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錬金術師は人間観察がお好き  作者: 猫田 トド
四章 死に行く村
40/85

39 大捕り物?

やや!

ブクマが増えてる~!

どなたか存じませんが、ありがとうございます!

更新頑張ります!



 中肉中背の男が一人、ガサガサと音をたてながら現れた。男は自分が誰かに監視されているとは露ほども思わず、慣れたように沢に近づき、胸元から瓶を取り出す。そして、蓋を開けると中身を零した。


 数舜間を空け、ユーリが沢の水を汲む。未だ男の手にした瓶の中身は溢れている。


 いつものように水の中に、手持ちの薬を入れて確認していたユーリが、シンを見た。それだけでシンは足元の小石を拾い、投げる。石は正確に男の手首を打ち抜き、男は瓶をとり落とした。


 宙に投げ出された瓶。素早く飛び出し、瓶が地面に落ちるよりも早く拾い上げるシン。


 突然の事に驚く男を無視し、瓶の中身を確認する。瓶の底にはまだ僅か、中身が残っていた。


「証拠を確保したぞ!」

「うむ。感謝しよう」


 瓶を掲げれば、木陰から姿を現すカイン。


 この国どころか、他国の者さえも知る、聖騎士の鎧を身に纏い、正面からは見えないが、背には王家の紋章が入ったマントを羽織った男。顔は知らなくても、その姿を見ればどんな相手なのか一目瞭然。


 男は咄嗟に身をひるがえした。


 まるでそうする、と取り決めていたかのような速さに、けれどもシンもカインも動揺はない。瓶を持ったままのシンが男を蹴り飛ばし、よろめいた男をカインが受け止め、投げ捨てる。背中から地に落ちた男が起き上がるよりも早く、カインの剣が男の首の真横に突き立てられた。


 ヒ、と短い悲鳴。男は身近に迫った冷たい死に、硬直する。


「み、水を、捨てただけで、ど、どう、して、こ、こ、な、乱暴、な……」

「はいはいはい、そんな事を言う子には、魔法使い様のご登場で絶望を教えてあげるよ~」


 へらへらと笑いながら姿を現すユーリ。


「ま、ほう、つかい……? な、何故、そんな者まで……」


 男は驚愕する。それにユーリは笑った。


 男が使った毒は、その効果を確かめることが難しい。それこそこの国の錬金術学校の首席でも難しい。だからこそ、今回使用されていた。


 古今東西謀り事に用いられる毒ならば、後に残らない、見抜かれにくい、そう言ったものが使用される。男も毒の特性を聞かされ、安心していたのだろう。並の錬金術師にはけして判断できない。


 男の誤算はただ一つ。ユーリの登場。


 フィンデルン王国(この国)には『魔法使い』と呼ばれる錬金術師がいる。その事を知っていたとしても、彼が人前に現れたという話はあまりない。また、宰相や国王が王室錬金術師へと望んでも首を縦に振ることがない、ということも有名なため、出張ってくる事はないだろうと考えられても仕方がない。


「なんでって……そりゃぁ、君が僕達錬金術師に喧嘩を売るような真似をしたからだろう」

「お、俺達が何をしたと……!」

「こんな場所で植物に有効な毒を撒いただろう。さて、ここに取り出したるは何の変哲もなさそうな液体」


 左の袖口から取り出される試験管。その中には無色透明の液体。


「アイテム名は『リトマス』これは、通常このように無色透明。しかし、他の物体に触れると色が変化するんだなー。持っている属性ごとにその色は異なる。例えば、この爆弾を解体して火薬を取り出し、この中に入れると……このように赤色になる」


 右の袖から取り出された爆弾。ユーリの手により容易く解体され、中の火薬が取り出された。試験管のコルクを抜き、その中に火薬が少量、入れられるとあっという間に液体は赤色になった。


「さて、この液体、毒属性に触れるとどうなるか、と言うと、何の変化もない。このように、ね」


 新しく取り出される試験管。近寄ってきたシンから受け取った瓶。その中に残った液体を少量、中に入れるが何の変化もない。


「このことを踏まえ、君がこれを水だというのなら、是非、残った中身を君に飲んでもらおう。大丈夫大丈夫。この『除草剤』の毒は植物を枯らすけど、人間が原液を摂取しても、嘔吐下痢発熱でのたうちまわるくらいだ。死にはしないよ」


 ね、と首を傾げる。一瞬声を上げかけたカインとクリストファーも、死なないなら良いか、と頷いた。ユーリの心の中で呟かれる、死んだ方がマシな苦しみだけど、という言葉は届かない。


 何となくユーリのにんまり笑みに、ろくでもない結果になるんだろうな、と想像ついたのはシンだけで、しかし彼も何か言うことはない。それもそのはず。民の生活を脅かすような罪人達を憎むカインは当然の事、民に支持されている国王であるクリストファーも、慈悲深い王ではない。例え肉親だろうとも、その手を穢すことを厭わない王。盗賊、罪人への処罰に手心を加えることは一切ない。口を開こうが開くまいが、男の末路に代わりがないことを知っているシンが、わざわざ無駄な事をするわけがないのだ。


 鼻歌でも歌いだしそうな、軽やかな足取りで近寄ってくる、青年。まるで物語に出てくる魔法使いのようなその姿に、男が息をのんだ。しかし、すぐに怒りに顔を歪める。


「あの村の為か! 獣人を庇うクズどもが! 神の裁きを受けるぞ!」

「いや、獣人とかわりとどうでもいいよ。まぁ依頼があったから来たんだけどさ。僕が怒っているのは別の事だから。獣人が死のうが、人が死のうが、僕は怒らないよ。僕は言ったよね、君が錬金術師に喧嘩を売るような真似をした、と」


 聞いてなかった? と首を傾げるユーリに、男はぽかん、と間の抜けた表情を浮かべた。ユーリが何を言っているのかまるで理解ができない、そう言わんばかりの表情。事実、男は理解できなかった。何しろ彼は獣人を害そうとしただけで、錬金術師に喧嘩を売ったりはしていない。何を言っているのか、とユーリを睨みつける。


 二人の会話を聞いていたカインとクリストファーも首を傾げた。他国へとその呼び名を轟かせる程の腕を持つ錬金術師。その錬金術師のいる国で、この程度の細工もわからないと思われたことが、彼の矜持でも傷つけたのだろうか、と考える。ユーリから直接聞いたシン以外の誰もが見当はずれの事を考えていた。


「君、さ。誰に言われてこんなことをしていたのかは知らないよ? でも、もう少しきちんと下調べとかするべきだったね。おそらく、僕じゃなくても、錬金術学校の人間達でもブチ切れたと思うよ」

「この国の錬金術師は獣人なんかと手を組んでいるのか!?」

「だーかーらー、違うって。僕は獣人も人間もどうでもいいんだよ。問題はこの森の先が、錬金術師にとってとても大切な素材の宝庫だったって事。あそこは年中植物系の素材が採れる採取地なんだよねー」


 精霊の森があるからこそ、この国は錬金術に力を入れる事が出来る。年中通して安定した素材の入手ができ、この国の錬金術は他国よりも発展してきた。前国王が暗愚であっても、錬金術学校が戦場を実験場にしていたから、戦争に負けることはなかったのだ。もしあの森がなければ、他国と変わらない程度の発展しかなく、戦をするほどの力は持たなかっただろう。


 精霊の森を害する者は、フィンデルン王国の錬金術師に喧嘩を売ったも同然。そうユーリが口にしても、致し方がない、特殊な地帯。


 ユーリの説明に、カインとクリストファーも理解した。そして、知らなかったのであろう、他国出身と思われる男に、気の毒そうな視線を向ける。


「ところで君、ちょいちょい訛りがあるねぇ。よくこんな実行部隊に選抜されたなぁ……。君の『ア』と『ク』の発音は、エルサレム帝国ゴガ地方のものだね。あの地方の人間はどんな『ア』も『ア』と『エ』の間のような発音をする。『ク』は『クェ』と発音する。地域が特定しやすいから、あまり実行部隊には向かないと思うよ」


 ぎょっと見ひらかれる目。


 慣れているシンは呆れた視線を、それ以外は驚愕と畏怖の視線を。訓練された人間でもわからないような事を、わかって当然のように告げるユーリに向けるのだが、ユーリは首を傾げた。


「君、青の教団に所属する以前から獣人迫害をしていたね。普通、あそこまで大きな組織の実行部隊なら、もっと警戒をする。しかし君はこの八日間一度も、犯行前に辺りをきちんと警戒していない。組織に所属する以前、個人で活動していたころに何度も成功したタイプに多いパターンだね」


 誰の手も借りない頃に成功を重ねると、段々と何をやってもバレない、と気持ちが大きくなってくる。青の組織程巨大で、各国で活動するような組織で活動を始めた者ならば、その辺りの心の隙に対する教育が徹底され、そんなずさんな行動をとらない。


 他国、それも獣人を保護する国。法により亜人を守る国で行動するのならば、他の国よりも慎重になる。慎重に慎重を重ね、自分達の存在の発覚も、国家間の問題に発達するような真似もしてはならない。そうでなければ自分達の首を絞め、動きにくくなるだけなのだから。


 青の教団は正義を前面に押し出してきた。それを民衆が受け入れたからこそ、巨大となったのだ。他国の法を犯し、国同士の問題に発展した場合、民衆はあっさりと掌を返すだろう。彼等は自分達に災いをもたらすモノに容赦がない。男は、その事を理解していなかった。組織というよりも、個人に近い思考を持っていたのだろう。


 ユーリの解説に、男は青ざめ、シン達は成程、と頷く。


「それで? 正直に色々とお話してくれるかな?」


 にんまりと弧を描く口が不気味に見える。フードが落とす、顔の陰が底の見えない闇のように思えてならなった。それでも男は口を引き結ぶ。


「まぁ、君が喋ろうが喋るまいが良いけどね? その場合僕は都合よく解釈してあげる。大丈夫かな? 僕は他者の生き死に何て気にしないよ。エルサレム帝国が地図上から消えないといいね。青の教団に所属した者、賛同した者、全てが消えてなくならないといいね。魔法使い、そう呼ばれる僕の腕、歴史に残るかもしれないなぁ」


 愉しみだなぁ、と優しく囁く声。恍惚とした艶を含んだその声は、おぞましい響きをもって、男の鼓膜を震わせる。それは正に悪魔の声、とでも言うべきものだった。


 人ではない、何か異質なものを見る視線を向ける。


 国が亡ぼうが、どれほどの人間が死のうが、まるで気にしない。そんな事よりも錬金術の素材が採れる採取地を荒らした方が問題だ。そうのたまう者が異常者じゃなければ、何だというのか。


 男が聞いた魔法使いの噂は、民の為に長く続く戦乱を治めた正義の使者。


 通常の錬金術師では到達できない威力を誇るアイテムを、造ることのできないアイテムを、容易く造る凄腕の錬金術師。


 先の戦争を終わらせた嵐は、エルサレム帝国の帝都からも見えたと言われている。帝都と戦場の間には山が横たわり、距離以外にも戦場で起きている事が見えるわけがない。それが『見えた』というのだから、その威力のすさまじさも想像が膨らむもの。


 彼の造ったというアイテムの噂は、近隣諸国で知らぬものはない。青の教団でも幾度となく入手しようと試みたが、何故か入手できなかった。彼は他国の依頼は受けていないので、当然通常の方法では入手できない。上がる依頼を片っ端からこなす、という噂を聞き、商人を使ってフィンデルン王国で依頼を出してはみたものの、入手できた試しはない。たとえ依頼であっても他国からのものは受けないというのか。


 ならばと、王国に信者が潜り込み、王国民として依頼をしてみたが空振りに終わった。しかしそのアイテムは確かに存在し、ハンターや、王国の、青の教団とは一切関わらない者は当たり前のように使っている。


 本人に直接会ってみたくとも、彼の店に行くには、彼に許された者のみ、選ばれた者のみという謎。けれども、そこに辿り着けば、どんな悩みも、問題も、彼の錬金術師が軽やかに解決するという。


 まるで伝説の中にだけ存在しているかのようで、けれども実際に存在する、不思議な存在。そう、まるで雲をつかむかのような、そんな存在。それでもフィンデルン王国民の間で、英雄のように、神のように、正義の代弁者のように語られる。


 そんな存在が『人の命に価値を見出していない』などと誰が想像しただろうか。少なくとも男も、教団の誰も、そんな想像をしたことはない。むしろ、正義と呼ばれるのだから、接触し、話さえできれば教団の考えに賛同し、正義の為に動いてくれるに違いない、そう信じる者ばかりだった。


「お、お前! 魔法使い等と、嘘だな!? 魔法使いは正義の使者だ! そのような事を言うわけがない!」

「いや、残念だが、彼は魔法使い殿だ。フィンデルン王国現国王であるこの私が保証する」

「な!? こ、国王だと!?」


 にやりと笑うクリストファーに、男が驚いたのは一瞬。直ぐに激しい憎悪を隠しもしない表情を浮かべた。


「お前が簒奪(さんだつ)王か!! 父王を(しい)し、獣人を国民とする愚王ぎゃぁっ!!」


 男の肩をカインの剣が貫いた。


 あーぁあ、とユーリは肩を竦める。


 カインはクリストファーの剣。クーデターの頃から仕え、クリストファーの考えを間近で見続け、己の剣を本気で捧げた。主を愚弄する者を許すわけがない。拷問フルコースでも甘いと感じる今後が待っていることは、想像に容易い。


 もうここまできたら、ルルクに先程の男の暴言を伝え、行くところまで行ってもらうか、と一人納得したユーリ。そして男の末路に興味が失せた。


「カイン聖騎士長、向こうも終わっただろうし、僕はもう帰るよ。これから街に戻って、毒の中和剤と、枯れた植物を蘇らせる薬と、土を豊かにする薬を造らないといけないんだ」

「うむ。盗賊の捕縛に感謝する」

「魔法使い殿、今回の件、魔法使い殿の名を使っても構わないか?」

「ああ、勿論。もしも戦争になるなら、この僕が帝国を地図から消すようなアイテムを造ってあげるよ。いや、本当に。その事、伝えて構わないよ。ちゃんと、青の教団の信者が、この国に何をしたのか、明確にしてくれるなら、だけどね」


 ユーリの条件は尤もで、クリストファーは大きく頷いた。


 青の教団の関係者を見分ける方法を確認し、処遇の希望を問う。返った答えは当然で、そして余計な争いの火種を抱え込みたくないクリストファーとしても満足の行くもの。結論は早計には出せないが、おそらくそうなるであろうことは想像に容易かった。



四章終了。


……おかしい。

ジブリみたいな話を書こうと思って書き始めた作品なのに……

ユーリ君のキャラデザ、トトロからきてる筈なのに……

なんでこんな話になってるんだろう?

そんなこと考えながらジブリショップ行ってヌイグルミ眺めてたら、ユーリ君はトトロより猫バスに似てるかもしれない、なんて思った。

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