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のんびりまったり異世界生活  作者: 和奏
第二章 異世界はやっぱり異世界です
80/160

20 桃なのか、それともメロンなのか

 しばらくいろいろな店を見て回り、さすがに少し疲れたなと思う頃、


 「そろそろ休憩しよう。疲れただろ。この先に休憩するためのベンチが置いてあるんだ」


 モリドさんは私の手を引いて、市場のすぐそばの広場のベンチに座らせた。


 「何か飲み物を買ってくるからここで待ってろ。絶対動くなよ」


 それだけ言うと、私の返事を聞く前に、モリドさんはまた市場の方へ走って行った。


 なんてイケメンなの!


 モリドさんが戻って来るまでの間、私は広場を行き交う人たちを見るともなく見ていた。

 みんながみんな、こっちを見て驚いた顔をして、避けて通っていく。

 言わずもがな、イヴァンだ。


 おとなしく私の足元に寝そべっているだけなんだけど。


 あんなにごった返している広場も私の周りだけは誰もいない。

 まあ、言わなかっただけで市場に来たときからずっとこうなんだけどね。

 私たちが通ると、サァーっとモーゼの十戒で海が割れるシーンさながらに人の波が割れていくの。

 わかっていたことだからいちいち落ち込んでいても仕方がないし、むしろ通りやすくなってラッキーって思うことにした。

 そう、レッツポジティブシンキングよ。

 それにお店の人たちはやっぱり怖がってはいたけれど、普通に接してくれていた。

 私とイヴァンの噂を聞いていたのもあるだろうけど、きっとモリドさんの存在が大きいんだと思う。

 モリドさんがいたからどこのお店の人たちも嫌がらずに相手をしてくれた。


 モリドさんについて来てもらってよかったな。


 私が心からそう思ったときに、モリドさんがジュースらしきものを手に帰ってきた。


 「サキ。待たせたな。ほら、これ」


 手渡されたのはピンク色をした液体の入ったコップだった。


 「最近の若い女の子の間で流行っているリンゴとサバルを混ぜたジュースだ」


 リンゴと・・・サバル?

 サバルって何だろう。


 私が黙り込んでしまったせいで、モリドさんは慌てて、


 「すまんっ。何か苦手なものがあったのか?」


 「え?いえ、違います。ただ、サバルって何だろうって考えてただけです。ごめんなさい」


 「あぁ、サバルってのはこれくらいの大きさで網目模様があって・・・」


 モリドさんが手で大きさを教えてくれる。


 網目模様があって、あのくらいの大きさということはメロンかしら?


 「瑞々しくて甘い・・・ピンクの果物だ」


 えっ?

 ピンク!?

 ・・・メロンなの?桃なの?どっちなの?


 百聞は一見に如かずとばかりに飲んでみる。


 「・・・美味しい・・・」


 私のつぶやきを拾ったモリドさんは、自分のことのように嬉しそうに笑った。


 夕張メロンのような濃厚な甘みと、後に来るリンゴの甘酸っぱさが絶妙にマッチしてすごく美味しい。

 この甘くて美味しいジュースとモリドさんの心遣いで疲れも吹き飛ぶ。

 ふとモリドさんを見ると、モリドさんの飲んでいるジュースは黄色で私のとは違うもののようだ。

 モリドさんの手の中をジィっと見つめる私に気づいたモリドさんが、


 「これはパナントのジュース。少しレモンも入っていてさっぱりとしてる。飲んでみるか?・・・あっ嫌なら別に・・・」


 「遠慮なくいただきます」


 元々大雑把な性格だし、もういい年したおばさんだし、付き合いたてのカップルのような初々しさもないので、回し飲みも平気です。

 いや、むしろカップルならOKで、私のようなおばさんがすることの方がNGなのでは?

 ・・・まあいいか。

 深く考えないでおこう。


 モリドさんからコップを受け取った私はそっと口に含んでみた。


 うん、バナナだね。


 見た感じはサラッとしていて柑橘系の果物のようだけど、味はまるっきりバナナだった。

 なんだか少し顔が赤いモリドさんに聞いてみる。


 「パナントってどんな形をしているんですか?」


 「あぁ、パナントはリンゴより一回り小さくて丸い黄色の果物でナイフを使わなくても手で皮がむける。一年中実がなるからいつでも手に入る庶民的な果物だな」


 へぇ。

 バナナのようでバナナではなく、みかんのようでみかんでもなく。

 うん、やっぱり異世界だ。


 二人でベンチに座り、午後の暖かな陽射しが降り注ぐ中、モリドさんとたわいない会話をしながらソーニャおばさんに貰ったオルドを食べて(見た目はオレンジだけど、味は枇杷に近かった)まったりと過ごしていると、突然モリドさんを呼ぶ声が聞こえてきた。


 「モリドっ」


 声の方を見ると、胸まであるカールした茶色の髪をふるふる揺らしながら女の人が駆け寄ってくるのが見えた。


 わぁ、美人なお姉さん。


 「リネイ。どうした?何かあったのか?」


 「何かって、怪我が治ってないのにフラフラ出歩くなんて・・・。治るものも治らないわよっ。家でちゃんと安静にしてなきゃダメでしょっ」


 「あぁ、それならもう大丈夫だ。怪我はもうサキに治してもらったから問題ない」


 「え?治った?・・・サキ?」


 モリドさんしか見えてなかったリネイと呼ばれた美人さんは、モリドさんの隣に座る私に気がついた。

 さらに私の足元に目を向けて、小さく悲鳴を上げてのけぞった。


 はい、お約束ですね。

 大丈夫。

 イヴァンは何もしませんよ。


 実際、イヴァンは美人さんに目を向けることなく寝そべったままだ。


 「サキ、紹介するよ。彼女はリネイ。俺の家の隣に住んでる・・・まあ妹みたいなもんだ」


 そしてリネイさんにも、


 「彼女はサキ。新米冒険者で光魔法の使い手だ。休み明けから教会で治療師として働くことになってる。俺の怪我もサキに治してもらった。だからもう大丈夫だ。心配かけて悪かったな、リネイ」


 「リネイさん、サキと申します。こっちはイヴァン。この街に住むことになりました。よろしくお願いします」


 「・・・リネイです。あなたがサキさん・・・。噂で聞いています。シルバーウルフを従魔にしてるって・・・。でもどうしてモリドと一緒に・・・」


 「警備隊の詰所で偶然会って・・・。エドさんに、街に来たばかりで不慣れな私に街を案内するように無理やり頼まれたんです」


 「無理やりじゃないぞ。さっきも言ったろ?俺が好きで案内してるって。休みったってすることがねえから暇だし、家にいても母さんがうるさいだけだし、俺にはちょうどよかったんだよ。サキのおかげでいろいろいい事もあったし」


 「いい事って何?何があったの?」


 リネイさんの言葉に、モリドさんはチラッと私を見て、


 「いろいろだよ。リネイが気にすることじゃねえ。それよりお前、仕事は?もう終わりか?」


 「え?今お昼の休憩中で、家に帰ったらモリドが朝家を出てから帰って来ないっておばさんが言ってたから何かあったのかと思って・・・」


 心配で探しに来たのね。

 リネイさんて優しい。

 モリドさんも優しいし、優しい人の周りには優しい人が集まるのね、きっと。

 エドさんやスタンさんもそうだもの。


 ・・・イヴァンにも優しさというものを教えた方がいいかしら。


 『どういう意味だ、サキ』


 イヴァンにギロッと睨まれた。


 思考が漏れないようにするのって本当に難しいっっ。


 モリドさんと話ながらもチラチラ私を見るリネイさんの瞳には不安の色が浮かんでいる。


 あぁ、そうか。

 なんだ、モリドさん。

 ちゃんとモリドさんを心配してくれる優しい人がいるんじゃない。

 いい雰囲気でお似合いだし。

 大事な人はすぐそばにいるなんて歌もあったよねえ。


 またしても親戚の子を見守るおばちゃんになりながら、二人のやり取りを見ていたら、


 「リネイ、昼の休憩ももう終わりだろ。お前は早く仕事に行け。でないと怒られるぞ。サキ、そろそろ行こう。向こうにもまだまだ店はあるからな」


 そう言ってモリドさんは私の手を引きながら、市場の方へ歩いて行こうとする。

 思わず肩越しに振り返ってリネイさんに向かって叫んだ。


 「リネイさーんっ。またゆっくりお話ししましょうねー」


 どうかリネイさんが誤解してませんように。


 空いている方の手を振りながら叫ぶ私にリネイさんも小さく手を振り返してくれた。


 なんだか顔が悲しそうなんだけど・・・。


 「あのー、モリドさん。リネイさん大丈夫ですか?何か変な誤解とかしてませんか?」


 「うん?何の話だ?それより向こうに美味いコックスの店があるんだ」


 「え?コックス?」


 「あぁ、そうだ。コックスを売る店はたくさんあるが、ヴィクタの店のコックスが一番美味い・・・ってどうした?もしかしてコックスは嫌いだったか?」


  ふるふる首を振りながら、


 「コックスってどんな食べ物なのかなって」


 「・・・本当にサキは何にも知らないんだな」


 「そうなんです。森から出たことがなかったので・・・」


 あははと笑って誤魔化す。

 そんな何にも知らない私にモリドさんは丁寧に教えてくれた。


 「コックスというのはモロコシの実を粉にして、それを使って薄い生地を焼いて炒めた肉や野菜を挟んで食べる国民食だな。中に挟むものは店によって違っていて肉がメインだったり、野菜たっぷりだったり、みんな自分好みのものを買って食べる。家でも作るからその家独特のコックスもある」


 説明を聞いていると何だかタコスみたいね。


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[気になる点] 元旦那が全く出てこない。
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