第96話
新選組屯所 総司の部屋-
近藤、土方が総司の寝ている床の傍に座っていた。
総司が最後の稽古の後に血を吐いてから、毎晩と言っていいほど、二人は総司の様子を見に来ている。
総司「…お二人とも昼間もお忙しいでしょうに…もう休んでください。」
毎晩総司はそう言うのだが、二人は総司が寝入るまで決して部屋を出ることはなかった。
そんなある日、土方が突然言った。
土方「おかしな話だが…何か、こうして三人でいると落ち着くんだ。」
総司は、思わず目を見開いた。
総司「どうしたんですか?土方さんらしくない言葉ですね。」
その総司の言葉に、近藤が笑った。
近藤「確かにそうだな…歳さんらしくない。」
土方が、とたんに不機嫌になった。
土方「悪かったな…」
総司は、布団を目までかぶって笑っている。
土方「おい!笑いすぎだぞ総司!…また咳が出たらどうする!」
土方が、顔を赤くして怒った。
近藤「まぁまぁ…」
近藤が、土方の肩をぽんぽんと叩いた。
近藤「…だけど、私も歳さんと同じ気持ちだよ。…こうして三人で一緒にいると何か落ち着くな…。昼の忙しさなど忘れてしまう。」
総司は、まだ布団をかぶっている。
土方「おい、総司。いつまで笑ってるんだ。顔を出せ。胸によくないぞ!」
土方がそう言って、無理に総司の掴んでいる布団を下げた。しかし次の瞬間、土方は目を見開いた。
土方「…総司…?」
総司の頬に涙の筋があらわれていた。唇をきっと噛んでいる。
二人は驚いて、思わず腰を上げた。
近藤「どうした?総司…何を泣いているんだ。」
土方「…おい、総司…。」
総司は子供のようにかぶりをふり、再び布団を頭までかぶった。
近藤と土方は顔を見合わせた。
総司の堪えた嗚咽だけが、布団の下からこぼれていた。




