5 こんな私でも冒険者です
「サキ。すでにロザリーから聞いたかもしれんが、今回の件でサキの冒険者ランクがDランクまでランクアップした。指名依頼の達成に加えてサキのバックアップやシルバーウルフの活躍には目覚ましいものがあったからな。そのあたりも考慮した結果、Dランクだ。後でロザリーにギルドカードを渡して記録してもらってくれ。それから今回の報酬だが金貨五十枚。それとさっきのAランクの魔物の肉。肉は明日の朝には解体が終わって渡せるようになっているだろう。明日、また取りに来るか?残念ながらギルドには時間停止魔法がついてる便利なアイテムバッグなんぞねえから早く取りに来ねえと鮮度が落ちるからな」
「じゃあ、お肉は明日の朝取りに来ます。それより・・・」
私の頭の中は最高級お肉よりも別のことで占められていた。
「マルクルさん、報酬なんですけど・・・」
「やっぱり少ないか?これでも頑張ってみたんだが・・・。もう少しなんとかしてみるか・・・」
マルクルさんの言葉に私は慌てて、
「違いますっ。反対ですっ。金貨五十枚なんて多すぎます」
と叫んだ。
金貨五十枚って五十万円ってことよね。
確かに大変だったけど、私はそんなに役立つことしてないしっ。
「私はイヴァンの結界に守られてただけで、たいして何もしてませんからっ。大変だったのは騎士様や警備隊、冒険者の方々です。他の方たちに支払ってあげてください」
私は五十万円に見合う仕事なんてしてない。
「・・・サキは謙虚だな。人としては美徳かもしれんが、冒険者としてはマイナスだぞ。貰えるもんは貰っておくのが冒険者だ。それに俺たちも仕事に見合った分しか報酬は出さねえ。サキは金貨五十枚の仕事をしたってことだ。こいつらにも見合った分の報酬は支払う。騎士や警備隊にもそれぞれのところから報奨金が支払われるだろうよ。だからサキが気にする必要はねえよ」
カラカラ笑うマルクルさんだけど、本当にいいのかなぁ。
だって五十万円だよ。
日本でも大金なのに、この世界の貨幣価値から考えたらすごい金額じゃない?
「やっぱり貰い過ぎです。私より他の方たちの報酬を増やしてあげてください」
「サキ。俺たちも俺たちが仕事をした分はきっちりもらうつもりだから、サキが気にする必要はないよ。俺から見てもサキはそれだけの仕事をしてたからね」
ウッドさんにまでそう言われると、これ以上断りづらい。
本当にいいのかなあ、そんなに貰っちゃって。
あっ、そうだ。
悩む私はいいことを思いついてイヴァンにそっと念話を送った。
『ねぇ、イヴァン。時間停止魔法って他の人の鞄にもつけられるの?」
『できるが』
『じゃあ、マルクルさんとウッドさんのものにもつけてあげられる?』
『・・・付与してほしいのか?』
『うん。いろいろお世話になったし。これからもお世話になるだろうし』
『・・・仕方ないな』
『ありがと、イヴァン』
私は二人に意識を戻すと、
「私としては貰い過ぎだと思いますが、それでいいとおっしゃるならいただいておきます。その代わり、よければイヴァンがアイテムバッグに時間停止魔法を付与すると言ってくれているのでどうですか?」
「「本当か?」」
またしてもハモりましたね。
「はい。ウッドさんは今、アイテムバッグお持ちですよね?さっき受け取ってた大きな包みも私の作ったパウンドケーキもないですもんね」
ウッドさんのアイテムバッグを受け取るべく両手を差し出した。
「まあね。でも付与してもらえるのは嬉しいけど、対価が払えるかどうか。いくら払えばいい?」
え?
対価?
私はしばらくウッドさんと見つめ合った後、叫んだ。
「いりませんっ。対価なんてっ。何言ってるんですか、もう」
「それはサキの方だよ。時間停止魔法を無料で付与しようなんて正気の沙汰じゃないよ。法外な請求されたって文句は言えないような魔法なんだよ。わかってる?」
「珍しいものだってことはわかりました。これからは付与するなんて簡単に言わないようにします。特に知らない人には。だからウッドさん、アイテムバッグを貸してください」
私は再度両手を差し出した。
「わかってないよっ、サキっ」
「わかってますって。マルクルさんとウッドさんは特別なんです。だから気にしないでください。それに・・・こうやって恩を売っておけば、いつか私に困ったことが起きたら手助けしてあげようって気になりませんか?」
ねっ?と同意を求めるように小首を傾げてウッドさんを見上げた。
私として小悪魔的な笑みを浮かべたつもりなんだけど、上手くいったかしら?
「そんなことしなくても、サキが困ってたら助けるよ?」
「ありがとうございます。でも恩を売っておいた方が私も気にせず助けてもらえるじゃないですか。だからこれは私のためです」
きっぱりと私が言うと、二人は顔を見合わせた後、同じようにため息をついた。
「サキは頑固だからなぁ。本当にいいのか?ギルドには時間停止魔法が買えるような大金はねえぞ」
「ふふ。いりませんよ。だってマルクルさんはエドさんみたいに私のお父さん代わりなんでしょう?お父さんからお金は貰えません」
先日のバカ騒ぎを思い出して、冗談のつもりで私が言えば、マルクルさんは真剣な顔で、
「そうだよな。エドはともかく少なくとも領主よりはいい父親だと思うぞ。よし、これからは父さんと呼んでくれ」
いや、冗談ですから、マルクルさん。
ウッドさんのアイテムバッグは手元にあったので、すぐに付与できたけど、ギルドの分は作業場にあると言うので、もう一度作業場へ向かった。
作業場に入ると、フラッジオさんとラクトンさんが一心不乱に魔物を解体していた。
もはや私には何の魔物なのかもわからないほどだ。
「サキ。これがギルド所有のアイテムボックスだ。大丈夫か?」
そこにあったのは小型の冷蔵庫ほどの大きさの箱だった。
どこのギルドも一つは所有していて、だいたいが箱型のアイテムボックスなんだそうだ。
持ち運べないけど、魔石を使うことによってかなりの量が収納できるらしい。
最も、商業ギルドと違って、冒険者ギルドでは収納場所がなくなるほどの過剰在庫になることはほとんどなかったので今まではあまり使ってなかったらしいけど。
イヴァンに頼んでこのアイテムボックスにも時間停止魔法を付与してもらう。
「悪いな。ありがたく貰っておくぞ。これで鮮度を気にしねえでいいからフラッジオたちの仕事も楽になる」
一度に大量の魔物が持ち込まれたときは、三人いる解体担当者が総出で事に当たり、全ての作業が終わるまで寝ずに作業をするそうだ。
それは確かに大変だわ。
『特別に付与してやったのだから、しっかりサキを守るのだぞ』
突然のイヴァンの言葉にマルクルさんとウッドさんが反応した。
「え?何だ?今こいつの言葉が聞こえたぞ?」
マルクルさんの驚いた声に私もイヴァンを見た。
『別に話せぬわけではない。我はサキ以外と話す気がないゆえ話さぬだけだ』
「そうだったの?私としか話せないなんて不思議だなあとは思ってたの。話せないんじゃなくて話さなかっただけなのね」
イヴァンの頭を撫でてやっていると、マルクルさんとウッドさんが真剣な顔で、
「できる限りのことはしよう」
「同じく。もちろん俺だけでなく俺のパーティみんな同じ気持ちだから」
『うむ。よかろう』
「イヴァン。何でそんなに偉そうなの?」
『決まっているだろう。我は偉大なるフェンリルだからだ』
「・・・」
もういいや、何でも。




