにしても、ドラゴンが再生能力ってのは厄介だ。
力を出さずにセシリーとゼクスを庇って戦うのは安全とは言えない。
「ゼクス! セシリーを連れてエルフの村長に伝えてくれ! それで援軍を!!」
援軍ってのは嘘だけど、こうやってでも言わないとセシリーは引いてくれないだろう。
「っ!? ダメです!! そんな、ショーマさん一人残してなんて!!」
「大丈夫! 俺はクロと一緒にオークキングを倒したんだぞ? これくらいで死なねぇよ」
本来なら死亡フラグってのになりそうな言葉だけど、二人がいなければ俺は全力で戦う事も出来るし死ぬことはない。
「……分かった! ショーマ、死ぬなよ! さぁセシリー様早く!!」
「でも、ショーマさんが!!」
「奴なら大丈夫です! あいつの実力は私が証明します! むしろ、私たちがいた方が足手まといかもしれない!!」
「でも……」
「今、私たちに出来る事はショーマを信じて早く援軍を連れてくる事です!」
「分かりました……ショーマさん、死なないでくださいね」
「あぁ、当たり前だ。クレイの野郎に貸しを作ってやるって決めたしそれまで死なねぇよ。闇夜の黒騎士は一度決めた事は必ずやりとげるからな!」
そう言って俺は親指を立てポーズを取る。
すると、セシリーは少し微笑んで小さく「本当、バカなんですから」って呟いてゼクスと一緒に去って行った。
ヤバイ、少し格好つけすぎて呆れられたか?
でも、笑ってくれてたし大丈夫だろう。
そして、二人の背中を見送った俺はアンデッド・ドラゴンに向き直った。
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