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17話 絆

 切っ掛けは、興味だった。

 ゲイルと一緒に大トカゲを運んでいた時の事である。


 実はイドキは、大トカゲのどの部分が薬として使われるか、光るキノコを解析した時のように、ナノマシンでトカゲの身体の成分を密かに解析していたのだ。

 隅々と遺伝子データに至るまで登録したので、必要ならレガティオンの設備でクローンを作る事も可能だ。


 尚、イドキにとって興味深かったのは、大トカゲの擬態用の尻尾の(こぶ)は果実のように糖度が多く含まれていた事。

 恐らくラクダのように何かの為に蓄えているのだろうと考え、しかしそれ以上の興味は起きなかった。


 そして今回、ゲイルが貰った薬瓶の蓋の素材がコルク性な事へ興味を持った。

 コルクの細胞間の隙間からナノマシンを侵入させ、コルクへ染みこんでいる薬から成分を分析できないか。

 特にやる事もなかったので試してみた結果である。

 尚、分析は使用者がスパコン並の処理力を持っているので一瞬で終わった模様。


(コレ、大トカゲの瘤を十年くらい発酵させて作った『お酒』だ……。

でも魔力とか言ってたし、特殊な条件とかこの世界あるんだろうけど、問題が時間というだけなら、どうにか出来る。

だって、レガティオンの設備で発酵を活性化さればいいだけだし)


 あの客間で、そこらの落ち葉の糖分で作った酒を飲んでいたゲイルを思い出す。


(でも……)


 イドキは発言する事へ恐怖を覚えていた。

 言い合っているのは、生命力に満ち溢れた、自分とは別種の生き物同士。

 完成したやり取りへ、自分なぞ無情なバイオロイドなぞが関わって良いのか。それがとても恐ろしかったのである。


(でも……!)


 気付くと彼女は、口を開いていたのだった。


「ねえ、ちょっと良いかな」

「ん。なんだいイドっちゃん」

「多分、私ならどうにか出来るよ」


 無理に口を出して前へ出た緊張で、無気力で陰のある目元に力が入っていた。

 少しだけ涙が溜まっている。


「……本当かい?」


 ゲイルの双眸はこれまでにないくらい澄んでいて、少女を真っすぐ捉える。

 彼女に口を出す義務なんて無い。

 自分一人が何もしなくたってビターエンドのまま世の中は進んでいくし、心の奥底では隅の方で何も言わず佇んでいたかった。


 それでも涙ぐんだまま、真っすぐゲイルを見つめて頷く。


「うん」


 口を出す義務は無いが、権利が無いということではない。

 もしも無いのなら、生まれて初めて楽しく話し込んだ、あの時間だって嘘ということになる。

 それを認めたくなかった。それをどうしても手放したくなかったのだ。

 これがゲイルとの大切な繋がりになっている、そう感じずにはいられなかった。


(大丈夫、ゲイルならきっと信じてくれる!)


 並列思考のほとんどが全てが同じ内容。

 それらを自分へ言い聞かせながら、ごくりと息を飲み込む。

 そうして彼が「信じよう」と言ってくれるのを待っていると、彼は名乗り合った時のようにまた同じ目線にしゃがんで、口を開いた。


「そうかい。じゃあ、さっそく方法を聞こうか」

「ええと、直ぐにでも……って、え!?

この期に及んでまだ信じちゃうの?いや、信じては欲しかったけど、あっさりすぎない!?

説明不足とか、悪戯でやっているんじゃないかとかそういうのはいいの!?

ねえ、良いの?

私はゲイルが思っているような精霊でもなんでもなくて嘘もつける——————っう!」


 口を急に覆われた。

 そして目の前のゲイルは、顔に巻かれた包帯から火傷跡をチラチラと見せて、素朴な田舎の悪ガキのように笑う。


「君は精霊さんのイドっちゃん。それで良いんじゃないかな。

それに大丈夫だよ、イドっちゃんみたいな『人間』は、確信なしに何かを言わない。俺が保証する」


 そう言って彼は、イドキの両肩をポンと叩く。

 叩かれた方は顔を真っ赤にし、その薄くて細い肩を強張らせたが、ゲイルの手は構うことなく彼女の身体の向きを変えた。


 その向かう着く先は、リリーナの正面である。

 彼女は腕を組んで面白くなさそうに、冷めた表情でイドキを見下ろしていた。

 今まで気にしていなかったが、女性にしては背が大分高い。

 そして実際の身長よりも大きく見えていた。


「言ってくれるね。

私だって生半可な気持ちでこんな所に移り住んでいる訳じゃないし、腕だって自信はある方だったんだけどな。

良かったら御教授頂けないかな、センセイ」


 怖かった。

 それでもやらなきゃいけないと云う気持ちに後押しされて、皮膚が張り裂けんばかりの心構えで口を開く。


「わ、わらひは!!!」


 舌を噛んだ。


 しかしリリーナの様子は変わらない。

 間の悪さにより内部から溢れる緊張感という重力にブラックホールの如く自身を潰してしまいそうな気持ちになる。

 もうダメかと思ったのもつかの間、横からゲイルの声がきた。

 

「おいおい、緊張し過ぎだろ。もっと肩の力を抜いていいんだよ」

「ううっ……」

「まあ、完璧に考えないこった。ミスをしない人間なんていないんだからな。

責任は全部俺が持ってやる。だから……」


 彼は白い歯を見せる。


「盛大にミスってきな」

「……うんっ!」


 それを聞かされ、自分の中にあった重たいものを預けて軽くなった気がした。

 何時の間にやらリリーナの身長も元に戻っている。

 スゥと向き合って口を開く。その視点は、あくまで現地人に合わせたものだった。


「わ、私はっ、時を速める事が出来るっ!

だから薬が出来る条件さえ整っていれば、薬は一瞬で造れるっ!以上!」

「……へー」


 はじめてリリーナは感心した。それこそ興味深く。

読んで頂き、ありがとうございました。

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