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ここが勝負どころだと思った

「勘違いしてすまない」


 俺達の前では今、リタのお父さんである男のエルフが頭を下げている。

 そう言うと簡単に誤解が解けたように思えるが、実はそうではない。


 あの後、案の定ゼクスの強面の顔に警戒を強めたリタのお父さんは魔力を高め、魔法を放つ態勢に入ろうとした。

 それに気づいたゼクスは誤解を解こうと再度前に出ようとしたけど、それを止めたのはセシリーだった。


 前に出ようとするゼクスを制し、前に立って「ゼクスの言う通り、私たちは危害を加えるつもりはありません」と言うと、それに反応してリタも「お父さん、私その人に怪我を治してもらったの!」と言った。


 すると、リタのお父さんは少し困惑しながらも魔力を抑え、話を聞いてくれるようになった。

 それでセシリーとリタが(もちろんゼクスではない)さっきまでの事を説明して、リタのお父さんも状況を理解してくれたという訳だ。


 ちなみにリタの方は、セシリーのおかげですっかり信用してくれたみたいで、今はクロと一緒に遊んでいる。


 それにしても、エルフは美男美女っていうけど、これほどとは……。

 リタのお父さんもかなりのハンサムイケメンだし、リタも美少女だ。

 こんなのがエルフの里にはいっぱい……やっぱりセシリーを連れて来ない方が良かったかも。


「こちらこそすまなかった」


 俺の思考が違う方向に行きかけたところで、ゼクスが謝る。


 うん、おまえは謝っとけ。

 空気読まずにややこしくしたんだから。


 むしろ、俺達にも謝罪するべきだ。



『はは! 確かにな! あのおっさんの顔じゃ初対面ではきついな!』


『おぉ、珍しく意見があったな、グラム』


「本当こちらこそすいません。エルフの森に入ってしまって」



 グラムとゼクスの事について意見が一致して盛り上がっていると、セシリーも謝罪の言葉を口にする。



「いや、勘違いしたのはこちらのミスだ。申し訳ない。でも、人間がなぜエルフの森に?」


「それは……」



 セシリーはそう言うと、俺に視線を送ってくる。

 本当の事を言うか、迷ったと答えるか、どっちにするかって事だろう。


 今までは、セシリーに話を任せる方がスムーズだと思って黙っていたけど、ここからは俺の出番だ!

 決してゼクスみたいな勘違いではない!!


「実は――」


 ここは正直にすべて話すべきだと思い、エルフの森に来た理由を話す事にした。

 お世話になっている人の子供が原因不明の病に罹ったこと、それを治すにはエリクシールしか手がないと言われたという事、そしてエリクシールは希少な上に高価で、普通に入手できないので、エルフの森へ来て何とかエリクシールの元になる世界樹の葉をもらえないかと思ってやってきたという事、そしてこれは俺一人が一個人として行動している事であり、人間の国もギルドも何も関係ないという事、そのすべてを話した。


 そして、俺の話を聞いたリタのお父さんは難しい顔をしながら「う~ん……」と言って腕を組んで考え込んでしまった。


「難しい事は承知しています。でもそこをなんとか!!」


 俺は考え込んでいるリタのお父さんに向かって頭を下げ、もうひと押しする。

 元々簡単に行くものではないと思っていた。


 でも、こうやって偶然にもエルフと接触できたのだ。

 ここが勝負どころ。


 いつもは軽口を叩くクレイが、あんなに元気のないクレイは初めて見た。

 俺がすべての人の命を救える訳ではないのは分かっている、でも、助けられる命なら助けたい。

 その為に俺にできる事は何でもやるしかない!


「エルフは義理固い。私も娘を助けてもらったお礼に何とかしてあげたいが、今は……」


「そこをなんとか!」


「……私の一存では話せないことがある。村長のところに連れて行こう」


 話せない事?

 ひっかかるような言葉の表現に気になったけど、俺達は村長のところへ案内してもらう事にした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「なるほど、そういう事じゃな」



 俺達はあの後、リタのお父さんに連れられ、迷うことなく無事にエルフの村へと辿りついた。

 聞くと、やはりこの森には結界があってエルフと一緒、もしくはエルフの許可を得た者しか辿り着けないようになっているらしい。


 村に入ると、俺たち人間を見て驚く者、蔑む目で見る者など、あまり歓迎された様子ではなかったけど、リタとリタのお父さんに連れられているという事で危害を俺は村長にリタのお父さんに話した時みたいに、ありのままをそのまま伝えた。

 すると、村長もリタのお父さんの時と同様、同じように悩んでいる。


「なんとかお願いできないでしょうか?」


 こんなチャンスはないとばかりに俺は押す。

 セシリーも同様に思っているのか、真剣な表情で村長を見つめ、ゼクスもここは空気を読んで大人しくしてくれている。



「……ダメじゃ」


「「「っ!?」」」



 村長の口から出た言葉はノーという返事だった。

 くそ、ここまで来て……やっぱり世界樹の葉をそうやすやすと渡せないって事か……いや、諦めちゃダメだ!



「そこをなんとか! 子供を救いたいんです!!」


「ショーマさん!?」



 俺は村長に向かって土下座をする。

 異世界、しかもエルフ相手に土下座の意味が伝わるかは分からない。


 でも、俺が今出来るのは必死に頼むことだけだ。


「どうか……どうかお願いします!!」


 俺は頭を床につけながら懇願する。



「ショーマ殿だったか……顔を上げてくれ」


「いや、世界樹の葉を頂けるまでは!!」


「違うんじゃ、世界樹の葉をあげたくても今はその葉がないのじゃ」


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