幕間:とあるA級勇者はかく語りき
C級勇者だった和子がお世話になった人の独白。
A級勇者というランク付けをされたのは一体どのくらい前だったろう。
俺が生きていた時代は現代社会なんてテレビで言われるようなとこの、サラリーマンだった。
出世が見えてきて、そろそろ可愛い彼女でもできないかなー結婚してぇなーなんて思ってた頃だった。
好物はからし蓮根だ。
唐突に召喚ってのをされて、理不尽なまでに召喚された先の世界に尽くせっていう王様に、ブチ切れて協力する振りをして街へと飛び出してまあ困った人がいたら助けつつ、逆に生活の面で助けてもらいつつなんとか暮らしていた。
帰る方法を探してみるものの、結局のところ呼び出す方法は考えても送り返すことなんて考えてもいないので方法はないってことだけはわかった。
とにかくアイツらの為にアイツらの所為で生み出された魔物を狩って狩って狩りまくれ、そうじゃないと生活できないぞお前らーということだった。
一応教習所のようなところで勉強だのなんだの基礎を教えてはもらえるが……平和な生活送ってたサラリーマンに何を求めてるんだよ。
しかも24時間(リアルで)戦えますかってどんだけブラックだお前らと叫びたかったがまあ無駄だった。
剣と魔法の世界で勇者、しかもランクはAですごいね!
そうもてはやされてまあちょっとは天狗になるよな。
ところがその“勇者”ってのは、つまるところイコールで異世界人ってことを明言しているってことだ。
しかも隠せねえの。身分証明書が隠せないようになってる世界でステータスみたいな細かいのはともかく、何をするにも身分証明が必要だから誰もが名前と職業、ランクを見られちまうのだ。
そんでもってこの世界で異世界人ってのは『その世界の人間にはないスキルを持っている』、つまり頼りになるスキル持ちってことだ。
そして俺だけじゃなくて、多くの異世界人が――同じ世界もいれば、他の世界も――いた。
その大勢の勇者は色んなランクがあって、俺と同じA級もいれば会ったことはないがS級なんてのもいるらしい。
勿論下のランクってのもあって現地の人間にはランクが下になる程馬鹿にされるという過酷な世界だ。
なんで無理矢理攫われてそんな風に馬鹿にされにゃならんのよ。
どうして俺がそういうのを知ってるのかってーと、酒場でヨイショされついでにC級の女の子に出会ったからだ。
もうその当時A級勇者として冒険だのなんだのして、それなりにパーティメンバーも揃ってた俺は周囲の冒険者に馬鹿にされまくってた彼女をパーティに迎え入れた。
俺と一緒にいることで、異世界人の勇者も人間だから傷ついて当たり前だって理解してくれるようになったパーティメンバーも快く迎えてくれて、彼女もものすごくほっとしたようだった。
驚くべきことに、異世界人である“勇者”が人間であるなんて考えは一般的じゃない。
勇者はこの世界の人を自身の命を削ってでも救って当たり前、その考えが根付いてる。
冗談じゃないだろ? これがリアルに冗談じゃねーんだわ。
俺が知ってるブラック企業よりもブラックよ。
で、そんな世界でそのC級なんてランク付けられちゃった女の子はなんと高校卒業したばっかだとか。
しかも味方になってくれる人間に出会ったのがこれが初めてとか泣かせるよなあ……。
彼女の名前は、三宮和子っつった。
ちょっと地味だけど、真面目そうでっつーか真面目で、穏やかな子だった。
改めてA級だのC級だのってのの差は、彼女といるようになってわかった。
これは俺の考えだったけど。
その“ランク”はあくまで世界の悪を断罪するための武力、だ。
ランクが下がるほど生活能力的だったり回復系だったりの能力が上がりやすいようだ。
ってことは、ランクが上の方ほど乱世向きでランクが下の方ほど安寧の治世向けってわけだ。
ある時、俺たちのパーティは唐突に現れたドラゴンによって酷い目に遭わされた。
和子ちゃんは、仲間を庇ってドラゴンのブレスに焼かれて死んでしまった。
あっけないものだった。
俺は冒険者としてそれなりに弱い人が死んでいくのを目の当たりにして耐性がついていたつもりだったけど、同じ世界の人間が死んだのを見るのは初めてだった。
ありゃー、堪えたね。
俺はA級なんて武力特化の方だったけど、でも内面はしがないサラリーマンだ。
内政とかの方がわかりやすい。
だから、あのブラックな王様よりももう少し異世界人にも優しい別の国の王様に仕えて嫁を貰って、地方領主になった。
領主になって思う。
和子ちゃんがいたら、きっと領主は無理でも穏やかなとこでならその実力発揮できたろうになーって。
俺のパーティメンバーは親衛隊として一緒に来てくれた。
時々、年に一度、嫁さんも一緒に和子ちゃんの墓ってのを作ったので墓参りをしてる。
理不尽な世の中だよな、と今でも思うんだ。
この世界の為に、命を削れ。
その為に呼んだんだからな。
そう言われて喜べるか?
勇者だのなんだの、人を救って当たり前って、まあ誰彼構わず助ける力もあるのに見捨てるのは違うだろうけどよ。
あの時、あの業火に焼かれて死んでいったのだって、勇者である前に19歳の女の子だったんだぜ。
俺が、そのことを話した時。
嫁さん――今仕えている王様の腹心の娘は、そんなこと考えもしなかったと衝撃受けてたっけ。
俺だってひとつ違ったら、彼女のように世界中の人間に嘲笑われていたかもしれない。
だから俺は、領主として今、ランクの低い勇者を率先して受け入れている。
彼らの能力は、穏やかに暮らす人にこそ必要なものだから。
武力が必要なら、俺が前に出ていくよ。
あの時、守ってあげれなかった女の子への贖罪の気持ちがまだ続いている。
俺ぁただのおっさんで、サラリーマンで、でも唐突に勇者にされた男だ。
まあ可愛い嫁さんもらったし、それなりに出世もしたし、中間管理職ってあたりじゃサラリーマン時代とそう変わらないかもしれない。
でも、もしあの時こうできたら。
そう後悔するのはこの世界では遅いんだってさ。
それでももし、あの子が生まれ変わるとかできてたんなら。
召喚なんて嘘みたいな、小説みたいな出来事があるんなら輪廻転生とやらがあったっていいと思うから。
生まれ変わったんなら、誰かに一方的に押し付けられた立場で見下げられて。
また悲しい思いをしない、そんな人生を是非送ってもらいたいもんだ。
勿論、俺もね!




