48 常人と超人
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嬉しいです!
ああ、一人でも増えるともりもりやる気がみなぎってくる……!
本当にありがとうございます!
人間、恐怖に怯えると、本当に真っ青になるよなぁ、とぼんやりと考える。
今、ユーリの目の前には、ほんの少し前に帰っていったはずのシン。全力で駆けてきたのだろう、珍しく息を乱し、肩で息をしている。
そこまでシンが息を乱すのはいつ以来だっただろうか、と考え、そう考えなければならない程以前だったか、と一人納得する。それから視線を上から下まで移動させ、じっくりとシンを観察した。
真っ青な顔。乱れた息はおそらく、自宅にしている宿からこの場所までを全力で駆けたからだけではない。精神の乱れから、呼吸ないし駆ける際の身体の動きに無駄が多く含まれたことが原因だろう。心の不安定は、動物の身体の動作に、思った以上に負荷をかける。それの典型的状況だったと推測しつつ、ユーリはゆっくりと、口元に笑みを浮かべた。いつもどおり、にんまりとしたつまらなそうな笑みを。
「どうしたの、シン?」
紡がれた言葉は、普段シンと喋る時と同じ速度。同じ抑揚。跳ねる心臓そのままに呼吸を繰り返していたシンは、常と変わらぬユーリの姿に、ふー、と大きく息を吐きだし、呼吸を落ち着けた。
額に浮かんだ冷や汗を手の甲で乱暴に拭う。
「悪ぃ、ユーリ。依頼日まで、泊めてくれないか?」
「かまわないよ。何だったら、もうここに住んでも良いんだよ」
ついでに錬金術師に弟子入りをどうだい、といつもの言葉を口にすれば、シンはひどく真面目な表情を浮かべ、それもいいな、と呟いた。
驚いたのはユーリ。
どんなことがあろうとも、けして頷かなかったシン。いったい何があったのか、と瞬く。
「どうしたの、シン?」
「ミーユが……進化しちまった……」
この世の終わりのような声音で吐き出された言葉。それにユーリは、あぁー、と何とも言えない声を漏らした。
進化、とは何か種族が変わった、とかそういう事ではない。シンのストーカーになった、ということ。それも、自宅に勝手に上がり込む。こういった手合いは、異様なほど打たれ強いメンタルを持ち、何を言っても良いように解釈する。言語は通じているはずなのに、話が通じないのだ。まるで何か違う生物と会話をしているかのような錯覚に陥る。故に、進化した、という表現を用いている。
こういった手合いはミーユが初めてではない。むしろ何番煎じか、と首を傾げる数いた。何故だかシンに好意を示す者の多くが、シンが拒絶すると進化するのだ。そしてその度シンはユーリの店や孤児院に転がり込む。相手が諦めるまで帰らない。
「家の鍵がピッキングで開けられていた形跡があったんだ。扉を隙間程度開けたら、平伏しているミーユがいた」
ミーユはハンターだ。それも獣人の。耳は並のハンターよりも遥かに良い。いくらシンがそっと扉を開けても、それ以前に気づいていれば、当然待ち構えているだろう。
「それは、まぁ、なんとも……今までで一番根性のある相手だね」
その姿を幻視し、思わず苦笑を浮かべるユーリ。
過去に幾度となくシンの家に上がり込む者はいた。いたのだが、それはシンが在宅中に、鍵をかけていない扉から上がり込むか、宿屋の主人に、さも真実のように語って鍵を借り受けて上がり込む、この二パターンのみ。ピッキングで強制的に鍵を開けて上がり込む豪胆なパターンは、初めてだった。
「いいよ。いつもどおり、好きに使って」
「助かる。三日後には仕事で出るし、そしたら帰りは一月半後だし、大丈夫だと思う」
「いやー、どうかな? ミーユはバカだけど一途だからねぇ……裏切る心配のない代わりに、諦めがとことん悪いよ」
だから選んだんだし、と続けるユーリに、シンは絶望した表情を浮かべ、頭を抱え込んだ。だが、とユーリは思う。実のところ、頭を抱えたいのはユーリの方だ。
ミーユは使える。頭の出来はちょっとアレだが、能力が類を見ない。上手く育てばこの国では英雄であるカインすらも凌駕する。そう断言できる程。しかしどうやらその芽は出ないようだ、と溜息を零した。才能があっても育つかどうかは本人と、あと時の運次第。リーニャとカインを掛け合わせた、魔人さえも凌駕する、魔神の域へと到達するはずだったのに。
ああ、残念だ、と再度溜息を零した。
シンのストーカーへと進化した者は、何故だか不明だが、その能力を著しく落とし、その後、向上することがない。ストーカーから普通へと戻っても、だ。普通へと戻った際には、何故だか憑き物が落ちたかのようになり、誰からも尊敬されるとても穏やかな人間になる。そして良縁に恵まれ、落ち着く。その幸運を受ける代償なのかもしれない。
ふと、シンを見た。
もしかしたら、と思考を巡らせる。
シン自身、さほど身体能力があるわけではない。耳が良く、気配に敏感なのは、職業柄鍛えられただけで、ハンターなら普通だ。獣よりも痕跡を残さない歩き方は、騎士は驚いていたが、名のあるハンターならできて当然。というか、それが出来なければ城壁の外で生きていくなど不可能。選んだ生き方で、身に着けた所作にすぎない。
それでも、と思う。
シンは、魔人かも知れない。本人に自覚がないだけで。
魔人とは、通常人が到達できない高みに到達した、強者の総称のようなもの。この『強者』は、物理的な強さであることが多いが、実のところ、身体能力でなくとも良い。いや、身体的な能力が一定以上で、精神的なものが常人以上であれば良いのだ。とはいえ、シンの精神が常人以上か、と問われれば、ユーリは、否、と返す。
ユーリから見てシンは、普通、なのだ。肉体も精神も。だからこそ、選んだのだから。
しかし、とユーリは唸る。
シンは異常だ。カリスマ性があるわけではない。驚くほど顔の造形が良いわけでもない。何かしら秀でているとしたら、柔軟な思考だろう、とユーリは答える。少なくとも『ユーリ』という人物を受け入れている時点でそう言える。それでも、常人の域を越えない。それなのに無駄に人を惹きつける。その数は驚くほど多いわけではない。年に片手で足りるほど。それでも、必ず惹きつけられる者が現れる。それは、シンと知り合いになってからの年月を問わない。ミーユのように、年単位で付き合いがあったとしても。
何かある、そう勘繰ったとして、誰が文句を言えようか。
面白い事だ、といつもの席に落ち着き、げんなりとした表情を隠しもしないシンを眺めた。
もしも、と仮定した。
もしもシンが魔人だとして、彼は『何』に特化しているのだろうか。
魔人には、必ず特化したものがある。特化したそれが『呪い』と呼ばれ、魔人の『強さ』だ。
ミリアの滝に住まう魚人、アレグロは『水』
ユーリにローブを与える魔人、探求者は『知識』
過去にシンが罠に嵌めて辛い勝利をもぎ取った魔人は、攻撃の際見せた異様な腕力から、おそらく『力』だと推測される。
では、シンは?
ふむ、と口元を手で覆うようにして隠し、指先で頬を軽く擦る。
現状集めた情報で言えば、おそらくシンが魔人ならば『運』に特化しているのではないのだろうか、と導き出した。となれば、勝てないはずの『力』に特化した、純然たる争いの申し子とも言えるべき魔人に、辛くも勝利できた説明がつく。
生きるか死ぬか、ではなく、死んだ、と強く感じたあの日。思い出すだけでもよく生き残れたものだ、と感嘆する。相手が己の強さに驕っていた、というのと、シンが閃いた罠が偶々功を成しただけ。あの時の閃きは、自分の考えでなかった、とシンは言った。だから、天啓だったのだろう。神が生きろと言ったのだ、とユーリは無神論者のくせにそう答え、二人で力尽きたようにその場に転がった。
共に満身創痍で、ユーリが持ってきたアイテムも、シンが持ってきたアイテムも底を尽き、今ならスライム一匹で死ぬかもしれない。そんな事を考えながらも、手足を投げだし、シンに合わせるように空を見上げるふりをした。
朝から戦い、逃げ、それを繰り返し続け、気が付けば空は朱色と紫紺が飲み込んでいる。
ああ綺麗だな、とシンが心から思っていそうな表情で、空を見上げていた。その横で転がりながらユーリは、辛くも生き残った事に安堵しているシンを観察していた。
あれらが全て、シンによって無自覚に操作された『運』によって得た結果だとしたら?
シンに惹かれ、突然押し掛けて迷惑をかけていた者達が、あっさりとシンを手放す程の幸運に恵まれているのが、操作されたものだとしたら?
洞窟をいくつか潰してドラゴンから逃げ出せた、など、本来不可能。その程度で逃げ出せるような相手ではない。あれも操作されたものだとしたら?
それならある程度は話が合うのだろう、と考え、いや、と首を振った。
シンがある意味、運に味方されているのは間違いない。けれども、魔人、というには足りないのだ。精神的な強さで魔人となった探求者でさえ、シンでは太刀打ちできない。そう断言できる程の身体能力を魔人は有している。やはりそれほどまでに『魔人』とは常人から逸している。
結論からして、ないな、とユーリは一人納得した。
シンはそこそこ強い。ハンターなのだから当然だ。しかし、その戦闘力はカインどころか、名のあるハンターにさえ及ばない。そして、ユーリが見た限り、もうすぐシンの身体能力は限界に来る。そうなればそれ以上の向上は望めない。おそらく、素の戦闘力はスライム以下だと自負するユーリでさえ、錬金術で作ったアイテムを幾らか駆使すれば勝てる。本気のアイテム使用でなくとも。その程度。それで魔人であるはずがない。
だからこそ、良い、と笑った。
常人だからこそ、生きることに足掻く。希望を持つ。絶望を知る。貪欲である。そして、儚い。
ユーリには何一つ持てないもの。それを持ち、真っすぐに生を進んでいく。
素直に『面白い』と興味を持てる。
不意に視線に気づいたようにシンがユーリを見た。片眉を跳ね上げ、視線だけで、なんだ、と問う。それにゆったりと首を左右に振った。
「指名の依頼だって言っていたね」
考えていたことはおくびにもださず、口を開く。そうすれば、ああ、と返事が返った。その声音だけで、ユーリが先程まで考えていた内容と、口にした内容の差に気づいていないのだと分かる。
あれほど警戒心の高い生き物のくせに、素直。
ああ、面白い、と口元が弧を描く。
「護衛、なんだって?」
再び肯定の返事が返った。
ユーリはふぅん、と一つ相槌を打ったまま黙り込む。特に意図したわけではない。ただ、先程まで考えていた事より、こちらの方が優先して思考を巡らせるべき案件だと思っただけ。
「相手は商人、かな?」
「守秘義務ってもんがある」
知ってるよ、と笑う。けれど、確信した。依頼者は商人だ。
ふぅん、と再び声を漏らす。その口元に浮かんだ笑みは、歪んだものへと変わっていた。
半年前、ユーリと懇意にしている魔人、アレグロへと喧嘩を売ったのも商人だった。これは偶然か、それとも、報復か。あるいは、初手で警戒したように青の教団絡みか。
歪んだ笑みを湛えたまま、ユーリの思考は恐ろしい速さで回る。可能性を打ち立てては叩き崩し、計画を立てては崩す。やがて結論を導き出した。
「敵は少なくとも二組。この国を愛している者と、この国を滅ぼしたい者。共通事項はどちらも僕を抹殺したい。この国を愛している者は、この国の民であるシンを害そうとは思っていない可能性がある。だが、今回は滅ぼしたい者。僕の護衛である君を害そうとするだろう。道中、寝食共に気を付けるんだね」
「なんでそう思ったよ」
さほど興味なさげにユーリを見つめるシンの目。その目は、ユーリがそういうのなら、そうなのだろう、という信頼が見えた。
簡単な事さ、とユーリは笑う。
「商隊なら、専属の護衛がいる。けれども今回は『商人』だ。懐具合なんてたかが知れている。そんな相手が、熊とプリンちゃんに、君を雇う? 明らかに過剰だ」
確かに、とシンは頷いた。
シンの他に雇われた二人は、二つ名持ちで、近辺の国ならその名が知れ渡っているハンターと言える。そんな二人を護衛として雇うなら、それなりの金額が必要となってくる。最低でもあの二人は、それぞれ金貨十枚はいるだろう。シンだって護衛費は通常金貨一枚。特別価格はユーリのみ。つまりこの三人をとなると、ただの商人、では雇えないレベルなのだ。
だが、とシンは首を傾げた。
「扮した要人、ということは?」
「ないね。それなら君を雇う意味がわからない」
まぁ、とシンは唇を尖らせた。残り二人に比べ、自分が脆弱な存在である、と力量の差を理解しているからこその反応だ。
それに、とユーリは続ける。
「実際に契約をしているわけではないけれども、君が僕の専属だ、というのは周知の事実。君を指名するのはほぼ不可能。それほど僕に縛られている君をわざわざ指名する、それはどうして?」
「お前と知り合いたい、とか」
「それなら残り二人が要らなくなる。もっと安全な近場までの往復護衛で十分だろう?」
抑え込まれ、シンは口を閉ざした。あっさりと肯定するのは癪だが、否定するほどの何かを持たない。
「君は、初めから護衛に数えられていないんだよ」
くつり、と零された笑いに、確かにな、とシンも頷いた。
帝国までの道のりは一月半。護衛に他の二人がいるのなら、安全は確約された。そう断言できる程度のモンスターしかいない。それなのにシンを雇う必要は、と聞かれれば、つまるところ『そう』としか言えない。
まいったな、とシンは頭を掻いた。
どうもこんにちは。
ショックでひからびたトドです☆≧▽≦キャッキャッ
感想ついた時点でわかってましたが残念です~(´ノω・)シクシク……チラッ
さて、そんなことは向こうに放り投げ……
動く無機物っていいですよね!
某国民的アニメ様の湯屋の話に出てくる、主人公を駅まで迎えにくるカンテラ(?)とか、
動くお城に出てくるカカシとか、
ああいう動く無機物が愛しくてしょうがないです。
ユーリ君家で働いている動く掃除用具、家にもきてくれないかなー……
あ、いえ、部屋が汚れてるとか、そんなことはないんですよ?
私の部屋は、私の手の届くところに全てが揃っているだけですから!
携帯、PC、充電器にゲームのコントローラー。
お湯の沸いたポットとコーヒーとマグカップ。
ほら、完璧☆
あとはおコタからトドが顔と手だけ出しておけば全てがまぁるく収まるのです!
今の私の姿はトドというよりコタツムリ☆
名前、変えようかしら~≧▽≦
髪の毛とか埃って、毎日出るものだしィ? 別に掃除してないわけじゃないしィ?
……。
嘘です。
誰かお家を常に綺麗に保つ方法教えてください……orz
掃除=断捨離気味なので、掃除の度に色々と物がなくなり、必要になっては買い足し……
そろそろこの問題(まともな掃除ができない)が切実な問題になりつつあります……orz




