61:知識の宝庫と怖い罠
ミドリアーナさん曰く、この図書館にはやはり貴重な書物が存在するらしい。
彼女自身は生前さほど能力の高い司書ではなかったし、研究者でもなかったので子供たちに読み聞かせなどができる児童書などの書架担当で満足していたそうだけれども。
当時の記憶は曖昧で何故今幽霊でここに漂っているのかも理解できないが、本に囲まれて静かな時間を過ごせることには満足しているんだそうだ。ただ痛んでいく本に対して心残りと言ったところ。
……どんだけ本好き。
それで彼女が教えてくれたことは、専門書に関しては自分は何も知らないということを前提に、ここが図書館であった当時とダンジョンになってしまってから地形変化はそこまで起こっていないということだった。
自分も何があって幽霊になったのかは覚えていないので、正直なところ役に立つ情報かわからないが図書館内部の構造は変わっておらず、沸いて出てくる魔獣が住み着いたくらいで本もそのままずっとあって、劣化することはあっても風化しない奇妙な感じなんだってさ。
魔獣たちも本棚をを倒したり壊したりして居場所を作ろうとすることもないし、まるで本を大事にしているかのようだとも。
ただ幼体が本に悪戯したりするからそれが原因で本が壊れることはあるんだそうな。
後、私たちよりもずっと前だと思われる冒険者たちが来たときは、歩いているだけで罠が発動してミドリアーナさんがびっくりしたらしい。
なにせ彼女は幽霊だから罠が発動することはなかったろうしね。魔獣たちは罠を本能で避けていたようだしね。
冒険者たちは罠にかかって魔獣に食われたりなんだりとまあ残念な結果だった模様。
ミドリアーナさん的には久方ぶりに見た知的生命体! 会話ができる!! もしかして本を借りに来た人?! ってテンション上がったらしいんだけど声すら聞こえない人たちだったらしく落胆しつつ一生懸命アプローチしてたら罠にかかって……ってことだったんだとか。
幽霊だけどあれは失神しそうな出来事でした……って天を仰ぐミドリアーナさんに何があったのかは聞けませんでした。
しかし罠の存在は地図にも書いてあったので知っていたけど、これは有力情報だね!
ミドリアーナさんが嘘をついているということも考えられたけど、彼女の亡霊としての力は弱いし私もマッヒェルさんに習って死霊使いとしてのレベルもあがっていることからたばかられる可能性の方が低いって自信をもって言える!
で、彼女が知っている罠は“壁から飛び出てきた槍と矢”と“落とし穴”だった。
えげつない!!! けどまあ、割とよくある罠だった。でも図書館だと思って進んでそれが出てきたら確かにびっくりするわー。
今でも気を付けて進んでいるけれど、もっと気を付けて進むべきだね。
特に本に興味ある人たちが駆け出さないという保証はないしね。
ミドリアーナさん曰く、書架の周囲ではなく廊下に罠があったとのことだけどそれがどの階まで適用されてるかはわからないし、ダンジョンは日々変化するものだっておじいちゃんが言っていたので参考程度に。
うーんしかし通路のみと考えたとしても、すごく広々とした図書館だからって地下に行くにつれ狭くなることだってありうるよね……ダンジョンとしては栄養分なわけだからさ、冒険者も。安全快適なんてわけないんだから。
「どう思う? アリュート」
「そうだね、大体イリスが想像してる感じと同じだと思うよ」
「だとしたら私も気をつけてはいくけど、罠解除の得意なメンバーが他にも欲しかったかもね」
「としても今更だよ。もともと僕らの中じゃあイリスがその担当だし、バルバスさんたちはもともと学者さんだしね」
「そうだね」
ないものねだりしてもしょうがない、か。
まあ索敵はアズールとフェルに任せて私が罠に意識を向けるのが妥当かな。
私の意図は彼らには伝わったみたいで、頷き返された。ちょっと理解が早くて助かるものの、怖くないですかね。いやこれが阿吽の呼吸ってやつなのかな。……おかしいな、パーティ組んでまだそんな経ってないんだけど。
彼らの順応力が高すぎて、力の差が開きそうだ……努力は怠れない。おかしいな、生まれ変わって強くなったと思ったんだけどなあ……。
「竜人族の守りは強いけれど、彼らの体躯が大きいこともあるから狭い通路は特に注意したいなあ」
「うーん、でも図書館の造りを基本そのままにしているみたいだから、そこまで狭い場所はないんじゃない?」
「この辺りみたいに一般人が利用する区画はそうだと思うけれどね。僕としてはもっと専門書とか持ち出し不可なものがあるような場所は狭いと予想しているよ。盗難対策としてね」
「あ、なるほど……」
「お前たち、先のことを考えるのはありがたいがその前にボスじゃないのか?」
フェルが呆れたように言う。
うん、いやまあそうなんだけどね。
私たちが言っているような専門書の類は誰もまだ到達できていない階層だ。
残されている情報では巨大な敵がいるわけで。それを倒すことが前提の会話だ。
私としては正直このメンツで倒せないことはないかなと思っている。
裏ワザとしてマッヒェルさんを頼ることも可能なわけだし……ぎりぎりまで勿論頼らないつもりだけどね! あの人、意外と先生としてはスパルタなんだよね……頼ったら助けてはくれるだろうけど、終わったらその場で反省会と勉強と修行が始まる予想が出来ている。
ちなみにそれでも私に対するのはまだ甘い方で、同じように教え子となったフェルとアリュートはもっと厳しいらしい。
まあ結局のところ、私たちは“先生”に叱られるのは御免なので自分たちだけで乗り越えたい! と思っているんだけど、できるんじゃないの?
大分お互いの連携も取れてきているわけだし……そう思ってフェルの方を見れば、彼はゆるく首を振って否定を示した。
「俺たちの任務は“護衛”だ。その上で資料をも守ることが前提にあると考えるならば、ただがむしゃらに戦うならボスを倒すことはできても資料を守ることまでは不可能だ。ボスをまず観察、護衛対象と資料をどう守りながら勝つかを考えなければならない」
「う」
「俺たちは攻略に来ているんじゃないんだ。それを忘れちゃだめだろう」
「そ、そうだね……ごめんなさい」
「うん、僕もちょっと先走り過ぎたかな。ひとつひとつの階を皆が安心して探索、研究できるように頑張って行こうね」
私たちがお互いに考えを話し合っている間にもアズールは索敵と威嚇と忙しく動き回ってくれているし、ミドリアーナさんと意思疎通できたことで竜人族の人たちは本の修復作業を手伝っていたようだ。
ミドリアーナさん、満足そうにしているけど……この人、成仏とかあり得るのかな……?




