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討伐作戦と主の願い

「ショーマさんっ!」


 ギルドで依頼を受けた俺は宿屋に帰ろうと来た道を戻っていた。

 すると、俺を呼ぶ声が聞こえる。


「この声は……シシリー」


 俺が振り返ると、そこにはフードを深く被って走ってきたのだろう、息を切らしているシシリーの姿があった。


「どうしたんだ?」


 なんでそんな走ってきたんだろう。

 何か急用かな?


「申し訳ありません!」


 俺が聞くなり早々にセシリーは頭を下げる。


「いやいや! 急に頭を下げられても……とりあえず顔を上げて」


 俺がそう言うとセシリーは顔を上げて俺の目を見てくる。

 うっ、こんなマジマジ見られると恥ずかしい……。



「そ、それで急にどうしたんだ?」


「どうしたもこうしたも……ショーマさんに危険な目を合わせる事に……」



 あぁ、さっきの件か。



「もしかして、オークキングの事?」


「……はい」



 セシリーは気まずそうに少し視線を逸らしながら返事する。



「その件なら気にする事ないって。別にゴブリン王くらいなら大丈夫だ。ルークスより強くはないだろ?」


「はい……でも、相手と一対一で戦う訳ではありません。それこそたくさんの敵に囲まれたら……」



 もしかしてこれは俺の事心配してくれてるのか?


「ふっ、闇夜の黒騎士として依頼を受けた以上、必ず達成させてみせる。もちろん生きてな」


 俺はちょっとカッコつけてセシリーに言う。


「ショーマさん……」


 セシリーが俺の方をじっと見てくる。

 これはもしかして……!?


「今のショーマさんはショーマさんですよね?」


 俺は冷静なセシリーのツッコミにずっこける。



「イテテ」


「大丈夫ですか!? 治癒魔法を――」


「いや、大丈夫。心の傷は治らないから」


「心の傷……?」


「いや、なんでもない。まぁゴブリン王の件は大丈夫」



 俺は心に受けたダメージに耐えながら立ち上がりセシリーに言葉を返す。


「本当に申し訳ありません。ゴブリン王とオークキングが確認されて話し合ってる時にルークスが闇夜の黒騎士の件を話したので……」


 そうか、いくら緊急事態とは言え、闇夜の黒騎士に国からとして話が来るかと思ったらルークスの仕業か。

 あの野郎話しやがったな……。


「あいつ……まぁでも大丈夫。俺もこの街に住む人間としてできる事はしたいしね」


「ショーマさん……」


「だから任せといて!」


 そう言って俺は親指を立ててセシリーに言う。


 どっちにしてもいい機会だ。

 グラムの力を試してみよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 あれから三日。

 俺は今街の広場にいる。

 広場にはたくさんの冒険者や騎士、兵士が集まっている。


 あの後、冒険者たちはギルドに緊急招集をかけられクレイとルークスから事情を聞かされた。

 そして、討伐対が組織され、国の騎士、兵士達も散開する為、合同で何回か会議を行い、今日を迎えた。


「まさかこうしてまたすぐ一緒にショーマと依頼を受ける事になるとはな」


「ふっ、今の我は闇夜の黒騎士。ショーマではない」


 その会議の場で作戦の中心を担うという事で予め俺にカイトに俺の正体を教えていいかと聞かれ、俺が許可してカイトに知らされた。

 カイトなら人見知りの為、下手なところで俺の話をする訳がないからだ。


 そして、作戦の中心になる俺とカイトが紹介されたが、カイトの時は歓声、俺の時はどよめきだった。



「……恥ずかしくないか?」


「愚問だな」



 今の俺はショーマではない。

 闇夜の黒騎士だ。


 もちろん、カイトの言う通りこの依頼が終わった後には恥ずかしさで後悔するかもしれない。

 でも、今の俺は違う。

 今の俺は決して折れない心を持っている。


 それにルークスにもらった仮面によってさらに一つ高みに上ったのだ。


 ちなみに、武器はグラムを持って来ている。グラムは刀身が黒いのが目立つけど、刀身さえ隠せばバレないと思い、刀身を布で覆って持ってきた。

 相手が王を名乗る以上、俺も魔王として手加減はしない。



「俺には恥ずかしくて出来ないな」


「甘いな。それでは人見知りは直らんぞ?」


「いや、それはそうだけど、その恰好だけはしたくない」



 この素晴らしい衣装の良さが分からないとは、まだまだカイトは子供だという事だな。

 

 そして、あれこれ俺とカイトが話していると周りがざわつき出した。

 どうしたんだろうか?

 出発までまだもう少し時間があるのに。


「闇夜の黒騎士様!」


 ん?

 この声は……。


「どうされた? 主よ」


 振り返るとそこにはシシリーではなく、王女セシリーがいた。闇夜の黒騎士である俺は以前に勝手にセシリーに忠誠を誓い、騎士となっている。

 だから、今の俺としてはセシリーは主だ。


 「実は……」そう口を開いたセシリーだが、護衛の騎士がいるのに気付き護衛の兵士を下げさせる。

 そして、小声で話し出した。


「リリちゃんとララちゃんが山に行ったみたいなんです」


「なに!? いったいどういう事だ!?」


 今この街ではゴブリン王とオークキングが確認されたことにより、山へ近づく事を禁じられている。

 それなのになぜ!?



「実はさっき城の方にマリアさんが来たんです。それで門の前で何か叫んでいて兵士に止められていたのですが、たまたま近くを通った私が話を聞いたんです。すると、リリちゃんとララちゃんが……」


「……なぜ二人は山へ行ったのだ?」


「それがマリアさんの話を聞くといつも光明草を持って来てくれる闇夜の黒騎士さんとシシリーちゃんにお土産を渡す……山にある果物を渡すって言ってたみたいで……もちろん、マリアさんは事情を説明したみたいですが、朝起きたらいなくなってたって……それで、街の中を探しても見つからないって言ってて、それで私の指示で兵士達にも探してもらったのですがいなくて……」


 なんて事だ。

 俺とセシリーが原因となっているなんて……。


 でも、どうやって門番の目をかいくぐったんだ?

 ……今はそれを考えていても仕方ない。


 街にいないならどうにかして出た可能性が高い。


「もしこれで二人に何かあったら私……私……」


 そう言ってセシリーは俯く。

 まさか自分のせいで幼い子の命に危険が迫るなんてセシリーの性格からしたら耐えられないだろう。


 そして、それを知っても動けない自分。


「……分かった。この闇夜の黒騎士が主の願いを叶えよう」


 俺はそう言ってその場を駆け出す。

 セシリーは自分が動きたくても動けない立場。


 それにシシリーとしての自分との接点である孤児院の事を優先したい気持ちと、王女としてみんなの生活の安全を考えなければならないって心といろいろ葛藤があるだろう。


 ならば、シシリーを知っている俺、そして忠誠を誓った俺が両方を何とかする。

 主……セシリーの笑顔、そしてリリとララの為に!!


 俺は背後からセシリー、カイト、その他多くの声が聞こえたけど、それを振り切るように走った。


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