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新たな面倒事の予感

「……」


「……」


 取り残された俺とセシリーの間に沈黙が流れる。

 フィリスさんのおかげで事態は収拾したけど、フィリスさんのせいでセシリーと気まずくなってしまった。


 俺の中では何やら嬉しい気持ちとどうしていいのか分からない気持ちでごちゃごちゃだ。

 でも、せっかくセシリーとの関係を修復する機会だ。

 ここは俺がなんとかしないといけない。


……いや、関係修復よりも関係進める努力をした方がいいのか……?


「セシリー」


「あっ、はい!?」


 急に声をかけられセシリーはびっくりした顔をして返事する。


「あのさ~」


「はい」


「また今度一緒に依頼受けよう」


 俺の言葉にセシリーは一瞬ポカンとしたけど、すぐに微笑んで「そうですね。一緒に依頼受けましょう」と言ってくれた。


 ここで俺の気持ちを伝えるかどうか迷ったけど、俺がちゃんとふさわしい男になって、ちゃんとした自分の意思で言わないといけない。

 こうやってフィリスさんが整えてくれた場で言ってもダメだ。


 ネリーさんが言ってたように自分の意思で、自分の言葉で伝えてその結果を受け取らないといけない。

 今の状況で言うのはある意味卑怯だと思う。


 俺はその後、しばらくセシリーと談笑して城を後にした。


 訓練場を後にする時にルークスに「僕とゼクスがいるのを忘れないでよ」と言われ、セシリーと二人顔を赤くしたのは言うまでもない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「まさかこの闇夜の黒騎士を動かせなくなる程の圧力を持つものがいるとは……まだまだ修行が足りん」


 セシリーとまた今度依頼を一緒に受ける約束をして、闇夜の黒騎士装備に着替えた俺は闇夜の黒騎士となって城を後にし、来た時と同じように屋根を移動しながら宿屋へと向かい、フィリスさんの事を思い出していた。

 あの圧力は俺が今まで受けた中でも段違いに一番だ。


 まさか身動き取れなくなるなんて……世の中で一番強いのは女性じゃないだろうか?


「ん? あれは……」


 そんな事を考えながら移動していると、騒ぎ声が聞こえてきた。


「事件が俺を呼んでいる!」


 闇夜の黒騎士となっている俺はすぐさま、その声がする方へと向かった。




「君たち、こんなところで騒いじゃダメじゃないか!」


「へっ、俺達が悪いんじゃねぇ! そいつが先にぶつかってきたんだ!」


「いやいや、そっちが先だろ!」


「みんな、やめてくださぁーい!」


 声の聞こえる場所が近くなり、その様子が見えてくると、そこには何ともありきたりな光景が広がっていた。

 大柄な男を挟んで真ん中に、茶髪で冒険者らしい恰好をした爽やかな青年と青い髪のボブの可愛い顔したローブ姿の女の子が立っている。


 茶髪の爽やかな青年は二人を止めようとしているけど、大柄な男はそれに気にしないで言い争っている。

 そして、その男三人の間で青い髪のボブの女の子があたふたしていて、その四人を囲むように人が群がっている。


 何だろう……なんかめんどくさいような展開だな。

 でも、闇夜の黒騎士として、この騒ぎをほっておく訳には行かない。


「やるか?」


「なんだぁ?」


「だからやめなって!」


「うるせぇ! いくぞ、うらぁぁぁあああああ!!」


 大柄な男二人は、俺が駆けつれるより前に言い合いから殴り合いに発展し拳を振りかざす。


 ヤバイっ!


「なんだおめぇは!?」


「俺は闇夜の黒騎士だ。俺の庭で暴れる事は許さん」


 やばいと思った俺は速度を上げ二人の間に入り、一人の拳を受け止める。


「闇夜の黒騎士か、格好いいね!」


 俺が拳を止めた男と反対側の男の拳は、茶髪の爽やかな青年が受け止めていた。


「こ、こいつらなんだ……?」


 大柄な男二人は、決して大柄ではない俺と茶髪の青年に拳を止められ驚愕している。

 それにしても、闇夜の黒騎士を知らないとはこいつらよそ者か。


「えぇい! 邪魔だ!」

「どきやがれ!!」


 男二人は俺達に拳を止められた事で、余計に頭に血が上ったのか反対の拳を振り上げる。


「や、止めてください!!」


 その時、女の子の叫ぶ声がして振り返ると……


「ウソだろ……」


 あまりの光景に俺は言葉を漏らす。

 そこには、大きな氷の魔法を発動させ放とうとしている青髪の女の子の姿があったのだ。


 いやこれ、俺は何とかできるけど一般人に放ったらあかんレベルだろ!?

 それにこれって結構、強力な魔法じゃね!?


「わ、わかった。止めるからそれをなんとか……」


「そうだぜお嬢ちゃん俺達は――」


「止めてって言ってるです!!」


「「「えっ!?」」」


 俺と男二人の言葉がシンクロする。

 男二人のケンカを止めるつもりだったのに、もはや言葉が耳に届いておらず、女の子は魔法を放った。


 いやいや!

 ちゃんと人の話は最後まで聞こうよ!?

 てか、まずはこれをどうにかしないと!?

 よし、やるしか――!?


「っ!?」


 俺が、女の子の放った魔法をなんとかしようとするより前に、茶髪の青年が背負っていた剣を振り抜いた。

 すると、その斬撃で氷はバラバラになって消えた。


「こら、ミリア! この人たちケンカ止めるって言ってたんだし、最後まで人の話聞かないとダメじゃないか」


「ご、ごめんなさい。あの人たち顔怖かったから……」


 子供を怒るようにして言う青年と子供が怒られたように凹む女の子。


 いやいや!

 二人とも天然か!

 人の話を最後まで聞くとか以前に、その威力の魔法を街中で放ったらダメだろ!?

 それに顔が怖かったからってどんな理由だ!?


「お、おまえら何者だ!?」


 さっきのに驚いた男が二人に問いかける。

 すると、茶髪の青年は振り返ってニコッと微笑んだ。


「僕はセイクピア王国のSランク冒険者、アースさ!」


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