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20話 プライドが許さない

 出来上がった葡萄ジュースは、密閉された容器内で醸されて、一次発酵となる。

 この時、コポコポと二酸化炭素が発生する訳だが、レガティオンによる活性化の速度にはリリーナは感心するばかりだった。


「予め聞いていたけど、凄いわね」

「……そうかな」

「そうだよ。普通なら二週間ってトコを十分も掛からずにやってのけてるし。

もっと自信持っていいわよ」


 密閉の為でなめし革の蓋を革紐で括り付けて太鼓のようになったボウルから、蓋を取る。

 ムワリと長時間嗅ぐにはキツい発酵臭がした。

 リリーナはそれを納得の表情で一瞥して、納得の表情を浮かべると搾汁機へ注ぐ。


 万力の原理で種と皮を潰し、汁のみを樽へ取り出した。ワインの原液である。

 そして今度は樽の蓋を閉めて、イドキへ顔を向ける。


「んじゃ、イドっちゃん。発酵よろしくお願いね」

「うん。どれくらいの年数を速めようか」

「じゃあ20年ってトコで」

「分かった……じゃあ、いくよ」


 活性化の波動が樽の周りに集まっていく。


 イドキの世界において、発酵の活性化は最も進んだ技術の一つだった。

 と、いうのも宇宙戦争が始まる前。

 遺伝子組換え技術により植物と菌類を合成した新生物が出来上がっていたのだ。


 只の石ころへ氷塊と一緒に種子を植え付ければあっと言う前に人間が暮らせる程度の環境は整う、そんな世界。

 テラフォーミングが捗り、人類の宇宙への進出が驚異的なスピードで進んだのである。


「おーっ、良い感じに出来上がっているじゃないの」


 樽を開けてコップにワインを汲んで、ゲイルはグビリと麦酒でも飲むかのように口へ含んだ。

 それで口内を濯いで飲み込むと、感心してイドキとリリーナの両方にグーサインを送る。


「うんうん、良い出来だ。樽の風味も染み込んだ、まろやかなビンテージワインだね」


 その脳天へチョップを送るのはリリーナだ。


「いやいや、なんで見てただけのアンタが一番に飲むかな」

「第三者が飲んだ方が公平だろう」

「いやいや、アンタはモロに関係者だから」

「ちえ、仕方ない。じゃああげる」


 半分飲みかけたものを渡す。チョップが再びやってくる。


「いらないわよ、アンタの飲みかけなんて」

「そりゃ残念。

まあ、俺もアレだからこれくらいは許してよ」

「アレって何よ?」


 ゆっくりと残りのワインを飲みながら、彼は言った。


「出来上がったものが本当に『薬』としての効果があるかどうかの毒味係だ。

やるんだろ?」

「……あ、分かってたんだ。

まあ、未知の方法で造られた物を試験も無しに『今までと同じ効果です』と言うには、私のプライドが許さないしね。

付き合って貰うよ」


 言ってリリーナは、ポケットから薬瓶を取り出した。

 ラベルに書かれているのは、味覚を奪う猛毒だ。

 これを飲んで薬の造り方が正解でなければ、ずっとそのままで生きなければいけなくなる。


 その流れで焦りという感情を露わにするのは、感情という概念から最も遠い生き方をしてきたイドキだった。

 ここまで焦るのは先程大トカゲに追いかけられて以来かも知れない。

 彼女はアタフタと何をして良いか解らず、取り敢えず両手を我武者羅に動かした。


「んんっ、どうしたイドっちゃん。心配してくれるのかな?」

「……うん。

それなら寧ろ、私がやるよ。

美味しいという事に楽しみを見出さない私が味覚を失った方が、ずっと良い」


 得たりと云う態度で、イドキはズイと前に出る。

 これから何かを失うかも知れないというのに、少しも震えないのは感情の起伏が何だかんだで少ないからか。


 そんな彼女の態度に、ゲイルは喉の奥から不快感を覚えていた。気付いて笑みで隠す。

 子供をあやすように、頭へポンと大きな掌を置いた。


「やだよ、俺は我儘なんだ。

イドっちゃんを助けたのもなんて事はない、只のつまらない英雄願望だ。

だから『最後の最後に助けられず、毒を飲ませてしまいました』で格好が付かないのは、俺のプライドが許さない」


 彼は片手をリリーナへ向けた。

 彼女は持っていた毒瓶をヒョイと投げて、慣れたように受け取る。

 受け取った物と一緒に、自身の歯をイドキへ見せて笑ってみせる。


「にぇっ!」

「……はぁ」


 良い笑顔に対し、少女らしく首を傾げた。

 その一方でリリーナは眉間に皺を寄せ、渋い表情を浮かべる。

 冷ややかな顔である。


「うわー、ナルシーっ」

「ふん、うっせぇババア。じゃあ同じ立場だったらやらないのかい」

「まあ、やるんじゃないかな」

「だろ?」


 彼女はそう言うと何処からともなく、薬品を作る為の木桶と、大トカゲの尻尾の瘤を取り出した。



 木製の桶に、タプンと桃色の液体が満たされている。

 リリーナはそこへ、内ポケットへ持ち込んでいた酸化防止剤などの薬品数種を入れた。

 素手を露わにして魔法の詠唱を呟く。


「◆◆◆……『味覚回復の秘薬』」


 手の肘までが、光輝く半透明の膜に覆われた。

 その状態で液を掻き混ぜる。

 すると魔法発動の間だけ具現化している『膜』と溶液と木桶が化学反応を起こし、発生するアルコールを介して魔力が絡み合った薬品へ変わる準備が整うのである。


「それじゃイドっちゃん、コレを一年だけ進ませて。そしたら、もう九回同じ作業をするから」

「……う、うん」

読んで頂き、ありがとうございました

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