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成長と絆

 二頭の戦いは一進一退となって続いている。

 竜気のようなものを駆使してスピード……いや、力も上がっているだろう相手にクロはカウンター気味に攻撃を返し、お互いに身を削っていた。


 しかし、その勝負も勝負を決する時が来た。


『次で決める』


 お互いがそう思っているのか、二頭は距離を取って、ひと呼吸置いたかと思うと同時に動き出した。


「クロ!!」


 黙っている事が出来ずに俺は叫ぶ。


「っ!?」


 クロが 一瞬こっちを見たかと思うと、クロの身体からオーラが発する。


 何だ?

 何が起きた?


 俺がそう思った瞬間にドラゴン達も呻き、カイトも「何が起きた!?」と叫んでいる。

『いや、それは俺も知りたい』と思ったけど、それよりも先に目の前の光景に意識がいった。


「おいショーマ、何が起きたかは分からんがやったな!」


「……あぁ」


 その光景を見て言葉を発する事ができないでいると、カイトが声をかけてきた。


 そう、あの瞬間にクロに何が起きたかは分からなかったけど、次の瞬間にはクロは相手のスピードを上回り、相手の攻撃を躱した上でカウンターを入れ、一発で吹き飛ばした。

 そして、相手は意識を失ったのか、動かなく、それを心配して母親のドラゴンが飛んで行った。


 俺はその光景を見てなぜか何も言葉が出てこなかった。

 驚いたと言えば驚いたがそれとは違う何か。


 なんて言えばいいのか分からないけど、今まで守らなければならないと思っていたクロが、成長していつまでも子供じゃないというのを見たからだろうか。

 もちろん、今までにもクロは多くの魔物を倒してきたし、強さもあった。


 でも、今回は自分の意志で戦い、最後まであきらめる事無く、そして、自分の限界を突破して相手を倒した。

 おそらく自分の中に眠っていた相手が使った竜気のようなものを自ら発動させたのだろう。

 まさか、この戦いの中で成長し強くなっていくとは……。


 それが嬉しくもあり、また自分の手から離れて行くような気もして寂しくもあり、正直、何とも言えない複雑な気持ちになった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



『後継者ガ決マッタ。マサカ見ヨウ見マネデ竜気ヲ発動スルトハ・・・・・・ココマデ育テテクレタ礼ヲ言ウ』


 戦いが終わって何とも言えない気持ちになっていると、竜王が話しかけてきた。

 クロ達が戦っていた場所では、相手の傍に母親が降り立ち、介抱している。

 クロはというと、傷ついた身体でも自分で立ち上がりこちらに来ようとしていた。

 本来ならすぐに駆けつけている場面なんだろうけど、複雑な心境だった俺は呆然と立っていた。


 そんな俺の心境を理解したのか、カイトも少し沈痛な面持ちで俺を見ている。


「……あぁ、そうだな。クロが次の竜王だ」


 それでも、クロがドラゴンである以上、俺といるよりも同じドラゴン……まして竜王として認められ、同族と暮らせるならそれが一番だろうと思い、言葉を返す。


『フム、ココマデ育テクレタ事、感謝スル。コレヲ』


 そう言って竜王は何かを差し出してきた。


「これは……」


 竜王が差し出してきたものは、虹色に光る丸い宝石のようなものだった。


 差し出してきたといってもそれは爪で差し出してきたとかそういうものではない。ドラゴンが……いや、竜王のみ使えるのか分からないが、重力魔法のような類のものでそれは浮いて俺の目の前にやってきた。


『ソレハ友好ノ宝玉ダ』


「「っ!?」」


 俺とカイトは竜王の言葉に驚く。友好の宝玉……それを求めて俺はここまで来た訳だが、なぜそれを……?


『息子カラ聞イタ。自分ヲ育テクレタ者……ショーマガコレヲ求メテイルト。自分ガ勝テバ、自分ガ次ノ竜王。自分ハ人間ト仲良クスルノヲ臨ムカラ勝ッタ時ハ友好ノ宝玉ヲショーマ二渡シテ欲シイト』


「っ!?」


 俺は竜王の言葉に再度驚く。


 クロが竜王に話していた……?

 もしかして、後継者を決める戦いの前か?


『我ガ息子ハソナタ……ショーマ二感謝シテイタ。ソレ二我ガ愛シタ者モキット感謝シテイルダロウ。モチロン我モショーマ二感謝シテイル。ダカラコレヲ』


 そう言って、竜王は俺に友好の宝玉を手に取るように言ってくる。

 でも、俺は何もした訳ないのにこれを手にしていいのか分からなかった。

 頑張ったのはクロで、俺はむしろ手を離れていくクロに素直に応援できないでいたのに……。


「キュウ!!」


 すると、俺も元までやってきたクロが鳴いて服の袖を口で引っ張る。


「クロ……」


『息子…クロモ手二取レト言ッテイル。自分ガココマデ成長出来タノモ、ショーマノオカゲダトナ』


「キュウ!!」


 竜王とクロの言葉に俺の胸は熱くなる。


「でも、俺はクロが手を離れると思って、それで素直に応援できないで……」


「キュウ!」


 クロに申し訳ないと思って顔を伏せると、クロは傷んだ身体で飛んで俺の顔の高さまで飛んで鳴いた。



「キュウキュウ!!」


「……許してくれるのか?」


「キュウ!!」


「……クロっ!!」

 


 熱いものがこみ上げてきて、何かが頬を伝うの感じながら俺は反射的にクロを抱きしめる。


 クロと離れるのは辛い。

 でも、いつかは来る別れ……。

 それに、クロにとって同族と過ごすっては良い事だ。


 ……それは分かっている。

 頭では理解していても感情は抑えきれない。

 偶然に偶然、奇跡が重なって俺はクロと出会った。


 そしてこれまで一緒に過ごしてきた。

 その思い出が脳裏をよぎる。



「クロ……ちゃんとみんなと仲良く過ごすんだぞ」


「キュウ……」



 クロも俺と同じ気持ちなのか、それからしばらく俺とクロは無言で抱き合っていた。


『……ショーマ、イヤ、ショーマ殿頼ミガアル』

 

 すると、俺とクロの様子を見ていた竜王が声をかけてきた。


「……頼み?」


 俺はその問いに顔を向けて聞き返す。


『あぁ、息子が大きくなるまで面倒を見てもらえないだろうか?』


「――っ!? それはどういう……?」


『ソナタハ立派二息子ヲ育テテクレタ。ソレモ我ラガ育テタヨリモ強クタクマシク・・・・・・ダ。ドラゴンノ一生ハ長イ。イロンナ経験ヲシタ方ガ強クナル。ソレハ我モ身ヲモッテ知ッテイル。ダカラ、ヨケレバ息子……クロガ大キクナッテ、ヨリ強キ次代ノ竜王トナレルヨウニイロンナ経験ヲサセテモラエナイダロウカ?』


 竜王はそう言うと厳つい表情を、微笑んだように少し崩す。


 えっ……俺はクロと一緒にいていいのか……?


「……本当にいいのか?」


 俺にだって本当はクロがここにいた方が良いのは分かる。

 仮にも次代の竜王が不在で良いのが良いはずはない。


 それこそ、今の竜王が里を離れた時の前例がある。


 でも、竜王はそれを承知で俺とクロを見て……。


『アァ、大丈夫ダ。今ノ戦イヲ見テ、マダマダ息子タチニ負ケル訳ニハイカナイト、再度思ッタカラナ。ソノカワリ時々顔ヲ出シテクレ』


「竜王……分かった、クロは必ず俺が立派な竜王に育てる!!」


『アァ、頼ム。我ガ友、ショーマヨ』


 いろいろ思う事があったけど、俺もクロと別れるのは正直寂しい。

 だから、ここは素直に竜王の言葉に甘える事にした。


 その代わり必ずクロを立派に育てると誓って。



「これからも一緒だ、クロ!!」


「キュウ!」



俺はクロをもう一度抱きしめて一緒にいれる喜びを分かち合う。


「良かったな、ショーマ」


 すると、話がひと段落したと思ったのか、カイトが声をかけてくる。


「あぁ」


「本当良かったな。友好の宝玉も手に入ったし、クロとも一緒にいれるみたいだし。このままショーマが暗いまま、帰り一緒だと思うと不安だったぞ?」


 こいつ、ここに来て仕返しを……。


「あぁ、俺もドラゴンに囲まれてビビったカイトを連れて帰ると、ネリーさんにどういっていいのか迷ってたんだ」


「バッ!? 違う!! あれは――!!」


 そうして、いつもの調子を取り戻した俺は、しばしカイトといつものようなやりとりをした。


「ん?」


 すると、不意に通信イヤリングが鳴った。

 

 セシリーが?

 いったなんだろう?


「もしもし?」


「ショーマさん!? 忙しいところすいません!! 今大丈夫ですか?」



 慌てながらもちゃんと俺の都合を聞いてくれるセシリー。

 さすがだ。

 この世界には電話応対と言った概念はないはずなのに完璧だ。


「あぁ、大丈夫。どうしたんだ?」


「魔物の大群が押し寄せているんです!!」


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