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冥府への旅路④闘技場



「……ええ、デスから何らかの命令が森に代々染み付いている様で、わざわざその様に根を張って人を迷わす様な配置にしているのだと、そこまでは答えてくれましたが…【写像】もさせてくれませんでした。他の術は快く使わせてくれるのですが…、とにかく森への侵入を阻む命令が何者からか、出ているとしか思えません、下の世界だったら樹海は兎も角、富士山はポピュラーな登山スポットだったんですけどね」


涼夏に続いてジョーイが考察も交えて説明する。


「その何者か…も分からないらしいんです、木々は人の様な視点で個人を識別しないらしいので…恐らくは相当昔、遥か古代からその命令が既に生命の在り方にまで定着しているのかと…それに…瘴気も酷くて、だからキチンと目印が記された地図が無いと厳しいかも…」


二人の話を聞き、アイラは心配そうに正人に問う。


「ドルイドの技も通じない森…か、今更だが…なら…やっぱり他に方法は無いのか、となれば君の負担はどうしても大きくなってしまう…正人はどう思う?意見を聞かせてくれ、私も君一人に負担を掛けるのは心苦しい、矢張り…私が…」


「アイラ、君にそれをさせるわけには…うん、俺もやっぱり、地図無しで樹海に入るのは危険だと思う、俺達の世界でも自殺の名所なんて呼ばれていたり、地磁気異常でコンパスが役に立たないなんて言われてる場所でさ、しかもこっちの樹海は魔界の深部、その危険度は俺達の世界の樹海なんか比較にならない、それに考えてみれば古の時代から長い事、住んでいる筈の馬頭人でさえ油断して子鬼達に使役される羽目になってたんだ。だけど…クソッ!」


現在、バカ高い地図など買う必要は無いと、涼香とジョーイで一度樹海の入り口に向かい、涼夏のドルイドの技が使えないか試し…


結局、流星街を見下ろすキャンプに戻って、相談の最中である。

 

アイラの張った炎の結界術で空間を浄化しているので、周囲の瘴気は少しづつ浄化され綺麗な霊素に戻って行く、そのお陰か昏倒した美咲の回復も早い、徐々に顔色も良くなり、穏やかな寝息を立てている。


アイラの炎の結界術は非常に強力で、炎を灯した松明を周囲に差し、明かりが届く範囲、半径十メートル前後を清浄な空間にし、炎に弱い魔獣の類を近づけさせない、だが反面非常に目立ち、周囲に燃える物が有ると少々使いづらいと言ったデメリットも有る。


特に、この場所は丘の上でも有るので余計に目立つ、恐らくは街からも確認出来るだろう、監視はされている様で、少し離れた場所から数匹の狐がじっとこちらを見つめている、話している会話までは聞こえないのが幸いと言ったところか。

 

「美咲ちゃんをこんな目に合わせるなんて…しかも仕掛けて来てくれれば奴隷に出来ただって?!許せん…許せないけど…くうっ!…奴等には【目】がある、樹海にも詳しい、こちらの目的が分かった以上、話を断ればどんな邪魔をされるか知れた物じゃない…」


英二は矢張り美咲がやられた事で憤っている、とは言え直接的に攻撃を受けたわけでは無く、呪術結界、美咲の敵意による自動発動のエナジードレインを受けた結果ではあるので、どう言って怒ったものか分からないらしい。


「狐麻里一族…私はアシハラの歴史に付いては詳しく無いのだが、少ない知識で言えるのは狐人達は陽属性の力が強く、獣人にしては珍しく火の属性に親和性があるとも聞いている。その狐麻里一族の使う呪術は一派的な狐人とは真逆で陰属性に特化した術で間違い無いだろう。収奪、減衰、減退、或いは沈静、安定、停止、治療師などが使う技は精神を沈静化させたり瘴気の影響…邪鬼の使う邪言の支配を除去する術なのだが…霊力で瘴気を操る呪術か…しかも魔人なら何の消費も無く…」


アイラの言葉の続きを涼夏が補足する。


「デスね、七区なら瘴気は無尽蔵、邪鬼達…魔人は瘴気を吸収して傷を癒し術を行使する、補給の心配もせずに高度な結界を維持する事が出来ます…防御に関しては無敵、と言う程では流石に無いと思いますが、彼の機嫌を損ねて一族全体を敵に回すのは得策では有りませんね、邪悪ではあれど一応人間ではありますし、こちらに対して害意は持ってませんから…」


それにはジョーイも同意する。


「売春宿に奴隷制度、僕と同じ西方人の避難民の子孫も…思う所は有るけど…精神性を堕とし、魔界に堕ちてしまったら仕方無いのかも知れない、これが七区で生きると言う事なのかも、救い出せるなら救い出したいけど、金の話になるだろうし、あの奴隷達が他の区域で生活出来る精神性を持ってるかも怪しい…ただ流星街は七区の他の街より荒れて無いし、良く治まっている。出来れば彼と対立するのは避けたい…仮に他の場所に戻って金を稼いでも…金額を釣り上げられたら…だからやっぱり…」


全員の視線が正人に集中する。


「あぁ…分かってるさ、俺に必要なのは覚悟の時間だけ、美咲ちゃんが代わりに出てくれたら…とはちょっとだけ考えたけどな、美咲ちゃんの性格上奴にはどうしても敵対心出ちゃうだろうし…相手は魔獣か…装備品と術を使っても良いんだ…今の俺なら…あの赤い鬼だって取り逃しちゃったけど圧倒出来ていたんだ、大丈夫!…俺はやれる!俺がやるしか無いんだ!最低でも五戦、一試合に付き都市金貨十枚…」


「…正人…私も近接戦は割と得意なんだ、私の存在も既にバレている、やっぱり私が出れるなら…」


だが英二が止めに入る。


「アイラさん、貴女に万が一の事があっては僕らの帰還も出来なくなる、心配なのは…その…理解してますがここは正人に任せてやってくれませんか?」


そして正人も…他人から評価され好意を得る、と云う現象は人を気高くする。


少なくとも、アイラの前では情けない姿は見せたくない…そう思う故であったろうか?


「アイラの気持ちは嬉しいよ、俺はビビリだけど、流石に巫女様を矢面に立たせるつもりは無い、覚悟は決まったよ、それに高夜は俺をご指名なんだ…大丈夫…大丈夫だよ…ここで俺が金を稼いで来るのを待っててくれ、美咲ちゃんが起きたらアイツの所に行くとか言い出すかだろうから、止めて貰わないとだし…」


「そうか…ならせめて…」



◆ ◆ ◆



「流石は我が街の盟主、高夜様が直接スカウトした闘士!一回戦では小型とはいえ!熊の一角獣を現人が術も使わずわずか三発で沈める剛力を見せ付けてくれました!続いて二戦目ここからが本物の魔獣…なんと!鈍狼の邪眼も咆哮も見事に無効化し、その腹に大地の槍を突き立て、攻防に於いて優れた術師で有ると証明もしてくれやがりましたぁ〜!!!」


ここで野外闘技場の司会は一旦言葉を切る。


「ですが…それは、辺境に入る前衛担当の冒険者で有れば、あの二匹に対処出来る者も多い事でしょう…だが…次はどうでしょうか?震度の浅い区域から深い場所まで縦横無尽に駆け回る森の暴走ランナー!アシハラの巨獣と言えばコイツだ!巨猪(きょちょ)!果たして円谷正人はこの巨獣を仕留める事が出来るのか?!」


観客席の殆どからブーイングが飛ぶ、この試合で闘士が魔獣に食い殺される方に賭けていた者と、他は残忍なショーが見たかった者かもしれない。


(クソッ酷いな!誰も応援なんかしてくれない…完全なアウェイだ、でも…最初の熊にはビビったけど…全く問題ない、あの小鬼の親玉…相当強かったんだな…それに鈍狼の邪眼も咆哮も…)


これはアイラの掛けてくれた言霊とは違う、ライオンハートの術のお陰かも知れない、彼女の母方に伝わる霊術の一つらしい、英二の使う【火心】の言霊よりも効果時間が矢鱈と長いのは、術の性質に依るものか?それともアイラの膨大な霊力量あっての現象なのかは分からない。


彼女の祖神、ブリギット由来の霊術なのだろうか?


由来の説明は受けて居ないが戦士に必須の術だとか?


アイラとしては高夜の陰系統の呪術を警戒しての処置であったのだろうが…


これは正人に取っては有り難い処置であった。


元々ビビりだから…では無く、地属性の術は言霊でも別の霊術でも物理特化で精神に影響する様な術が殆ど無く、正人が知っていたとしても正人は精神に影響する術の適正がほぼ無いので使えたとしても効果は低い。


因みに地系統の数少ない精神系の術は術阻害への抵抗を高める技などが有る。


元々街が何かのグラウンドだったのだろうか?円形の闘技場の奥から目隠しをされた巨大な生物が調教師に引かれて連れられて来た。


四足の獣で有るにも関わらずその高さは二メートルを超え…全長でどれぐらい有るのかここからでは分からないが、兎に角、その威圧感は半端無い。


(どうするか、霊力消費度外視で地霊の刃で一気に仕留めるか…それとも石の鎧で防御を固めて…大地の槍では…無理だろうな、せめて金属に変換出来れば…いや、出来ない技の事など考えても仕方無い…巨体の愚直な猪の化け物…か、見たことは無いけど、少し試して見るか…想像出来れば具現化出来る)


◆ ◆ ◆


一般的には魔狼の方が魔獣としての格は高いとされているが、それはあくまで邪眼の様な特集能力があっての話で有る。


そのパワーは魔狼など足元にも及ばない、四区などでも稀に出没する事があるのだが、精神系統の術師の居ない村は大惨事で有る。


冷気には強いが炎や電撃等のエネルギー攻撃には弱い…が…火達磨になりながら、あの巨体でそこら中を暴れのたうち回るのだから、例え仕留めてもそれはそれで大惨事となる。


「おい!あんた!アレは無いだろう!正人は地属性特化の戦士だぞ!いくらあの怪力でも…奴の突進を受けたりすれば…せめて俺か英二が…でもちょっと待てよ…闘士が火属性が得意な術士だったとして…あんなのが暴れまわったら例え仕留めても…下で見ている観客だってタダじゃ済まないぞ?それ用の対策はしてるのか?!」


「ジョーイさん!それは多分…」


ジョーイが少し後ろのVIP席に座る高夜に疑問をぶつける、涼香は高夜の答えが分かっているらしい。


つまりは…そう言う事だ。


「得意属性が何だって?頭は大丈夫か?闘技場だぞ?何故挑戦者に配慮しなきゃならない?対策だって?良い席のチケットを買えなかった者の自己責任だろ?被害が出る程の熱い戦いになれば…それはそれじゃ無いの?それに自分でアホな事を聞いてるとは思わないのかね?金髪君?ここは七区だぜ?君は一体どこの生まれだ?避難民の子孫だとは思うが…」


人に見えるからそんな事も聞いてしまう、その精神は最早…人では無い、魔人、邪鬼で有ると思い出した。


「あぁ…そうだったな、アンタは…俺は四区の出だ、それが何か?」


高夜は小馬鹿にした様に笑う。


「なるほどね、品行方正にして賢明、質素にして堅実なアーミンズの子孫共か…なるほど道理で白人にしてはお人好しのマヌケ顔だと思ったよ、ハハハ♪奴らは世俗を離れて牧歌的な生活を送るのを至上としてるんだっけか?大量の横暴な移民を送り込み、アシハラの土地を穢そうとした金の亡者の子孫とは違いますってか?フン…共生を謳いながら自分達の価値観を押し付けるバカよりはマシか…だが、どちらも異物だけどな…」


古い血族の血を引く大八島国の夜を守ってきた一族の高夜にしてみれば…アシハラ人の中でもごく少数とはいえ七区の…魔界に押し込められたアシハラ人の一人にしてみれば、外国からの避難民に対して冷酷で有るのは仕方が無いのかも知れない。


「アンタの事は良く分かったよ、だけど俺はそんな挑発には乗らない、逆らわせて奴隷にしようったって無駄だよ、マヌケなのも認めるしね、村の生活を否定して村を出たマヌケなのは事実だから…さ」


「フン、つまらないな、分かったか…賢明な所は認めてやるよ♪」


「そりゃどーも…光栄だね…」


そんな高夜とジョーイの会話に興味を引かれた涼夏がジョーイに質問する。


「ねぇねぇ、ジョーイさん?アーミンズとは何なのですか?」


「ああ…それは…」


アーミンズとは…かつて世界宗教が崩壊し分裂した際に作られた世界宗教の分派の一つで有る。


聖者アーミンは元々は世界宗教の教会の司祭の一人であった。


だが有る時、教会上層部の在り方に疑問を抱き、異端審問に掛けられ、拷問の最中に【真人】への覚醒進化を果たした。


その力で牢を抜け出したアーミンは他の神格者達と悪神を打ち倒し、後に世界宗教の教義を変化させた分派を立ち上げその開祖となった。


アーミンの分派の信徒達は混迷する西大陸から新大陸…アシハラの東に有る大陸へ移り住み、質素に慎ましい生活をしながら死後は神の元で修行の日々を送り魂を鍛える…そんな教義を信じる集団となり、アーミンズと呼ばれる様になった。


牧歌的で閉鎖的故に、東大陸では様々な問題もあったらしいのだが、アシハラに来た者達の集落ではその辺は緩和されているそうな、海を越えて他の者に混じってる時点で他のアーミンズよりも、先進的な要素を許容するグループだったのかも知れないが…故にジョーイの様な若者も出て来たのだろう。


「それが俺の先祖らしいよ?まぁ…アシハラに、来てからこっちの影響で結構変わっちゃってる部分も有るらしいけどね…」


「へぇ〜…ん?下の世界にもそんな人達が居た様な…?」


そんな会話をしている時だった。


「おっ!そろそろ始まるぜ?円谷君の戦いは見ないのかい?良い感じて彼に賭ける者も増えてきたらしいぞ?…まぁ…どっちでも良いけど…次くらいかな…フフ♪」


ジョーイは闘技場の真ん中を見る。


(大猪…巨猪、前に練習も兼ねて一体仕留めた事があったけど…あの時はムトゥパさんも、カレンさんも、鈴華(リンファ)も…皆が居てくれたから狙いを定める事が出来た…決して一人で戦う様な魔獣じゃ無い…)


パワーはあるが阻害系の術には弱く、属性も効きやすい、だが正人は攻撃防御、術も物理特化の霊術、地属性…


司会者が開始の合図を告げ、調教師が魔獣の目隠しを外す…


巨猪は後ろ足で勢いを付け土埃が派手に舞い上がる。


正人はそれまで武器として使っていた岩の手甲を解除し…素手となる。


ジョーイは、会場の歓声の中では声は届かないと分かりつつも叫ばずには居られなかった。


「正人!何をやっているんだ!石の鎧だ!防御を固めるんだ!そいつの突進をマトモに食らったらいくらお前でもっ……!」


だが…遠目に見る正人は手を下げたまま目を瞑り…何かを呟く。


そして…会場が揺れた。



暫くは投稿頻度落ちますが…勘弁して下され…m(_ _)m

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