第10話:終焉
終わりよければすべてよぉ……
えっ?
ええっ!!!?
「ではお願いします」
「了解アルね」
私と所長は弁護士を雇い各スタッフとの交渉へと入った。
事務所閉鎖の知らせは閉鎖予定日の一か月前に書面張り出しで告知した。
規定では一か月前に書面での通知が必須で、タイムスケジュールも同時に掲示した。
薄々勘づいていた人もいるだろう。
そして法律に詳しい弁護士を間に入れることにより想定以上にスムーズに事は運んだ。
「さいとう君、これで無事上海事務所は閉鎖できる。ご苦労だった」
「あの、まだ私が終わってないんですが色々と……」
応援であるはずの私は残業三昧の土日出勤状態で上海事務所の資料を確保したり、中古で売却する設備のデーター抹消などをしていた。
社外機密のデータなど、可能な限りUSBに取り込みメールサーバーのチェックも入れる。
特に顧客情報などの扱いには要注意だ。
そうして徐々に上海事務所のスタッフがいなくなってゆく。
「はぁ~、とりあえずこのままいけば無事閉鎖はできるな。役目としてはあとは事務所の資料を持ちかえれば終わりか。 ん? 所長??」
「さいとう君、すまないが急ぎ南京へ行ってくれないか? お客さんからのトラブルだ」
「なっ、こっちはどうするんです?」
「私が何とかしておく。機械とプログラム両方見れないと問題解決しなさそうなんだよ」
「え”え”ぇぇ……」
本来私に課せられた使命はほぼ完遂された。
会社としては経済的にいろいろと大変だろうが、海外での事務所撤退を何とか出来たのは僥倖だろう。
そしてこの時は知る由もなかった。
中国では経済がさらに悪化して日本への風当たりが酷くなっていることを。
* * * * *
「ふう、無事に日本へ帰ってこられた。また日本人学校が襲われたけど、まさか上海でもスーパーで殺傷事件が起こるとはなぁ。ちょうど松江のお客さんのとこに行ってたけど、あのスーパーってあそこだよな……」
本当にニアミスだった。
もしあの時あのスーパーに行ってたら危なかった。
海外とはそういった危険も常に付きまとう場所だ。
私が帰国後も車による無差別殺傷もあった。
しかし、担当の中国からこれで解放された。
さらば中国。
もう二度と仕事で行く事はないだろう。
「あ、さいとう君。君ね、年内は『海外お客様サポート』部に移転ね。今日中に荷物持ってあっちのデスクに移ってね」
「はいっ!? え、海外サポートって……」
こうして私はハゲ上司から渡された紙っぺら一枚で新たな部署へと移動させられた。
そう、今度は中国全般がサポート対象の部署へと。
「エえぇっ? 移ってすぐに上海、蘇州、大連行って来いって…… しかも10日間?? それ無理ですってば!!」
「いいから行ってこい。こっちは韓国行ってからベトナムだ! ああもう、なんでこの部署スタッフ三人しかいねーんだよ!!」
上司のいらだちに私はため息をそっと吐く。
まだまだ私の中国撤退は先になりそうだ。
とほほほ……
「上海事業所撤退を任された男」
―― おしまい ――
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