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C級勇者はどうやら逆ハーとかいう状況を手に入れた。  作者: 玉響なつめ


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32:乗合馬車トラブル

 それから私たちは帰る時間ぎりぎりまでセレステと過ごすことにした。

 アズールもセレステのことは気に入ったらしく、小鳥姿で頭の上に乗ってご機嫌に(さえず)ったり、その(さえず)りに合わせてセレステが楽し気に揺れるところを見ると、うん。和む。


 でも霧に空が覆われたこの霊峰は時間の感覚がズレてしまっていたみたいで、もうそろそろ陽が沈むよとニュンペーさんが教えてに来てくれて大慌てで私たちは帰ることになった。

 だってシンリナスさんに会いに行くとは言ったけど、霊峰に行くことになるなんて私も予想してなかったしね!


 冒険者になってからは割と自由にして構わない風だったけど、遅くなったら家族みんな心配するに違いない。

 前世の母親みたいにヒステリックに叫ばれるなんて無縁の生活、なんて素晴らしい!

 あ、なんかやっぱり切ない。普通の家庭にはそうない気がする。


 で、まあ折角だからセレステに乗っていくといいとニュンペーさんが言うので乗ってみた。

 風のようでした。


 すごい!

 けど怖い!!


「セ、セレステすごいね……」


「ブルル!」


 褒められたと喜ぶセレステは本当に子供なんだろう。

 ちょっと私、足ガクガクしてなかろうか。


 そっと撫でて別れを惜しめば、ちょっと悲しそうにすんすん鼻を鳴らしていた。

 それでも引き留める真似をするでもなく良い子で見送ってくれたので、次に会えた時はまたたくさん遊んであげようねとこっそりアズールと決めたのだった。



 幸いにも観光地として有名なこの場所で、乗合馬車の数はまだあった。

 私の暮らすグルディの街に直接行く便に乗り込んで一息ついた。

 隣はゆったりとした旅装束の父娘で、ふたりはにっこり笑って会釈してくれたので私も会釈し返した。


「お嬢さんはおひとりかな?」


「あ、はい。私はこの国に住んでいるので!」


「おお! そうなんだね、我々はグルディに向かうところなんだよ。私はアルト、この子はメルティだ」


「グルディですか? じゃあ一緒ですね! 私はイリスといいます」


「ああ、すまない。メルティは声が出なくてね、挨拶ができないけど……」


「大丈夫です。よろしくね、メルティ!」


 メルティと呼ばれた女の子は私と同じくらいの年頃だろうか?

 ふたりとも黒髪の人間族だ。

 別に獣人の国だけど、人間族が訪れることは珍しいことでもないしふたりはどうやら行商人のようだ。


「臭い、臭いのう……」


「本当に! まったく我らは貴族だというのにこの待遇。普通は向こうから専用の馬車をご用意しましょうかとへりくだらねばならぬ立場であろうに!」


 メルティと握手なんかして、アズールも撫でてもらってほんわかした空気になっていたところで後ろの方かぶちぶち文句を言う人の声が聞こえた。

 その人たちは少しばかり場所をとるような態度で、周りを見下したようすでハンカチをこれ見よがしに鼻に押し当てている。


 あれはなんだと思わず眉を顰めたら、アルトさんがそっと教えてくれた。


「あの人たちはね、私たちと同じ人間族の国“アルミア”からみたいだよ。私は辺境の街からだったから彼らはもっと前……王都に近いところから乗ってきたのかもしれないね」


「貴族なの?」


「そうらしいけれど。まあ……他所の国に来て権威を振りかざしていても、乗合馬車を使っている段階でお察しというやつさ。あまり関わり合いにならないほうがいい。連れている護衛もあまり質が良くなさそうだしね」


「そんなこともわかるの?」


「これでも行商人でね、人を見る目はあるつもりだよ」


 アルトさんが茶目っ気たっぷりにウィンクしてくる。

 ちょっとふっくらしたお父さんだけどかっこいいいい!

 メルティがどことなくドヤ顔をしているあたり、仲の良い親子なんだろう。


「実は最近奇妙な噂が流れていてね、それであの貴族たちも踊らされたクチなんだろう。イリスも気を付けるといいよ。勿論ご家族もね!」


「噂ですか?」


「そう、幻のアマンの実というのが最近ダンジョンで大量に入手できるようになって、サーナリア、特にグルディの市場に出回っているというものだよ」


「ないですね!」


「そうか、そうだよねえ」


「ダンジョンでアマンの実がというのは私も噂を聞いたことがありますけど、相当大変らしいですよ。大量入手なんて厳しいんじゃないのかなあ?」


「そうなのかい?」


「はい」


 私は胸ポケットから冒険者証を取り出して、自分が冒険者であること。

 先生に連れられてダンジョンに潜った時にアマンの実を探して入ってきた冒険者が酷い目に遭ったことを話した。

 その上で先生曰く『作物としてアマンは育てにくい』ということらしいというのをアルトに話した。


 霊峰の中にあるなんてことは言わない。

 それを目当てに勝手に入り込んでエントたちに迷惑をかける人が続出しても困るしね。


「ほうほう、そうかそうか。イリスは冒険者なんだねえ! うちのメルティも行商人見習いとして今勉強しているんだ。ごひいきにどうぞ!」


「……」


 にっこり笑ったメルティが、照れくさそうに父親と一緒に私にぺこりと頭を下げた。


 私もいつか旅立った先でこういう繋がりってのは大事なんだろう。

 とりあえず冒険者ギルドの受付のお姉さんとは最近仲良しだよ!

 犬人族のおねえさんなんだけど、なかなかにわがままボディなんだよねえ。私は気に入られたらしくていつも抱っこされちゃうんだけど……。

 うん、あそこまで大きくならなくてもいいから私の胸も成長して欲しい……。


 まあまだ第二次性徴期も来てない子供なんだから、今後に期待しよう!

 とはいえ、母親を想像するにおばあちゃんはグラマラスとは言い難いのできっと……うん、あれ、考えるのは止めよう!


「アルトさんたちの行商ってどんなものを売るんですか?」


「そうだねえ、食料品や医薬品、装飾品なんかも扱うことがあるね。今回は途中で大分売れてしまったからね、そうだ、イリスちゃんはお菓子は好きかな?」


「お菓子?」


「そう、これはねえ飴なんだけど、最近王都で人気の果実キャンディなのさ」


「……」


 美味しいよ、と手ぶりで教えてくれるメルティはきっとこのキャンディが好きなんだろう。

 一生懸命アピールしてくれている。

 色とりどりの可愛い細工までされている一口サイズの飴は確かにこの辺りでは見たこともないようなもので、思わず私も目が輝いたと思う。

 アズールはわかっていないからか、小首を傾げていた。


「あの、これって今買えますか?」


「ああいいとも! だが今日はお近づきの印に差し上げよう」


「わあ! ありがとう!!」


 素直に嬉しくてお礼を言った。

 行商人だってことだから今後会える可能性は低いかもしれないけど、今後アルトさんを見かけたら一度は寄るようにしよう!

 人間、下心があるとわかっていても親切にしてくれた人に対してはやはり親近感を持つものだよね。


「おうおう、下賤の子供は気楽で良いわい。あの程度の塵芥で喜べるのだからな」


「ははは、我ら貴賤の者の常識などあやつらにわかるはずもございませぬ。ゴミを食物と教え育てればあのようにもなりましょうや」


「違いない!」


 あっ、ちょっと腹立つ。

 とはいえ、狭い乗合馬車(といってもその中で1番大きいものだけど)の中でもめ事はいけないと聞こえないふりをした。

 そこのところは空気の読める日本人。今は違うけど。


 アルトさんは慣れたものなのか、気にする風もない。メルティも同じだ。

 周囲の獣人族たちは嫌な風には感じているようだけど、やはり面倒ごとはいやなのか、相手にするだけ無駄だと思っているのか皆苛立つ風ではあるけどそちらを向かないようにしているようだった。


「まったく獣臭いがこれで例の物を手にできれば我らも公爵様に覚えめでたく……」


「であるな。しかし雇った冒険者も姿をくらませるとは……やはり冒険者も質が悪いものですな、直接我らが出向かねばならぬとは!」


「幸いにもグルディに名のある冒険者がおるということまでは聞いているのでな。そ奴らに行かせればよかろう。ついでに逃げた者どもに懸賞金を掛けさせることも忘れずにの」


「さすがでございますな!」


 頭悪いのはそっちだろう、とちょっとだけ思った。

 目的が噂のアマンの実だったとして、手に入るかどうかなんてあやふやなものに頼る段階でお察しだよね。

 しかもそれを不特定多数の人が乗る乗合馬車で堂々と誇らしげに話しちゃってる辺り……。


「冒険者ギルドなど、要するに腕っぷしだけで生きる者共の集まりよ。我ら貴族が依頼を出せば喜んで尻尾を振るに違いない!」


「そうでございましょうそうでございましょう! 男爵がお声を掛けたらば、名のある冒険者であろうと喜んで馳せ参じることでございましょう!」


「うむ!」


 ふぅん、あのでっぷりした方が男爵で、隣の細いのがそれよりも下の貴族なのか。

 彼らを挟むようにいる護衛とやらは冒険者のようだけど、彼らのことをまるで気にしていない様子ね。

アルトさんが言う通り、関わり合いにならないのがいいんだろう。


 でも大丈夫だろうか。

 この先虎人族の領域で一度警備隊によるチェックがあるんだけど……揉めないといいなあ。

 来るときのチェックは獣人族ばっかりだったから問題なかったけど虎人族って見た目怖いからなあ。


◇◆


 途中、当然乗合馬車に乗る人が増えたり減ったりする。

 そして大き目の街で多くの人が下りたところで問題の警備隊が乗り込んできたのだ。


 勿論やましいこともない私はのんびりしたものだけど、アルトさんはともかくメルティは虎人族の風貌に怯えてしまっていた。

 その様子にアルトさんが呆れたように窘めていたけど、まあ慣れてないとそれはしょうがないんじゃないのかな。


 奥の貴族(笑)たちは顔色まで変えちゃってまあ、情けない。


「サーナリア国内警備隊の者である。犯罪者が紛れ乗ることを防ぐため検問を課しているが、問題さえなければすぐに済む。大人しく着席していてくれるようご協力願う!」


 隊長さんらしい人が威風堂々そう言えば獣人族は慣れたもので自分の身分を示すものを用意し始めた。

 アルトさんもメルティも通行手形のようなものを取り出したので、私も一緒に見せてもらった。


「これがアルミアからの通行証なんだぁ……」


「ははは、それでこっちが商業ギルドの商人証だよ」


「冒険者ギルドのとはデザインが違いますね!」


「うん、革袋と剣なのは旅をして自分の身を守ることに由来しているそうだよ」


「失礼、身分証を……」


「ああ、はいはい。これが私ので、こっちは娘のです。アルミアの王都・サルナスキアから参りました」


「アルト殿とメルティ殿。サーナリアへは行商ですかな」


「はい、それとグルディの商業ギルドに用がございまして。当面グルディにて生活させていただく予定にございます」


「了解した。ありがとうございます」


「いえいえ、ご丁寧に。お役目ご苦労さまです」


 虎人族の大きな手から小さな通行証と商人証が返される。

 そして私に視線が向いたので、私は冒険者証だけを差し出す。サーナリア国民だからね!


「グルディのイリスです。霊峰の見学から街に戻るところです」


「そうか、あまり遅くなってはご家族が心配するぞ」


「はい、気を付けます」


 虎人族は家族思いだ。

 勇猛果敢で、ちょっと怖いけど頼りになる人たちだとおじいちゃんは言っていた。


 そして今長老会議の中で最長老としているのは、虎人族の女性だとも。

 公明正大な女傑と言っていた。おばあちゃんとも仲が良いんだとか。


「く、来るでないわ!! 獣臭い!!」


「我らをなんと心得る、そなたらごときが上から見下ろすなど、などなどなど……!」


「先も申し上げた通り、我らは国の警備隊。身分証と通行証を確認させていただければ良いのですが……」


「ひっ、しゃ、しゃべるでないわ!」


「オーロ、何をしておる、われらを守らぬか!」


「へいへい……。まあよう、警備隊さんもそう固くなりなさんな。この方々はアルミアのお貴族様だ、厄介ごとは御免だろう?」


「まことに貴族であれば、証を立てていただければそれで結構」


「へいよ。これで良いだろ?」


「……確かに。それではお返しする」


 オーロと呼ばれたひげ面の男がにたにた笑いながら警備隊の前に一歩出て通行証と身分証を出していた。

 その態度は好ましいとは言えなかったけど問題は無かったのか警備隊が背を向けた。


「オーロ!」


 金切り声で喚く男爵が警備隊員の背を指さすと、オーロという男の空気が変わる。

 にたぁ、と大きく笑みを深めたと思うと、迷わず腰に手を伸ばしたのだ。


「いけない!」


 咄嗟に私が警備隊員に防壁(シールド)の呪文を唱えれば、虎人族の青年らしい警備隊員は牙を剥きだしにして腰に帯びていたハチェットを構え振り向きざまに襲い掛かるオーロの剣を受け止め、叫んでいた。


「乗客は総員退避せよ!」


「全員外へ出て! 外の警備隊長さんをアルトさん!」


「わ、わかったよ! でもイリスちゃん、君は――」


「私は冒険者だもの! 有事の際は警備隊の協力をするものなの!」


「し、しかし……」


「早く!!」


 メルティが怯えてアルトさんにしがみつくのを感じたのか、彼は困ったようにしつつも私の指示に従ってくれたようだ。


 馬車は阿鼻叫喚、我先にと降りようとする人の所為で幌も破けているしガタンガタンと左右に大きく揺れる。

 それにしてもあのオーロという男、見た目はさして強そうではなかったのに貴族の声で唐突に変わったようだった。


「ひぃ、ひひ、お前、お前、まあまあ強いな?! 強いな!」


「ぬ!」


「俺ぁ強いやつをぶった切るのが好きなんだよお!」


「だだだ男爵、オーロを、オーロをけしかけたのはまず、まずまずいのでは?!」


「ううううるさい! あの警備隊の獣風情が我ら貴族を見下ろすからいけないのだ!」


 子供の癇癪か!


 もうあの貴族たちのことはともかく、どうやらオーロというのは殺人狂なのか戦闘狂、或いは両面を備えているのか。

 その実力は、ぱっと見だけど……あの虎人族の人では相手にならない。

 しかもハチェットを使う大き目の体躯だけに、この狭い馬車の中での戦闘は不利なんだろう。


「アズール」


「ぴゅい、チチ」


アイツ(・・・)を外に放り出すよ!」


「ピピッ!」


 私の合図でアズールが変化する。

 そして倒れた虎人族の人に剣を突き立てようとするオーロに向かって爪を伸ばし、掴んでそのまま外へとアズールは飛び出した。


「アズール、そのまま離して!」


 掴みっぱなしで相手の手の内がわからないままは危険だ。

 私は倒れた警備隊の人の下で治癒魔法を使う。勿論呪文を使っている風に口元をもごもごすることも忘れずに。


 それにしても、あの短時間で虎人族の人の鎧はすでにボロボロだ。

 皮鎧であることもあるのだろうけど、オーロが使っていたのは細身の片手剣だったはず。

 相当な使い手なのかもしれない。


「は、ハルピュイアだと?!」


 あ、いけない、外の人に説明をしないといけなかった。

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