同志
更新遅くなりすいません。
風邪で倒れてました。
「さて、今日もギルドへ行くか、クロ」
「キュウ!」
ゴブリン王とオークキングの討伐から一週間。
街は祭りの熱気も収まり平穏を取り戻し、日常が戻っている。
と言っても、俺はショーマとしてはあの討伐隊には参加してない事になっているので、建前上はクロの活躍の成果となっている。
Bランクに上がったので、俺は上位の冒険者となったし依頼の内容も難度が上がり、少し楽しくもなってきたので仕事(依頼)に精を出している。
『それにしても今日も連絡ないな。嫌われたんじゃないのか?』
『……グラム、留守番するか?』
『ジョーダン、ジョーダンだっての!』
あの祭りの日、酔って寝てしまったセシリーを俺は結局、おんぶして送る事にした。
お姫様抱っこは俺の恋愛経験値ではできなかった。
そうして、おんぶにしたけど、それはそれでまずかった。
背中に感じる弾力と、顔のすぐ横にあるセシリーの顔とで、俺の心は煩悩で支配されかけたのだ。
それでも、なんとかその煩悩を頭から追い出し、無心になってセシリーを送った。
そして、城に近づくと案の定、ルークスが馬車を用意して待ち構えていて、「王女様をおんぶするなんてさすがだね」とか笑顔でからかってきやがった。
俺はそれに答える事をせずに酔った経緯を説明して馬車に乗せ、その場を後にした。
そして、その日以降、俺の通信イヤリングは鳴っていない。
俺がかけてもスイッチを切られていて繋がらないし、あれからセシリーとは会う事も話す事も出来ていない。
ここになってスイッチを切られる側の気持ちが分かるとは……。
「まぁ仕方ない、とりあえずギルドに――」
「ショーマァァァアアアアア!!」
なにやら聞き覚えのある声が、大きなボリュームで俺を呼んでいるのが聞こえ、振り返るとそこにはカイトが叫びながら走ってきていた。
あいつ、これだけの人前で大きな声出せるなら、人見知りっていうのか……?
「どうしたんだ、カイト?」
「ショーマ、相談に乗ってくれ!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺はギルドへ向かう途中でカイトに出会い、そして相談に乗ってくれと言われ、俺が返事を返す間もなく、カイトに拉致され、男二人店で対面になって無言で座っている。
さっき頼んだ飲み物を置いて行った店員さんも、なんとも言えない表情してたし……なんなんだこの光景は……。
「それで何の相談なんだ?」
このままでは埒があかないと思った俺は、カイトに声をかける。
「……笑わないか?」
……いや、何の前触れもなしに『笑わないか?』って聞かれてもな。
「いや、聞いてみないと分からん」
「そんな事言うなよ~」
なんだろう?
最初に会った時は武士のような印象を持ったけど、接していくうちに最初のイメージが崩れていく。
今のカイトは本当、Sランク冒険者には見えない。
というか、最初もSランク冒険者には見えなかったけど。
「まぁとりあえず話してみろって」
ここままでは本当に埒があかん。
それに、もたもたしてたらネリーさん達の休憩時間が終わって、クレイに仕事させる時間がなくなる。
カイトは、しばらくどうするか悩んだ後に口を開いた。
「実は俺、ネリーさんの事が好きになったみたいなんだ」
「……はっ?」
今こいつなんて言った?
「いや、だからネリーさんの事が好きになったんだ」
「……」
俺の耳が正常なら、そして俺が幻影魔法でもかけられていないならば、カイトはネリーさんの事が好きになったと言っている。
そして、カイトは俺に相談があると言っていた。
という事は……。
「……恋愛相談」
俺の呟いた言葉に、カイトはビクッとして姿勢を正した。
「そ、そうだ。こんな話できるのはショーマしかいなくて……」
カイトは真っ直ぐな眼差しで俺を見ている。
うん、これはどうやらどっきりでもなく本気のようだ。
それにしても恋愛相談か……。
「……笑わないのか?」
「当たり前だろ! 俺達は親友だ!」
同じ片思いをしているカイトは、同志であり仲間であり親友だ!
俺は手をカイトへ差し出し握手した。




