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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
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31 私が幸せかどうかは誰にとっても大問題だった!?

 『・・・。つまりサキにとって我の存在はとてつもなく大きいわけだな。よし、今まで通り我の世話を存分にするが良い。いや、それ以上だな』


 どこかの国の王様のような横柄な言い草なのに、それが照れ隠しだってわかるから何だか笑える。


 「もしかして照れてるの?」


 『バカなことを言うでない。そんなわけがなかろう』


 ふんっと顔をそむけるイヴァンだけど、ちょっぴり頬が緩んでる気がする。


 かわいいなあ、もう。

 思う存分モフりたい。


 思いっきりモフったら怒られそうなので、控えめにわしゃわしゃと撫でまくる。


 私の思考なんて駄々洩れなんだからわかっているはずなのに、どうして今頃そんなことを聞くのかしら。

 ひとしきり撫でまわした後、


 「じゃあ、そろそろアレスさんとの会話に戻っていい?」


 私はアレスさんに向き直ると、


 「ごめんなさい。話の腰を折ってしまって。・・・。えーっと何でしたっけ?悲しませるつもりはなかったとかなんとか・・・」


 アレスさんとの会話を思い出しながら私が言うと、


 「あっ、いや、その・・・」


 しばらく逡巡していたアレスさんだけど、口にしたのは何故かイヴァンと一緒。


 「サキは今幸せなのか?」


 アレスさんにまで心配されてる?

 やっぱり領主様の城で、人目もはばからず泣き喚いたのがいけなかったのかしら?

 確かにアラフィフ女のすることじゃなかったわ。

 それにしても・・・。


 「そうですね。幸か不幸かと聞かれれば幸せだと思います」


 「たとえば、サキをこんな状況、つまりこんな特殊な環境に身を置かなくちゃならねぇ状況にしたやつがどこかにいたとしたら、そいつを恨んだりしないのか?」


 こんな状況・・・。

 普通の人に異世界に家ごとトリップさせる力なんてないはずだから、それができるとしたら神様くらい?

 神を恨む?

 ・・・ないな。

 

 「正直なところ、誰かを恨むという気はないです。そりゃ、多少失ったものもありますが、代わりにここで得た大切なものだとかここでしか体験できない楽しいこともたくさんありますから」


 アレスさんの言葉にちょっと引っかかりを感じつつ、ちょっとぼかし気味に言ったけど、私は本当にそう思っている。

 私の心からの笑顔を見たアレスさんは詰めていた息をそっと吐いた。


 私の幸か不幸か問題はアレスさんにとっても重要なの?


 「あの、アレスさん?アレスさんが私を避ける理由は私が幸せかどうかにあるんですか?確かに領主様の城ではみっともないくらい大泣きしましたけど、おかげで今はスッキリしてますし、ここでちゃんと生きていこうってすごく前向きに考えてますよ」


 私の言葉を聞いたアレスさんはホッとした様子で笑顔になった。

  

「そうか。サキが幸せならそれでいい」


 アレスさんのお日様のような笑顔につられて私も笑った。


 「そもそもアレスさんが気にすることじゃないのに、本当にアレスさんは優しいですね」


 「買い被りすぎだ。俺は自分の事しか考えられない大馬鹿者だ」


 「そんなことないです。嘆きの森での戦闘のときも自分だけじゃなく周りの人たちのこともちゃんと気を配ってました。だから死人も出ず、少しの怪我人だけで済んだんです。アレスさん、自分の評価低すぎです」


 「何言ってんだ。あれはサキの光魔法のおかげだろう。だからあの程度の被害で済んだ。サキがいなけりゃ、被害はもっと大きかったはずだ」


 「まさか。私はあんな戦いなんて初めてで、とにかく人の足を引っ張らないようにって必死だったんですよ」


 「サキだって自分の評価、低すぎだろう」


 しばらく目を見合わせていたけど、どちらからともなく笑い出した。


 すっかり以前のアレスさんに戻ったようで、その後は食後のお茶を飲みながら、アレスさんの話(主にドラゴンナイトの皆さんのことね)に耳を傾けた。

 お茶は風の森まで転移魔法を使って戻り、入れてきたとっておきの緑茶だ。

 白蛇姿に戻ったシロは家の中を探検すると言って、イヴァンを連れて行ってしまった。

 もちろん、定位置のイヴァンの頭の上に乗って。

 たぶん、ユラも一緒だろう。


 ひとしきりアレスさんと二人でおしゃべりをして、ふと気づけば外は茜色に染まっていた。


 「もうこんな時間か。長居しちまって悪かったな。サキはこれからここに住むのか?」

 

 「いえ。基本は風の森です。休み明けから教会で治療師として働くことになっているので、ここを拠点に行ったり来たりする予定です」


 「治療師?そうか、ここには常駐の治療師はいねぇからな。風の精霊(フェンリル)がついているとはいえ、一人で冒険者の仕事をするのは心配だが、それなら安心だ」


 「でも、治療師として働くのは、今のところ週に一回、休み明けの一日だけなんです。これでもいろいろ忙しいんです。主にイヴァンの世話で」


 「そうか。週に一回でも治療師がいりゃ、バロールやエミリも助かるだろう。ティーナもなかなかバロールたちを手伝う余裕はねえからな」


 そりゃ皆さん、Aランクのパーティですからね。


 「それとイヴァンが風の精霊(フェンリル)だということは内緒ですから、人前では言わないようにお願いしますね。イヴァンでもシルバーウルフでも好きなように呼んでください。もちろん、シロやユラのことも内緒ですよ」


 あまり上手くないウィンクをしながらアレスさんに笑いかけた。


 「そうだったな。これからは気をつけるよ」


 「アレスさんの家はこの近くなんですか?」


 「ああ。裏の道を真っすぐ行って、二本目の道を右に行った所にある一軒家だ。まあ、小さな借家だけどな」


 「そこに皆さんで住んでるんですか?」


 「いや、ウッドたちは四人でもっと大きな家を借りて住んでいる」


 「アレスさんがウッドさんたちと一緒に住まないのは何か理由でも?」


 「いや、まあ、いろいろな」


 キョロキョロと視線を泳がし、ちょっと挙動が不審なアレスさん。

 人に言えない何かがあるのかな。

 あまり人のことを詮索するのも良くないので、これ以上は聞かないけど。


 「そういえばウッドさんがアレスさんのこと心配してましたよ。元気がないって」


 「ウッドに会ったのか?」


 「はい、先日冒険者ギルドで」


 いろいろトラブったことは言わないでおこう。

 アレスさんて、見た目からは想像できないくらい心配性みたいだからね。

 まあ、ウッドさんの口から、耳に入るかもしれないけど。


「そうか。後でウッドには謝っておくよ。今日、サキと話をしていろいろ吹っ切れたからな。もう大丈夫だ」


 「よくわかりませんが、私のことなら心配いりませんよ。私、こう見えても強い・・・つもりですから」

 

 冗談っぽく笑って言えば、それを聞いたアレスさんは安心したようにゆっくりと白い歯をのぞかせて笑った。


 帰り際、アレスさんはおずおずと切り出した。


 「また、来てもいいか?」


 「もちろんです。私の手料理でよければ作りますから、また一緒にご飯を食べましょう。モリドさんも誘っているので都合が良ければ一緒にどうですか?」


 「モリドっ!?何でモリドが出てくるんだっ!?」


 「この家を探すとき、モリドさんに手伝ってもらったんです。ユラのことも知ってますし。もちろん、イヴァンやシロのことも。その後、ずっと行きたかった市場を案内してもらって、美味しい屋台も教えていただいたので、そのお礼に」


 アレスさんは眉間にしわを寄せながら、あの野郎とか許さんとかブツブツ言っている。


 「モリドさんはとってもいい人です」


 「な、何を・・・」


 あんぐりと口を開けたまま固まるアレスさんに、笑いかけながら、


 「それ以上にアレスさんもとってもいい人ですよ」


 少しの間の後、アレスさんは嬉しそうに笑った。


 アレスさんが帰った後、イヴァンたちはどこにいるのかと探してみれば、二階の私の寝室にしようと思っている部屋に三人仲良くいた。

 寝そべるイヴァンの頭の上にシロ、背中にはユラがいて、皆眠っているようだ。


 けっこう長い間、アレスさんとおしゃべりしてたからなあ。

 何故か、アレスさんといると懐かしくてほっとする。

 昔から知っているような安心感があって。

 そんなはず、ないのにね。


 揺り椅子に座り、三人を眺めていると何だか幸せな気分になってくる。


 ほら、こんなことでも幸せになれるんだもの。

 やっぱり私は幸せ者なんだわ。

 あの人が死んで、そろそろ半年になるけど、この世界に来てからあの人のことを思い出す暇もないくらい毎日が忙しい。

 おかげであの人が死んでから三年くらいたっているんじゃないかって錯覚してしまいそうになるほどだ。


 そんなことを考えていると、イヴァンがゆっくりと目を開けた。

 そして大きなあくびを一つ。


 「ごめん、起こしちゃった?でもそろそろ風の森に帰らないと。ここは明かりがないからもうすぐ真っ暗になっちゃう。そういえば街の人たちは明かりはどうしてるのかしら?」


 窓から外を見ると、あちこちの家の窓から明かりが漏れている。

 やはり何かしら光源があるのだろう。


 『魔石を使ってランプに灯りをともしている。サキの家のように魔石も使わず灯りをともすなどここではありえぬ』


 面倒くさそうに答えてくれるイヴァンに私はさらに尋ねた。


 「ランプに魔石を入れるだけでいいの?魔力がない人でも使えるの?」


 『魔石を入れた時点で魔力が働く。魔力のあるなしは関係ない』


 「そうなんだ。あっ、じゃあもしかしてキッチンにある大きなかまども魔石を使って火を起こすの?」


 『火魔法を使えぬ者はそうであろうな』


 「火加減はどうやって調節するの?」


 『そのようなことまで我は知らぬっ。知りたければさっきの赤毛の大男にでも聞けばよかろう』


 「アレスさんに!?」


 さすがに人里離れた森の中でひっそりと暮らしていた設定でも、火の使い方も知らないなんてめちゃくちゃ怪しくない?

 でも多少なりともかまどは使えるようにしておきたいし。

 どうすればいいかしら。

 うーん。


 顎に手を当てて考えていると、突然イヴァンが悲痛な叫び声を上げた。


 『サキっ。我としたことが大事なことを忘れておったっ!』


 「えっ?何を忘れてたのっ?」


 『三時のおやつだっ』


 「・・・」


 私は膝から崩れ落ちた。

 

 だよね、そうだよね。

 イヴァンにとって最優先事項はおやつだもんね。

 わかってたよ。

 わかってたけどね。


 『サキっ。何をしている。早く帰るぞ』


 なんだろう、この脱力感は・・・。


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