惚れ薬の効果
「おい、ヨーテル」
「はい、なんでっか?」
俺とカイトとヨーテルの三人はあの後、ネリーさんのところで手続きして街を出た。
移動にはヨーテルの用意した馬車を使用していて、俺とヨーテルは馬車の中にいる。
なんでヨーテルがいるかと言うと、なんでもSランク冒険者の実力を見てみたいかららしい。
そして、カイトはと言うと、やる気がみなぎっていて自ら御者をかって出て今は外にいる。
Sランク冒険者のやる気が出るとこわいものだ。
そして、今はヨーテルと二人っきりという嬉しくないシュチエーションなのだが、せっかくの時間を有効利用しようといろいろ確認しておく事にした。
「さっきの惚れ薬の話だけど……」
「なんやショーマさんもやっぱ使うつもりなんでっか?」
「違うわ! 使わねぇよ! 俺じゃなくて使いそうな奴がいるから本当に効果があるのか聞いとこうと思っただけだ」
「あ~……」
そう言ってヨーテルは視線を馬車の前方へ向ける。
こいつやっぱり……。
「……やっぱりおまえ、ギルドの中のは確信犯だな?」
「いやいやショーマさん! そんな怖い顔で見んとってくださいな! まぁあれは確信犯と言えば確信犯でっけど、わては安く安全な依頼達成を、そしてショーマさんには報酬、Sランク冒険者さんにはきっかけを作ろう思っただけですわ! それに安心してください! 惚れ薬言うても実際はそんなもんじゃなくてただのちょっと強い滋養強壮剤ですわ」
「滋養強壮剤……?」
「そうですわ! ちょっと効果の強い滋養強壮剤ですさかいに、飲んだら身体が熱くなって目の前の……って話ですわ」
そう言ってヨーテルは下卑な笑みを浮かべる。
いやいや! それってアカンだろ!?
「でも、安心してください。耐えられへん訳ちゃいますし、お互いに少しでも好意がないと効果はほぼありません」
ヨーテルはそう言うと「だから、わてはきっかけとカイトさんに大丈夫という自信をつけさせる為に仕掛けたんですわ。誰もが害なく得する。これを商人の世界ではウインーウインって言うんですわ」といって両手を人差し指と中指をクイクイと曲げて俺に言う。
まさか日本の知識が商人の世界にあるとは……ってそれじゃない!
でも、効果がないからってこのまま見過ごしていいものなのかどうか……うーん……。
「それより、ショーマさんの方はどうなんでっか? うまくいってないなら惚れ薬使ったら、ショーマさんとお嬢さんの関係ならすぐに――」
「うるさい!! この話は終わりだ!」
俺はそう言ってヨーテルとの話を切って外を見た。
決して惚れ薬の効果で寄り添ってくるセシリーを想像した訳ではない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて、いくぞショーマ」
「気合入りすぎだカイト、こえぇよ」
俺達はサラマンダーがいるという火山へとやってきた。
ここまでの道のりは馬車で三時間。
長い間馬車に揺られてやっと着いたかと思って、馬車から降りるとこれだ。
カイトのやる気が怖い。
ちなみにここまでカイトを説得しようと試みたけど、今のカイトには俺の声が届いていない。
おそらく、ネリーさんの前で醜態をさらした事と焦りとで完全に自分を見失っているのだろう。
とりあえずなんとか冷静になるのを待つしかない。
「なにがだ? 素早い依頼の遂行をしてこそ高ランクの冒険者だろ?」
「……」
ダメだこいつ……。
恋って人をダメにする時があるっていうけど、まさしく今カイトがそうだな。
「さぁいくぞ」
「あぁ、分かったよ」
そう言って俺は折れてカイトについて歩き出した。
「ちょっと置いてかないでくださいよ!」
すると、後ろでヨーテルが俺達を呼ぶ。
「こんなとこに置いてかれて魔物が出たら死んでしまいますがな! それに馬車もありまっさかいに!」
そう言われればそうだ。
「じゃあカイトはここに残って――」
「いや、俺が行こう。ショーマは残っててくれ」
「ちょっ、カイト!!」
俺が止める間もなく、カイトはものすごいスピードで姿を消した。
『こいつ、恋したらあかんタイプの人間じゃないだろうか?』
俺はそんな事を思いながらカイトが消えて行った先を見ていた。
そして、ヨーテルは「これがSランク冒険者……」と呟いていたけど、俺は同じ冒険者として『Sランク冒険者ってこれでいいのか?』と思った。
ちなみに、クロは興味がないのか馬車の揺れが気持ちよかったのかずっと寝ていて、グラムはずっと心の中で笑い声を発していた。




