ショーマと闇夜の黒騎士、セシリーとシシリー
「ショーマさん、今の私はシシリーです」
俺は開口一番セシリーに怒られた。
今のセシリーはローブ姿で三つ編みにしている。
と、いう事はセシリーではなくシシリーとして街にいるという事だ。
ここの設定を間違うのは俺が闇夜の黒騎士である時にショーマと呼ばれ困るのと同じだ。
くそ、またやってしまった。
ここは素直に謝らないと。
「ごめん、シシリー」
「もう、気をつけてくださいよ」
「分かってる。でも、なんでここに?」
「お祭りに行ってみたくて、抜け出してきちゃいました」
そう言ってテヘペロするセシリー。
いや、可愛いけど……メッチャ可愛いけど、テヘペロで夜に抜け出していいの!?
「それって大丈夫なのか!?」
「いいんですよ、たまには私だってハメ外したいですからね。ショーマさんに案内してもらおうと思って探したんですよ?」
「探したって……通信イヤリングで連絡くれたらよかったのに」
「何回かしましたけど、出なかったのはショーマさんですよ?」
マジか……まぁこれだけにぎやかだったら気づかなくても……でも、俺が悪いな。
「ゴメン、シシリー」
「いいですよ。それより、さぁ行きましょう」
「ちょ、ちょっと!」
俺はセシリーに手を引かれ歩き出す。
でも、やっぱり王女が夜の街を歩くって……まぁ大丈夫か。
セシリーは実力もあるし、それにきっとどこかでルークスの奴が見守ってたりするだろうし。
それに、俺が守ればいい訳だしな。
でも、良く考えたら夜の街でセシリーとデートか。
これってかなり心を近づけるチャンスじゃないの!?
これは失敗できない!!
俺の心の中で何か気合が入るのを感じた。
それにしても、やっぱりセシリーは力が強い……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「すごいですね! 夜なのにこんな賑やかなんて! あっ、ショーマさん、あれ見てください!」
そう言ってセシリーは屋台を回る。
今日は祭りという事もあって出店も多い。
そうやって俺とセシリーは街中を歩いて、クロと一緒に食べ歩きをする事にしたのだった。
「あっ、ショーマお兄ちゃんだ! あっ、シシリー姉ちゃんもいる!」
そうして街を回っていると、俺達を呼ぶ声が聞こえ、振り返るとリリとララがいた。
「どうしたんだ、こんな時間に……まさか――」
「違うよ! 抜け出したんじゃなくて今日はみんなでお祭りに来たの!」
そう言ってリリは後ろを振り返り指をさす。そこにはマリアさんや孤児院の子供たちがいた。
「そうなの、リリちゃんとララちゃん良かったねぇ~」
セシリーは二人の前に屈んで頭を撫でる。
なんかこういうのすごい良い光景だな。
「うん! みんなでお祭り楽しいの! そうだ、お兄ちゃん、お姉ちゃん聞きたいことあるんだけど……」
そう言ってリリは俺とセシリーに目配せする。
聞きたい事? なんだろう?
それにしてもララはさっきから口を開かないけど……。
「なあに?」
すると、セシリーが微笑みながらリリに言葉を返した。
「あのね、私とララ、また闇夜の黒騎士さんに助けてもらったの。それでお礼が言いたいんだけどお兄ちゃんとお姉ちゃんは闇夜の黒騎士さん知ってるかなと思って……クロちゃんは闇夜の黒騎士さんとお友達みたいだったし」
リリの言葉に俺とセシリーは顔を見合わせる。
マジか……でも、ここで適当な事言ったらまた二人無茶するかもしれないしな……よし。
「あぁ、知っているよ」
「本当!? じゃあ――」
「リリ、闇夜の黒騎士はよそでまた事件があって仕事で遠いところに行ったんだ。それでしばらくは帰ってこないんだ。だから、また戻ってきたらリリとララのところに行くように言っておくよ」
俺がそう言うとリリは、「そうなんだぁ~」と少し落ち込んだけど「お仕事なら仕方ないよね、じゃあ帰ってきたら来てって言っておいてね! それとおうじょさま? に会ったらごめいわくおかけしましたって言っておいて!」と言ってきた。
そして、その時に後ろからマリアさんが二人を呼ぶ声がしてリリは「じゃあまたね!」と言って走って行った。
「ん? ララどうしたんだ?」
リリは走って行ったけど、ララは俯いたまままだ立っている。
どうしたんだろう?
「ララちゃん、どうしたの?」
セシリーも心配に思ってララに声をかける。
すると、ララは顔を上げた。
「あのね、私とリリを助けてくれてありがとう!」
ララは俺とセシリーに向かってそう言う。
「あぁ、ちゃんと闇夜の黒騎士さんと王女様に言っておくよ」
「違うの、私分かってるの」
「えっ?」
「私目が見えなかったから、匂いとか雰囲気でどの人か分かるんだ。お兄ちゃんとお姉ちゃんの匂いとかは闇夜の黒騎士さんとおうじょさまと一緒だったから……」
「「っ!?」」
ララの言葉に俺とセシリーは顔を見合わせる。
マジか!? 俺とセシリーの正体がばれるなんて……。
「ララ――」
「ララちゃん――」
俺とセシリーは同時に言葉を発し、また顔を見合わせる。
「大丈夫だよ、誰にも言わないから。私はただお礼が言いたかっただけだから……」
「ララ……」
「ララちゃん……」
その時、後ろからララ呼ぶマリアさんの声が聞こえ、ララは「あっ、もういかなくちゃ! お兄ちゃん、お姉ちゃんいつもありがとう!」と言って走って行った。
俺とセシリーは佇んだままその背中を見送り、マリアさんが頭を下げ、子供たちが手を振って去っていくまで言葉が出なかった。
「ったく、まさか正体がばれるとはな」
「そうですね。でも、後悔はないですし、なんだか嬉しかったです」
セシリーの言う通り、正体がばれた事に後悔はないし(あとで少し自己嫌悪になるかもしれないけど)直接お礼を言われるのは嬉しかったな。
「確かにな……さて、続き回るか!」
「そうですね!」
そうして俺とセシリーはまた歩き出した。




