24 案外私はうっかり者だったようです
もう何でもいいやという気分になった私は、はあと大きくため息をつくと気になっていたことを聞いてみた。
「どうして私がアイテムバッグを持っているとわかったんですか?」
イヴァンからアイテムバッグを貰ったのはついさっき。
でもマルクルさんはアイテムバッグを持っていると思ってたと言った。
「そりゃ、手ぶらで野宿する奴なんかいねえだろ。昨日のお前は荷物一つ持たずにギルドに来たからな。先に宿に荷物を預けたのかと思ったが、宿に泊まる金がねえと言ってたし、どこかに荷物を隠してって線もあるが盗られるかもしれねえのにそんなリスク冒すやつもいねえだろ」
うんうんとエドさんも頷いている。
な、なるほど確かにそうだ。
全財産持って森から出てきた設定の人間が手ぶらってことはないよね。
またしてもうっかり・・・。
「アイテムバッグは珍しいものですか?」
「まあ、金さえ出せば買える代物だからないわけじゃないが高い。時間停止魔法のついていないものでもかなりの値段だが、時間停止魔法のついたものとなれば値段が跳ね上がる。貴族だとか上位ランクの冒険者なら持っていてもおかしくはないな。反対に言えばお前みたいな新人が持ってることの方が珍しい」
「そ、そうですか・・・」
それなら貴族の落胤とでもしておいた方が誤魔化しが効くかしら。
それとも正直にイヴァンが山から持ってきましたって言った方がいいかしら。
うーんと唸っていると、
「いや、気にするな。そういう詮索はしないのがルールだからな。お前自身の言いたくないことを聞いたのも本来ならルール違反だ。すまねえ」
「い、いえ」
どうしていいかわからず口をもごもごさせていると、突然イヴァンが立ち上がり、
『サキ。そろそろおやつの時間だろう。家に帰るぞ』
「えっ?」
確かにそろそろ三時かもしれないけど、突然すぎやしませんか、イヴァンさん。
『早く家に帰って白玉なんとかを作ってくれ』
忘れてなかったの?白玉ぜんざい・・・。
『おお、そうだ。白玉ぜんざいだ。早く食べたいぞ』
・・・作るよ、作りますとも、白玉ぜんざいくらい。
もうすでに白玉ぜんざいのことで頭がいっぱいであろうイヴァンを横目に、私はお暇する旨を告げた。
すると二人は慌てたように、
「ちょっと待ってくれ。実はサキに頼みがあってだな・・・」
マルクルさんがエドさんに目配せをすると、わかっているとばかりに頷いたエドさんが私の方へ向き直ると、
「昨日のレッドボアの件なんだが、サキも見ただろう?あの巨大なレッドボアに追いかけられていた馬車を・・・」
馬車?
そう言えば一台のボロボロの馬車がレッドボアより先に猛スピードで走り去って行ったっけ?
「はい。見ました」
「その馬車に乗っていたのはある冒険者のパーティーなんだが、いろいろ噂のあるパーティーでな。禁止されている魔物の取引をしているらしい。マルクルや俺たち警備隊もいろいろ調べてはいるが未だにしっぽをつかめていない。だが、昨日そいつらの乗っていた馬車には一匹の小さなレッドボアが捕らえられていた。どういうことか問い詰めたら、いつの間にか馬車に小さなレッドボアが紛れ込んでいて、小さくても魔物は魔物だと縛っておいたら突然あの大きなレッドボアが出てきて追いかけられたと言っている。何かの目的のためにあの小さなレッドボアを捕まえたんじゃないのかと問いただしても知らぬ存ぜぬの一点張りで埒が明かない。そこでだ」
エドさんはチラッとイヴァンに目をやると申し訳なさそうに言った。
「サキの手を借りたい。というかそこのシルバーウルフの手を借りたい」
「イヴァンの?」
「ああ、そうだ。どこかに奴らのアジトがあってそこに魔物が集められているんじゃないかと思う。シルバーウルフなら同じ魔物同士、魔物の気配を察してアジトが特定できるんじゃないかと思うんだが・・・」
『できるの?』
イヴァンにそっと念話で聞くと、
『できぬこともないが、今我は白玉ぜんざいが食べたいぞ』
ブレないフェンリルである。
「以前にも街がロックバードに襲われたことがある。その時も何故かロックバードは昨日の冒険者パーティーを執拗に狙っていた。その時はたまたまAランクの冒険者がいたので事なきを得たが・・・。後でそいつらを問いただしても狩ろうとして失敗しただけだと言い張って結局うやむやになってしまった。もうこれ以上この街を危険な目には合わせたくないんだ。だから頼む。協力してもらえないか?」
エドさんが深々と私に頭を下げた。
「もちろん、これはサキが受けてくれるならギルドからの指名依頼扱いにさせてもらう。どうだろうか?」
マルクルさんまで。
私としてはお二人に協力したいと思う。
いろいろお世話になってるし、心配もかけたし。
でも冒険者としての私はさっき初依頼をこなしたばっかりの新人だけど、足手まといになったりしないかな。
『イヴァン?私としては協力したいと思うんだけど、どうかな?』
『我は白玉ぜんざいが食べたい』
『・・・わかった。協力してくれるならご褒美に何か他にも美味しいものを作ってあげる』
『うむ。手伝ってやろう』
心の中でガッツポーズをした私はお二人ににっこり笑って言った。
「わかりました。協力させていただきます」
「本当か!?助かるよ」
ほっとした様子の二人は、私の具体的には何をすればいいのかという質問に、
「さっき言ったように、魔物の気配を探って奴らのアジトを探し出してほしい。乗り込むのは俺たち警備隊とAランク、Bランクの冒険者、領主が城からも騎士団を派遣してくれるそうだ。サキを危険な目に合わせるつもりはないから安心してくれ。ただ・・・後方支援は頼むかもしれない。むしろ頼みたい」
「後方支援?」
「つまり怪我人が出たときの回復役だな」
マルクルさんが答えてくれる。
「回復役ですか・・・」
確かに昨日、光魔法の適性があるから回復魔法が使えるみたいなことは言われたけど、本当に私にできるのかな?
『サキなら練習すればすぐに出来るようになるだろう』
『そう言えば魔法の使い方教えてくれるって言ってたよね。回復魔法の使い方教えてくれる?』
『ああ、回復魔法は使えるに越したことはないからな』
『私、魔法なんて使ったことないけど、大丈夫?』
『我がいれば問題ない』
イヴァンがそう言うのなら大丈夫なんだろう。
「わかりました。お役に立てるように頑張ります」
「じゃあ、具体的な打ち合わせをしたいんだが・・・」
『サキ!』
はい、はい、わかってますって。
「打ち合わせは今日じゃないとダメですか?」
「いや、今日じゃなくてもかまわないが・・・」
「なら、明日また来てもらえばいいだろう。午後からここの会議室で今回の討伐についての作戦会議をする予定だからついでに顔合わせも済ませちまおう」
前半はエドさんに、後半は私に向かってマルクルさんが言った。
「わかりました。明日の午後、また伺います」
話が終わったので帰ろうとしたら、リンジーさんから包みを受け取ったマルクルさんが大きな塊と小さな布袋を渡してくれた。
「これがレッドボアの肉。こっちがレッドボアの買取代金だ」
うん、わかってたけど、かなり大きな肉の塊だったよ。
上手く調理できるかなあ。




