迷子になった
「なかなか辿り着けませんね」
「キュウ~」
セシリーの言葉にクロが落ち込んだ鳴き声で返す。
どういう状況かというと、簡単に言えば俺達は今迷子なのだ。
世界樹らしきものを見つけ、俺達はそれに向かって馬車を進めたのだが、いっこうに世界樹に近づく様子はなく、それでクロに空から案内を頼んだのだが、どうした訳かそれでも近づくことが出来ずにいる。
確かに進んでいるはずなのだが、辿り着けない……そんな状況に空から案内していたクロが申し訳なさそうにしているのだ。
「違うのよクロちゃん、クロちゃんは頑張ってくれているもの」
そう言ってセシリーはクロを胸に抱き頭を撫でる。くそ、クロの代わりになりた……ってそうじゃない。この状況をどうにかしないと。
「なぁショーマ、どうするんだ? このまま進んでも一緒じゃないのか?」
「分かってるって。たぶんこれは世界樹に誰も寄せ付けない為の結界とかいう類の奴だろうな。これをなんとかしないと世界樹には辿り着けない」
「結界か……それでどうするんだ?」
世界樹を守るエルフは結界を張っているというのはテンプレでよく小説とかであったけど、結界破る方法なんてのはそうそうなかった。
だいたいはエルフと仲間で入ったりとか迷っているうちについたりとか、何かの迷宮抜けると……みたいな展開が多いしな。
だとしたら、このまま迷い続ければいいのか……?
「ん? あれは――?」
すると、俺達の前方の川沿いに倒れている人影のようなものを見つけた。
俺はすぐさまゼクスとセシリーに伝え、その影へと近づいた。
「おい、大丈夫か?」
近づくとその影は耳が長く、綺麗な顔立ちをした漫画で見たエルフそのものだった。さらに、このエルフは若いというより、まだ小さく子供の女の子ようだ。
「ん…ん……わたし……」
「大丈夫か? 何があった?」
何度か呼びかけるうちに、エルフの少女はゆっくりと目を開けた。
「キャア! 人間!!」
「グホッ!」
エルフの少女は目を覚ますと、俺の顔を確認し強烈な右ストレート放ってきた。
「ショーマさん大丈夫ですか!?」
あまりに突然の事でモロに喰らって吹っ飛ばされた俺を心配してセシリーが駆け寄って来てくれる。
まさか少女に顔を殴られる日が来るとは……セシリー、君が来てくれたのだけが俺の救いだよ。
「あぁ、大丈夫。それより……」
俺はエルフの少女へと視線を向ける。
エルフの少女は怯えて身体を揺らしながらもこちらを睨んでいる。
こりゃ完全に人間に怯えているな、さてどうしよう?
すると、俺の心をを読んだかのように、セシリーはゆっくりとエルフの少女の元へと歩み寄り、にっこりとほほ笑みかけ屈んだ。
「大丈夫? 怪我はない?」
エルフの少女は予想と違ったのか一瞬呆気に取られた表情を見せたけど「大丈夫……」と言ってすぐに俯いた。
「あっ、怪我してる! ちょっと待って!」
そう言うとセシリーは「えっ!?」と戸惑うエルフの少女をよそに、治癒魔法を後頭部にかける。
どうやら何かの拍子で後頭部を打ったか何かで怪我をしていたようだ。
それが俯いた事でセシリーに見えたらしい。
「これでもう大丈夫よ」
「……ありがと」
治癒魔法をかけ終えたセシリーがにっこり微笑みかけると少女は戸惑いながらも感謝の言葉を述べた。
「どうして頭を怪我したの?」
「……木の上で滑って落ちたの」
セシリーの問いかけに、警戒しながらも症状は言葉を返す。
いや、木の上から滑って落ちたってよく大丈夫だったな!?
「そう、でも気をつけないとね。お母さんとお父さんが心配するよ?」
「……うん! リタ、気を付ける!」
さすがセシリー、この短時間で俺の顔面を殴ってくる少女を懐柔するとは……。
「その子から離れろ!」
ほっとしたのも束の間、新たな声が鳴り響く。
「お父さん!!」
その声にエルフの少女リタが反応する。
これってちゃんと説明しないとややこしくなる展開じゃ……。
「いや、我らは危害を加えるつもりはない!」
ここまで静かに見守っていたゼクスがここぞとばかりに前に出る。
ここは年長者としてしっかりと誤解を解かないといけないと思ったんだろうけど……いや、ここは強面のあなたが出ると余計にややこしくなりますよ?
俺は内心ヒヤヒヤしながらもここで自分まで動いてはマズイと思い、この場を見守ることにした。
次回は3日(土)の更新予定です。
明日は無理そうで……申し訳ありませんm(__)m




