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カレンの失踪とSランク冒険者になる条件

「えっ!? カレンが!?」


 魔剣ティルフィングの依頼から帰った翌日、俺はいつも通り、依頼を受けようと思って昼にギルドへ行き、クレイに話しかけたところ、驚く事を聞かされた。


 カレンが街から出たというのだ。


「あぁ、昨日の夕方にもう一度ギルドへ来てな、『しばらく周辺の魔物を討伐に回る。依頼とは関係なく、個人的にしたいだけだから報酬はいらない。少しの間街を離れるが必ず戻るから安心してくれ』と言ったんだ。対応したのがネリーだったんだが、すぐに俺に報告しに来て俺が対応したんだけどな、説得できなくて……。ギルドとしても無償で魔物を討伐、それもSランク冒険者が申し出てくれているし、それ以上どうしようもないから渋々了承したんだが……ここ最近物騒だから厄介な事にならないか心配だ。ったく、俺の心労が絶えやしねぇ……」


 そう言ってクレイは愚痴るけど、俺の内心は穏やかじゃない。

 俺の脳裏にはカレンが言った言葉が読み返る。

 

『分かっている。でも、今はその言葉は言わないでくれ。頼む』


 あの時の言葉、そして、あの時の表情……きっとカレンはいろいろ悩んでいたんだろう。

 その後も俺が気まずく感じていたのと同じでカレンも思ってて、会わないように出て行ったのかもしれない。


 俺はいったいどうしたら……?



「ん? ショーマ、どうした?」


「い、いや、なんでもない! ちょっとびっくりしただけだ」



 クレイの言葉に慌てて言葉を返す

 俺に会いたくないと思って街を出たであろうカレン。


 でも、俺とカレンの関係はすっきりしてないままだ。

 ちゃんと伝えないといけないと思う。

 けど、カレンは会いたくないと思って出て行った、それを俺が探していいのかどうか……。


 クレイは何か疑うような目で見ていたけど、「はぁ~」とため息をついて口を開いた。



「肝心な事、忘れていた。おまえに知らせがある」


「ん? 知らせ?」



 カレンの事で悩んでいた俺だが、クレイの言葉に思考を切り替える。



「あぁ、実は今までのおまえの功績を認め、Sランクに上げてはどうか、という話が出ている」


「マジか!?」



 思わず素で驚く俺。

 最近は悩んだりすることが多かった俺だが、これは手放しで喜べる事だ。

 俺がSランク冒険者を目指していた理由はセシリーに似合う相手になる為……セシリーと結婚して人間と魔族の共存を目指して魔王ではなく、人として生活する……幸せを手に入れる事なんだから。


「待て待て! 浮かれるな!」


 そう言ってクレイはテンションが上がった俺を制する。



「なんだ!? なんかあるのか?」


「あぁ、ギルドとしてはおまえの実績は申し分ないと言っているんだがな……」



 クレイは歯切れ悪く言葉を濁す。


 なんだ?

 なんか問題がるのか?


「実はな、おまえの実績は申し分ないんだが、少し早いんじゃないかと、国王様が言っておられるのだ。まぁ理由はそれだけじゃないかもしれないが……」


 そう言ってまたクレイは言葉を濁す。

 それ以外の理由……もしかしてセシリー絡みか?

 あの国王の事だ、俺がSランクという箔をつけて、セシリーにふさわしくなったら、何かと理由をつけて縁談を断るのが難しいとか考えているのかもしれない。

 なんて姑息な真似を……。


 てか、そもそも俺がSランクになったからと言ってセシリーが俺を好きって思ってくれていないとそんな事にはならないのに。


 ん? でも……


「おいクレイ、だいたいの事は分かったけど、なんで国王が話に入ってくるんだ? そもそも、ギルドってどの国からも独立してるだろ?」


 冒険者ギルドと言えば、よくあるのがどの国にも属さず独立してるってが定番だ。

 この世界の冒険者ギルドも例外なく、どの国からも独立した組織として機能しているって聞いた。

 なのに、なんで国王の声で俺のSランクの話が暗礁に上がるのか?



「ん? あぁ、その説明はしてなかったな。ショーマの言う通り、冒険者ギルドってのはどの国からも独立している。でも、独立してるからと言って無関係じゃなくて協力関係にはある。前のオークキングとゴブリン王の同時発生の時や、最近起きているいろんな事もギルドと国と協力して行っている。まぁギルドだの国だの言ってられない時は一緒に行動する事もあるって事だ」


 まぁそりゃ、人類の危機とか言ってる時には国だのギルドだの言ってられないしな。


「まぁそうやってギルドと国は無関係でないってところで、次はSランクについてだ。Sランク冒険者はSランクになる時にギルドを通して国から名誉を授かる。その際に国から離れる時は国に報告し許可が必要になるってのは言ったよな?」


「……そだっけ?」


 何か聞いた気もするけど……。


「……その顔、忘れてたろ?」


「……ハハハ」


 俺は乾いた笑いで誤魔化す。

 だって、自分の事でもなかったしそんなとこまで憶えている訳がない。


「ったく……まぁそうやって国とギルドは協力関係にあってSランクについては国から名誉を授かって、その恩恵でいろんな支援を受けたりするから、国も無関係じゃないって事だ」


 そういえば、国から名誉を授かるとか言ってな……俺は名誉なんてどうでもいいけど、国から名誉を授かるならセシリーに並ぶには相応しい男って認めてもらえるだろう。

 まぁセシリーに良い返事をもらえるかは別にして。


 でも……


「じゃあ俺はSランクにはなれないのか?」


 国王とおそらく王子が絡んでいるだろう事で俺がSランクになれないとしたら、一度、直談判でもして最悪、実力行使でも……いや、それじゃ問題になるかもしれないし、フィリスさんに相談でもするか。

 あの二人はフィリスさんに弱いし。


 てか、フィリスさんの目の前では俺も動けなくなるほどだし、ある意味最強かもしれないけど。



「いや、そんな事はない。その代わりに条件を出してきた」


「へっ? 条件?」



 てっきり、頭からダメだと言われると思った俺は少し間抜けな声を出す。


「そうだ、竜の巣へ行き友好の宝玉をもらえたらって事だ」


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