竜王の過去
「ここは……」
竜王に連れられて降り立った場所は山頂に出来た、谷のような、周りを岩肌に囲まれたスタジアムのようなところだった。
そのスタジアムの観客席にあたるようなところには赤、青、緑のドラゴン達が多くいる。
「おいショーマ、これ少しまずくないか?」
「かもしれないな。でも、とりあえず話をするしかない」
ドラゴンの数に呆気に取られたカイトは珍しく少し弱気だ。
まぁSランクとは言え、これだけのドラゴン相手では多勢に無勢だろう。
俺の場合は本気を出せばなんとでもなると思うけど。
いざとなったら、本気を出す覚悟もしないとな。
でも、ここに来た目的は争いに来た訳じゃないし、とりあえず話し合いが先だ。
竜王は俺達を下ろすと、観客席にあたる場所で一か所だけ空いた場所へと向かい、降り立った。
ドラゴン達は鱗の色ごとに分かれて集まっていて、俺達と一緒に戻って来た赤、青、緑のドラゴンは各色のドラゴン達の中央に戻って行く。
見る感じ他のドラゴンが気を使っているように見えるから、俺達と一緒に来たドラゴンは各色のドラゴンのリーダーなのかもしれない。
そして竜王が戻っていった場所には、黒のドラゴンが固まっている。
漆黒のドラゴンが竜王って事はあれがドラゴンの王家一族ってところか。
鱗の色が息子である証拠って言ってたくらいだし。
『サテ、話ノ続キヲシヨウカ』
竜王は俺達を見据えると、さっきまでと同様に脳内に話しかけてきた。
「そうだな、じゃあなぜクロとその母親を捨てた?」
カイトには悪いと思ったが、俺は物怖じせず、単刀直入に聞きたい事を聞く。
案の定、俺達を囲むドラゴンは俺の言葉が、竜王に対して失礼だと言わんばかりに一斉に咆哮を上げる。
今思ったけど、ドラゴンは人間の言葉がおおかた理解できているのかもしれない。
さっきからの様子を見るとそう思える。
それか、雰囲気で何かを感じているのか、この竜の巣には何かの言語魔法の結界でもあるのかもしれないけど。
まぁ理解できても話せるのは竜王だけみたいだ。
他のドラゴンを黙らせるように竜王は咆哮を上げる。
すると、他のドラゴンはさっきまでと打って変わって静かになった。
『ソノ説明ヲシヨウ』
竜王がそう言うと、二頭の黒い鱗を持つドラゴンが竜王の横へとやってきた。
一頭は竜王より一回り小さな大人のドラゴン、もう一頭はクロと同じくらいの大きさのドラゴンだ。
「そっちのドラゴンがどういう説明になるんだ?」
俺の言葉にまた他のドラゴンはざわつくが、竜王はそれを抑え、俺に向き直る。
『紹介シヨウ、私ノ妻ト息子ダ』
「「っ!?」」
竜王の予想外の言葉に俺とさっきまでドラゴンに囲まれ少し動揺していたカイトは驚く。
「妻と息子!? じゃあクロとクロの母親はなんなんだ!?」
俺は叫びながらグラムを構える。
脳内ではグラムが『ショーマ、早まるな!』と言ったり、カイトが「おいおいショーマ!?」と言ったり、クロが心配そうに俺の周りを飛んだり、周りのドラゴンが殺気立っているが関係ない。
ひょうな事からクロを育てる事になったけど、今の俺はクロの母親にクロを託された育ての親だ。納得できない事に関しては納得できない。
例えここに来た理由を達成できなくても。
今なら少しクレイの気持ちが分かる。
俺は本当の親ではないけど、子どもの事は心配もするし、何だって出来る。
すると、竜王は周りのドラゴンに向け動かないよう制するように大きな咆哮を上げると、俺の方へと向き直る。
『オマエノ言イタイ事ハ分カル。デモ、話ヲ聞ケ』
「……話って何だ?」
理性が切れる寸前で堪えて問い返す。
『我ハ愛シテイタノダ』
竜王の言葉に俺は怪訝そうな顔をする。
愛していた? 愛していたならなぜ……?
『ソノ顔ハ疑ッテイルナ?』
「あぁ、その言葉が本当ならなぜクロの母親は一人でいたんだ?」
俺が光明草を採りに行った時にクロの母親は周りにドラゴンもいなくて一頭だけだった。
竜王の子を授かっていて、竜王が愛しているというのならそれはおかしい。
そんな大事な時に一頭だけにさせないはずだ。
『……少シ長クナル』
そう言って竜王は話し出した。
『――トイウ事ダ』
そこからしばらく竜王の話を聞いたが、話をまとめるとこうだ。
竜王は生まれた時より先代の竜王の子として、次代の竜王として認められてきた。
でも、次代の竜王として育てられると言っても、小さなうちはそれほど他のドラゴンの子供達と変わらない。
それで、幼かった竜王は同じく黒龍の幼馴染のクロの母親と一緒に過ごしてきた。
しかし、竜王がドラゴンでいう青年になる時に、次代の竜王としての教育が始まり、クロの母親と離され、特別な存在として扱われるようになっていった。
この時に竜王はクロの母親が好きだと気付いたらしい。
いつかはまた一緒にいる時間が取れると思って、次代の竜王としての教育を受けて頑張ったが、ある日、竜王の元に先代の竜王が許嫁を決めたという話が入った。
(そして、その許嫁は今、竜王の隣にいるドラゴンらしい)
竜王はそれに反発したが、先代の竜王に敵うはずもなく、どうする事も出来なかった。
そのまま月日は流れ、竜王が大人になった際、竜王は先代の竜王である自分の父に戦いに勝ち、竜王としての資格を得た。
そして、竜王の資格を得た後、自分を縛っていた鎖と解くように、クロの母親と駆け落ちし、仲良く暮らし、クロの母親は竜王の子を宿したらしい。
そうして、幸せな日々を過ごしていたが、そんな日々は長く続かなかった。
竜王が龍の巣を去った事でドラゴンの中で覇権の争いが生じ、先代の竜王がそれを抑えようとしたが、衰えに勝てず抑える事が出来なかった。
そして、先代の竜王は同じ黒龍に竜王を探すように命じた。
それで、役目を与えられた黒龍はやっとの事で竜王を見つけ、事情を説明したが、竜王はクロの母親を取ったらしい。
でも、その話を聞いていたクロの母親は責任を感じたのか、竜王に内緒で使いの黒龍に『同族を見限るあなたの事を嫌いになった。他の嫁をもらって』と伝言を残して失踪。
竜王はそれを聞いてクロの母親を探したが見つからず、クロの母親に認めてもらおうとドラゴンの抗争を止める為に、竜の巣に戻り、騒ぎを抑えた。
その時に覇権を争っていたのが、各種族のドラゴンの長、俺達が龍の巣に入った時に会った赤、青、緑のドラゴンのようだ。
竜王が戻った事で、ドラゴン達は落ち着きを取り戻したが、中には従えないと言ってここを去った者もいるようで、それが人間が討伐対象にしているはぐれドラゴンみたいだ。
そして、争いを抑えたその流れでクロの母親に認めてもられるようになろうと、再び竜王として君臨したようだ。
許嫁を嫁に摂ったが、その際にはクロの母親の事もちゃんと話し、いつかクロの母親が戻ってきた時には、 後継者は双方の子供から選定する事にしていたらしい。
なんだか、ドラゴンにも人間と同じような事情があったと思うと何とも言えないな。
ちなみに、今の嫁の事もちゃんと愛しているが、クロの母親も愛していた、どちらもかけがえのない存在だと言った。
たらしにも思えるけど、ここまで堂々というとなんだか、説得力があるな。
クロの母親も本当は竜王の事を好きだったろうけど、同族の為に自ら竜王の元を去ったんだろう。
そう思うと悲劇が生んだ物語のようだ。
でも、竜王が言ってる事は本当のように思える。
「……おまえの言う事は分かった。それで、クロが息子だからってどうするんだ?」
仮にクロが竜王の息子だとして、どうするのか?
クロを引き取るというのか?
クロが望むからそれは致し方ないが、クロの意に反して無理矢理となれば俺はドラゴンすべてを敵に回してもクロを守る。
それが、育ての親としての責任だ。
『我ガ子同士ヲ戦ワセ、次代ノ竜王ノ候補ヲ決メタイ』




