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巫女の行方①炎の賢者



正人達より年上だろうか?顔の濃いアシハラ人、と言った風情の孫娘が書類を置いて新しいお茶を入れ直して下がって行った。


「おーこれこれ……詳細良く見とらんかったわ…」


「なんでそんな重要そうな案件忘れてるんだよ!おかしいだろ!ギルドマスターとして!」


弥之助はニヤリと笑い、当たり前の様に子供の様な理屈で理由を話す。


「いやのぉ、仙人共がなぁ、顔を見せれば嫌味を言うでな、苦言を呈してるだけ、とか言うでのぉ、確かに浄化ギルドに加盟はさせて貰っとるよ?仕事も振って貰っとる。でもなぁこの街で何十年も冒険者として活躍して来た我が一族の城でも有るんじゃ!息子達も命懸けで頑張って来とるんじゃ!家族を要職に就けて何が悪いと言うんだ!嫌味をチクチクと言われたら、奴らの娘の事なんぞ知った事か!って…なるじゃろ?」


成る程、これが第五居住可能区域に住む者の精神性なのだと、正人は思い至る。


とはいえこの老人をバカにするつもりは無い。


正人達の世界にもこんな考えをする人間は山の様にいる。


…公的な仕事だと言うのに世襲させる様な…


ましてや高木弥之助は戦国時代の人間で有る。


そう言った考えになるのは仕方無いのかも知れない。


ここに来る前に立ち寄った第五居住可能区域の街も、形は違えど、どこかで見たような揉め事を目にした。


一言添えるならば、別に悪人では無い、ただ自身の正しさを絶対であると信じ、それを押し付け合う輩が非常に多いと感じた。


街ごとに生活する上での決まり事はあるが罰則は無い、最初はどうなんだ?それ…と思っていたのだが、罰則を設けない、と言う事は罪を犯す者を殺傷したとして咎める罰則も無い。


手を出せば手を出される。


仲間や家族を傷付けられれば仲間を集めて仕返しされる。


人望なんぞは普段の行動ありきで有る。


態度やマナーが悪い者は人望など無い、つまりいざと言う時に助けてくれる仲間も少ない。


盗みをすれば手を切られる、街のルールを守らなければ、傍迷惑な者は追放される。


勿論そんな決まりは無いが、全ては暗黙の了解で事は進む。


子供のいじめなんぞは、法は無いのだ、イタズラやジョークなどの言い訳は通じない。


希少な事例では有るが、いじめを受けて怒りと悲しみに支配された子供に周囲の精霊が同調して学び舎が崩壊した例も有る。


特にアシハラは世界宗教の影響が軽微であり、古来より聖霊や霊をずっと祀って来た土地故に、或いは言語自体が精霊や霊的な存在とコンタクトしやすい性質で有る為に、感情を込めて吐いた言葉が言霊となってしまう場合も有る。


精霊も危機を感じた子供の純粋な願望に、破壊的な衝動に反応してしまうのだろうか?


勿論無自覚に言霊を行使した代償は有り、幼ければ命に関わる。


とはいえ、周囲の精霊力の性質や諸々の条件が噛み合った事例で当事者に余程の才能や適性が無ければ起こらない事故ではある。


だがそうで無くとも銃も有れば剣も有る。


その他の術や技も、上位者が唯一禁じている魔法を行使する者だっている。


そう、下の世界とは違い、腕力だけではどうにもならない事の方が多いのだ。


寝ている間に術で攻撃され、家が崩れ一家全員が下敷きに、或いは丸焼けになる事だってある。


この世界の【律】では、人の恨み買わないに越したことは無いのだ。


そんなわけで法は無くとも意外と秩序は保たれ、第五居住可能区域くらいまでは揉め事はあっても刃傷沙汰は極比較的少ない。


精々が殴り合いになる程度だろうか?


(確かに…俺達の世界がマドカ達に下の世界と言われても仕方無いのかも知れない、俺達の世界の人間達のほとんどの精神性が第五や第六レベルなんだろうな、最も精神性が高い人間でも第四レベルってところか?…結界で人を分けるって、どうなの?って思ってたけど、そうか…みんな自分が住みやすい場所に住んでるってコトか…)


この地球の並行世界の法則とは少しづつ違う世界の傾向が物理編重(ぶつりへんじゅう)の世界ほど並行領域の下に並ぶ世界となる。


重ければ重い程、精神性は低くなり人々は霊性や神性、目に見えない物を否定する様になる。


既に生命が存在せず滅んでしまった世界も多いらしい、救いが有るとすれば波及は横と下に波及はするが、より軽い世界上位の世界には波及しない。


つまり正人達のラインの並行世界で滅んだ世界は、取り敢えずは無いと言う事にも繋がる。


黙ったまま考え込む正人に老人が声を掛ける。


「なんじゃ小僧、文句でも有るんか?」


ギロリと正人を睨む、既に弥之助には嫌われつつ有る。


正人は自分が失礼な事に気付いていないから…


「いや、まぁ無いわけじゃないけど、この世界って上手く出来てんなって…さ、俺ってちょっとは進化してたんだなぁって、いやぁ感慨深い…」


「なんじゃ?そりゃあ?…なんか腹立つのぉ…」


「それよか、その案件俺達が受けても良いか?」


老人はキョトンとした顔をし、その後爆笑する。


「………ん?………ウハハハハハハハハハハハ!!!小僧wおまwちょーし乗り過ぎ!昨日今日冒険者になった奴なんぞに振れる案件じゃ無いわい!ほれ!これ見てみい!それなりに経験の有る冒険者パーティーが二組も全滅しとる!たった一人を残してな!生き残りの話も最初の一人が倒れて、相手が何をしたか分からんうちに一斉攻撃でわけの分からんままにやられたってよ!小鬼共は奸知に長けとる。突然倒れたって事は【色付き】がおるのか、それとも大型の魔獣か亜人でも使役しとるのか…まぁ…諦めろ。焔の巫女は他を当たれ多分もう生きておらん…」


老人の言葉に反論する。


「いや爺さん、俺等に修行付けてくれた真人の予言があるんだ、生きて無ければそんな事は言わないだろ?」


「仙人に修行をつけて貰ったのが自信の源か、ワシだってこっちに数十年おるんじゃ仙人共の話だって聞いた事は有る。まぁまた聞きが多いがの、浄化ギルドの顧問になっとる奴はチクチク言うから話したく無いし、予言なんてのはあれよ、別の世界の可能性とやらを見てるだけらしいぞ?三千世界のな、つまりはこことは違うって事じゃろ?」


マドカ推しの涼夏が口を挟む。


「マスター補足しますと、違う世界と言ってもその違いは微細な場合も有り…例えば先程のお孫さんが女性では無く男性の世界線であったり、そのお茶が果実水に変わっていたり…そんな程度の違いの世界もあるのデス…だから…」


「ふぅむ、小僧の言う事はともかくとして…お嬢さんがそう言うならそうなのかも知れん。が、小鬼を舐めてはいかん一匹一匹は普通の戦士には及ばんがのぉ、色付きの様な特殊個体は熟練の戦士でも生きるか死ぬかの戦いになる事も有る。体色でおおよその傾向は分かるが、出くわす奴が自分と相性が悪けりゃ確実に死ぬ。それに女には特に危険じゃ、それくらいは知っておろう?」


美咲も老人の説得に加わる。


「大丈夫よ♪修行中にも小鬼はやっつけてるし、ここに来る途中でもえっと、亜人じゃなくて大型獣人の奴隷だったけど馬頭?ともタイマンしてるし、洗脳が解けてお礼するから村に来いなんて言われて…正人君だってちょっと小さかったけど、その時に色付きだって倒してるんだから♪」


「おお!馬頭か!珍しい…冥府の穴の近くに浄化の結界を張って一切文明と交流しない変わった民族だと聞くが…魔界にも近いらしいでなぁ?狩に出た時にでも小鬼に捕まったのか?…西方と違ってアシハラの獣人達は役目を持って僻地や聖域で生活しとるのも多いでなぁ…西方だとあの手の大型獣人でも…」


弥之助の話はすぐに逸れる。


「そうそう牛頭!女房に昔聞いたんじゃが…奴らも昔は馬頭と同じ役目を持っとったらしいが、大昔に別の種族に軍人として雇われる様になってから街で暮らす様になったと聞いた。家族連れで西方の前線におるからこっちでは滅多に見掛けんがなぁ」


英二が逸れた話を修正しつつ本題に戻す。


「成る程、面白い情報を聞けて勉強になります、僕らはその大型獣人とでも正面から戦えますし、正人も色付きの小鬼を倒せる戦士です。どうか僕達にその案件を任せて貰えないでしょうか?」


「う〜む、お前等の事を全く知らんかったら止めないで投げてたかも知らんけどなぁ、時は違えど同じ世界から来た同胞じゃ、ムザムザと死地に送るのも忍びない、ワシとしては折角知り合いになれ…」


弥之助が次の言葉を続けようと息を飲んた直前、何も無い空間に焔が湧き出て人の形を成す。


「うわっ!何じゃ?!」


「集合!警戒体制!」


警戒して臨戦態勢となった弥之助が刀を抜いて構え…


正人達も一箇所に集まり防衛の陣を敷く。


…だが…敵では無いらしい。


「おっと失礼!ご老人!刀を納められよ!私は我が弟子に伝える事があって来たに過ぎぬ…」


焔が変化し、褐色の肌の痩せた理知的な面立ちの、坊主頭の男に変わる。


「師匠!」


英二が驚きながらも笑顔になる。


「英二!数週間ぶりだな!元気にやっている様でなにより、先ずは御老人方に自己紹介を…我が名はアグニ=グプタ、真人です。お見知り置きを…数カ月前に須弥山から戻ったばかりで、今は何の仕事にも就いておらぬが、マドカノミコトの頼みでそこの英二の教育を引き受けた者です」


弥之助は驚きながらも刀を納める。


「いや〜こりゃ失礼…仙人様でしたか…ワシの知っとる方は空を跳ねて来られるので…ちっと驚きましたわ…」


「あぁ…あの方は大気の術に秀でた方ですので、いつもアシハラ各所のギルドに顔を出して、何か苦言を呈すのが趣味の方ですから、本当はあまり人間達の生活に干渉しない方が良いのですが、愛が深い方ですので…何かと言いたくなってしまう様ですね…」


成る程…オブラートに包んで言っている様だが…口煩いのは確からしい。


「でも突然現れるなんて師匠らしく無いですね…マドカさんから火急の用件ですか?」


「私は千里眼を持っていなくてね、君の気を探っていたらこうなってしまった。実は…焔の巫女が一人行方不明になったと聞いて、そう…詳しくは説明出来ないが、以前マドカに聞いた話、そうだな…彼の予言とでもしておこうか?…それと関連してる話だと気付いた。私の直感みたいなものなのだが君に話した方が良いと思ってね。」


「と…言われますと?」


「私も案件の詳細は目にした。北部の大森林は広く瘴気も濃い。千里眼持ちでもほぼ見通せない場所にある。小鬼達の部族も小さい物から大きいものまで推定百以上の部族が有るとされている。この件を聞いた限りでは…恐らくは各部族から追い出されたはぐれ者、或いは若い個体が過激な挑発を繰り返している様にも見える。だが二組のパーティーが消息を絶ったと聞く、少々得体が知れない…よっぽど狡猾なのか自信が有るのか…大鬼でも産まれたか…」


弥之助がアグニに同調して正人達を説得に掛かる。


「大鬼!ほれ見た事か!仙人様もこうおっしゃっておられる…もう人の手には負えんと言う事じゃ、と…言う事は仙人様方が自ら(おもむ)かれるので?」


だがアグニはバッサリとそれを否定する。


「いえ我らは巫女達の試練に干渉はしません、彼女の両親が生きていたとしても、それは望みますまい、現人の運命には極力干渉はしません。それが巫女で有れば尚更しない、例え命を失ったとしてもそれはそれ、我ら上位者は西大陸の解放の戦いは別として、彼女達の判断の結果や魂の成長を奪う事は基本的にしない、干渉するとすれば自身の因果に関わる場合だけなのです」


(そう…マドカと私が因果の果てに友人となったのと同様に…ならば英二を通じてこの若者達にも気付きを伝えるのも因果だろう…)


「いやはや…多少は仙人様方の事は知っておるつもりでしたが、我々只人とは全く異なる視点と基準をお持ちなのですな。もし我が孫が同じ目に遭ったとしたら…ワシは無謀を承知で行くかも知れませぬ。例え大鬼で有ろうとも」


上位者達の視点は全く違う、本来で有れば真人や神人に進化すると生殖願望は衰える。


焔の巫女の様な或いは神代の英雄の様な規格外の人類を誕生させたのは、魔界に覆われた世界と衰退した人類を立て直す為の方策の一つなのだ。


勿論普通の親達の様に幼少期は愛を注ぐ。


だが子供達が一人で物を考えられる年になったら、その判断や生き方を一切疎外しない。


ただ生き方の一つとして、焔の巫女を選択肢の一つとして提示するのみ。


現にその子供達は規格外の能力を秘めながらも、普通の人生を選択する者も存在する。


【焔の巫女】は彼女達がそうあろうと自身で決めた結果なのだ。


「まだ大鬼だと決まったわけでは有りません。奴らは狡猾で高い知性を持っていますが、その力故に人質が居るなら、直接街に出向いて人質を盾に街を攻め落とすぐらいの事はするでしょう。或いは兵隊の数が足りていないのか、その辺の真偽を確認する為にも先ずは焔の従士を探しなさい。恐らく生き残りがいます…ジョーか…ジャックか…万が一大鬼が誕生していたら…我々も出ねばならない…が…アシハラでは我々が憶測で力を振るう事は禁じられているのでね」


しかし街や村は幾つも有る。


「アグニさん、取り敢えずは俺達もジョーを探す事に異論は無いけど、巫女を助けに行って大鬼とハチあわせるのは勘弁だし、でも何処を探せば良いんだろう?」


「マドカの見た予言…では第六居住可能区域らしい…住民は殺伐としてボッタクリや詐欺、刃傷沙汰の発生件数も多い、荒れた街ばかりだが…ふむ巫女達のルートから考えれば…大八島時代の雪之大島の行政の中心であった街。移民が来る前は一時期はほぼ廃墟になっていたらしいが…恐らくここだ…」


壁に貼られていたアシハラの地図の一点を指す。


大八島時代ならいくつかの島には分かれていても比較的日本列島に近い形状だったのだろうが…


現在のアシハラは周囲を岩山に囲まれ歪ながらも円に近い状態になっている。


…港は南に一カ所だけ…浜辺も無い…


北部を見れば第五〜第七居住可能地域にまたがって大森林が広がっている。


地図の北に近い場所、現在はスス原町と明記されている。


大森林からも比較的近く、場所的には第六居住可能地域とは言っても第五にも近い。


「森の周囲に有る街の一つだが…攫われた巫女が護衛の仕事を受けた五区に有る街とも比較的近い、この東部区域からなら危険な場所も通らずに街道沿いに行けるだろう。他の街になると大森林を越えて遥か西部になる。一人で森を抜けれるとは思えない」


弥之助が地図を見ながらブツブツと何事かを呟く。


「なるほど…この辺か?この街で仕事を受けて…そうか、山岳部を避けて西へ行くには森を通るしか無かったのか、ワシの様に大気の術が使える者がおれば谷の妖女の脅威も半減したであろうに…だが奴ら早いでなぁ…臭いし…」


「ふむ…御老人、確か貴方も転移者だと聞いた事がある。どうかな?彼らは経験が浅い、同郷のよしみで、この若者達を手伝ってやってくれませんか?聞いた話だと、ギルドの運営はご子息やお孫さんにほぼ任せて実質隠居状態だと、彼から聞いた事が有りますが…お手漉(てす)きなら是非にも…」


彼と言うのは浄化ギルドの顧問をしている真人の事だろう。


「え?!あ…いやぁ~ワシももう年で…腰がちょっと…いや…ひよっこ共の面倒を見るのは(やぶさ)かではありませんが…ハハ…なかなか…年は取りたくありませんなぁ〜仙人様が羨ましい限りですわい…へへへ…」


アグニがわざわざ老人に声を掛けたのは…勿論、現役で通じると見抜いているからなのだが、今も元気にそっち系の店にも足繁く通っているとも聞いている。妻のアメリアは数年前に鬼籍に入っている。


「いやぁ…流石にそれは悪いよ、こんな爺さんに手伝って貰うのはさぁ、途中で怪我とかされても家族の人に悪いし、足手まといになられても正直困るし…そう思わん?」


と他の仲間に正人が同意を求める。


「おい!こら!小僧!さっきからバカにしよってからに!ボコボコに折檻してやっても良いが、分かった!仙人様!この仕事引き受けましょうぞ!現役時代は【雷纏の弥之助】と呼ばれた二つ名持ちの冒険者!若いモンに我が力見せ付けてやりましょう!」


「おいおい…爺さん大丈夫かよ〜俺も昔の人の体力とか異常だってのは聞いた事有るけど、ちょっと心配だよ…」


弥之助は激昂する。


「だまらっしゃい!ワシをその辺のジジイと一緒にするな!おぬしらに武士の生き様を見せつけてやるからのぉ!おぬしらは先にジョーだがジャックだかを探しておけ!ワシは準備して五区の森の手前の街で待っとるからな!」


と…そんな流れで焔の巫女救出隊に…老人一名追加…



高評価ブクマ宜しくお願いしますm(_ _)m

出直し完了☆


違いを悪としてしまうのが善の下道、自分に取っての善を押し付けるのが悪の外道だ…らしいですお(*´ω`*)

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