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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
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36 似た者同士

 焼け野原を背に五分ほど歩くとさらさら流れる川に出た。

 大きな川ではなく小川と呼ぶのにちょうどいいサイズの川だった。

 川の側の大きな木の下にピクニックシートを広げ、朝作った大量のサンドイッチを取り出した。

 もちろんヴォルカンも一緒だったけど、一人増えたくらい大丈夫だろう。

 イヴァンのように大食らいでなければ。


 並べ終わると同時にいただきますもそこそこに食べ始めるイヴァンと、いつものように人型に変異してのんびり食べるシロを交互に見ながら、ヴォルカンも恐る恐るといった風にサンドイッチを手に取った。

 ヴォルカンもきっとイヴァンたちと同じで何も食べなくても問題ないんだろう。

 もしかしたら何かを口にするのは初めてかもしれない。

 甘辛ソースたっぷりの照り焼きレッドボアのサンドイッチを一口パクリ。


 「何やこれっ!美味いやんけっ」


 赤い目をパチリと見開き、驚いた顔をするヴォルカン。

 手の中の残りのサンドイッチを全部口の中に放り込むと、次は厚焼き卵のサンドイッチに手を伸ばす。


 「この黄色いのも美味いっ。こっちのもっ」


 そう言って次々とサンドイッチを食べるヴォルカンにイヴァンがキレた。


 『ヴォルカンっ。そんなにガツガツ食べるなっ。我の分がなくなるであろうっ。元々お前の分などないのだぞっ』


 「何言うとんねんっ。独り占めする気かっ。こういうのはな、早い者勝ちって昔から決まっとるやろっ」


 イヴァンとヴォルカンは言い合いをしながらもどんどんサンドイッチを口に入れていく。

 気に入ってもらえたのは嬉しいけど、私の分がなくなるっ。

 慌てて私は自分の分とシロの分を確保した。

 私はもとよりシロも一つ目のサンドイッチをまだ半分も食べていないのだ。

 コーヒーで喉を潤しつつ、「美味しいねぇ」とシロと顔を見合わせながら照りたまサンドを頬張る。

 小川のせせらぎの音と春の陽射しの暖かさを堪能しながら、先ほどの騒動が嘘のようにのんびり過ぎていくのどかな昼下がりだった。

 あらかた食べ終えると、案の定イヴァンのデザートの催促だ。

 アイテムバッグからいちごのフルーツサンドを取り出した。


 『いちごのサンドイッチは初めてだが、甘くて美味いぞ』


 これまたヴォルカンと取り合いながら食べるイヴァン。

 私とシロの分を一つずつキープし、フルーツサンドの取り合い合戦を繰り広げる二人をほっこり眺める。

 デザート代わりのフルーツサンドも平らげ、お腹がいっぱいになったら、やって来るのはもちろん睡魔だ。

 暖かい陽射しと川のせせらぎの音がさらに眠気を誘う。

 私は大きなあくびをしながら、


 「イヴァン。お願い。ちょっとだけ寝かせて?」


 イヴァンの返事よりも先にヴォルカンが大きな声で、


 「何言うとんねんっ。早くわしのキャサリンを直してくれっ」


 「わかってるけど、無理っ。目を開けてられないんだもん」


 『ヴォルカン。少しくらい待たぬか。サキは直すと言っておるのだからおとなしく待てば良い』


 「我も少し川で泳ぎたい」


 瞼が完全に降りる直前、シロが人型から白蛇に変異するのが見えた。

 川の方へ這って行くシロの姿を最後に私の意識は春の陽射しのまどろみの中に沈んでいった。


 どれくらい眠っていたのかわからないけど、ゆっくり目を開けると太陽はまだ頭上にあり、そんなに時間は経っていないようだった。

 傍らには前足に頭を乗せて目を閉じているイヴァン。

 少し離れた場所で飛び跳ねたり、パンチを繰り出したり、何だか怪しげな動きをするヴォルカン。


 シロはどこかしら。


 川の方を見てもシロの姿は見当たらない。


 水の精霊なんだから溺れることはないだろうけど、迷子になることはあるかもしれない。

 ラシュートからグルノーバル王国まで来た挙句、グリーントレントなんていう魔物に捕まるようなマヌケ・・・失礼お茶目なシロだから。


 下流まで流されてないといいけど。


 そんな私の不安を他所にシロが突然川から顔を出した。

 かと思えば川の中へ入って姿が見えなくなった。

 さっきより上流で顔を出し、また水の中へ消えていく。

 何が楽しいのかさっぱりわからないけど、本人が楽しいのならそれでいい。

 三者三様の精霊たちだけど、私がうーんと伸びをして起き上がると、皆が一斉に私を見た。


 な、何なの?


 ヴォルカンが飛び跳ねながら側までやって来た。


 「やっと起きたか。えらいよう寝てたな。はよ帰ってわしのキャサリンを直してくれ」


 「えっ?私、そんなに長い間寝てた?」


 太陽の位置はそんなに変わってないからせいぜい一時間くらいだと思ったんだけど。


 『もうそろそろおやつの時間だな』


 「おやつ・・・」


 じゃあやっぱりそんなに時間は経ってないじゃない。

 ホントにせっかちね。

 ってかせっかちなのがもう一人いたよね。

 なるほどこの二人は似た者同士なのかも。


 『一緒にするな』


 「一緒にすなっ」


 同じタイミングで怒られた。

 やっぱり似た者同士じゃない。


 その時、川から戻ってきたシロが私の足元に何かを置いた。

 見ると、昨日もらったベルマフィラという薬草だった。


 「川底で見つけた」


 「ありがとう、シロ。今度ギルドに持って行ってみるね」


 ベルマフィラを拾い上げアイテムバッグに入れる。


 「起きたんならはよ帰ってキャサリンを直してくれ」


 待ちきれなくなったのか、今まで意味もなく跳ね回っていたヴォルカンが割って入ってきた。


 「わしの大事なキャサリンがこんな姿になってもうてかわいそうでしゃあないねん」


 「・・・」


 できればその顔でキャサリンはやめてほしい。

 なんだか、気持ちがざわざわして落ち着かないから。


 そう思った瞬間、ヴォルカンの長い耳がピクリと動き、赤い目でギロッと睨まれた。


 またやっちゃった。

 もうこれは滝修行でもして無心という技を習得するしかないかも。


 滝に打たれる自分を想像してなんだか微妙な気分になった。

 昨日、風の森の湖でウォータースライダーを勘違いしたシロに頭から水をかけられたけど、あれも一種の滝修行では?


 なるほど水魔法を使えば、いつでも滝修行ができるじゃないのってバカバカしい。

 寝起きで頭が回っていないに違いない。

 変な夢も見てた気がするし。

 そういえば、赤と青の玉も出てきたような気もするけど思い出せないな。

 まあ、夢ってそんなものだよね。


 うんうんと一人で納得しているとイヴァンの冷たい声が響いた。


 『おやつだ、サキ』


 ・・・。


 「おやつってさっきフルーツサンド食べたでしょ」


 『あれはデザートであっておやつではない』


 「・・・。たいして違わないような・・・」


 『全然違うだろう』


 「・・・」


 そうね。

 どうせ、反論するだけ無駄だよね。

 なら家に帰っておやつを作ろう。


 そう思い至ったとき、ヴォルカンの不思議そうな声がした。


 「おやつって何や?」


 首を傾げるヴォルカンに私は説明する。


 「食事と食事の間に取る間食のことよ。ちょっと小腹が空いたなとかちょっとお茶しようかなっていうときに食べる軽食。甘い物だったり、しょっぱい物だったり、いろいろね。でも絶対に食べなくちゃいけないわけじゃなくて食べなくても問題ないの」


 『何を言っている。おやつとは必ず食べるものだ。食べなくていいものではない』


 「いやいや、そんな決まりないから」


 『ないはずはないだろう。こんな美味い物を食わぬという選択肢がどこにある』


 何だろう。

 これって褒められてる?


 微妙な気分になっていると、今まで黙って会話を聞いていたシロが、あいかわらずののんびりした口調で聞いてきた。


 「甘くないおやつなどあるのか?」


 「あるわよ。おせんべいとかあられとか。醤油とか唐辛子味のものは甘くないわね。たこ焼きをおやつに食べる人だっているし。塩味にすればクッキーだってスコーンだって甘くなくなるし」


 「なるほど。我は甘くないおやつが食べてみたい」


 「そうね。たまにはいいわね」


 何にせよ家に帰らないことにはどうしようもないので、とりあえず家に帰ることに。

 帰るときは転移魔法が使えるから楽だわなんて考えていたら気づいてしまった。

 そんなはずはないと思いつつも念のため、ヴォルカンに確認してみる。


 「ヴォルカン。あなた、うちに来るの?」


 「当たり前やろ。それとも何や、お前はわしとキャサリンを引き裂こうっちゅうんか?」


 ただでさえ目付きの悪いヴォルカンにギロッと睨まれた私はあたふたしながら、


 「いや、別にそういうわけじゃないけど・・・」


 「だいたいよう知らんお前にわしの大事なキャサリンを預けるんや。ちゃんと側で見とかな心配やろ」


 「そんなに心配しなくても大丈夫だから。ただ、あなたが私の家にくるのかなぁって思っただけ」


そう、結界の張ってある我が家に来るなら許可しないといけないってことになる。

 こんな短気な火の精霊を家に入れちゃって何かの拍子に火事とかにならないかなってちょっぴり思っただけだ。


 「アホかっ。わしがそんなことするわけないやろ。わしを放火魔みたいに言うなっ」


 あははっ。

 ってホント、人の思考を勝手に読まないで。

 いや、そうじゃなくて私の思考が駄々洩れなだけか。


 「イヴァン、許可しちゃっても大丈夫?」


 『まあ、何の問題もなかろう。もし何かあれば、あいつの大事なボロ屑を跡形もなく引き裂いてくれる』


 「ありがと、イヴァン」


 このうさぎのぬいぐるみが人質みたいなものね。

 でもあんまり期待され過ぎても困るかも。

 前にテレビでぬいぐるみの病院のことをやってるのを見たけど、どんなにボロボロでも色あせてても経年劣化が激しくてもちゃんと元通りにできるんだもの。

 あの技術には驚きだったけど、さすがに私にはそこまでの技術はない。


 和奏が小さい頃、頼まれてクマや猫のぬいぐるみをいくつか作ったことはあるんだけどな。

 あっ、うさぎも作ったかも。

 女の子に人気の動物だもんね。

 ヴォルカンの納得するところまで直せるかしら。

 とにかくやってみない事にはわからないわね。


 そう結論付けた私はみんなと一緒に風の森にある家に転移した。


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