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第94話

新選組 道場-


総司はゆっくりと道場へ向かった。

中では一番隊と二番隊が稽古をしていた。


総司が顔を出すと、道場の中が静まり返った。


「沖田先生…」


そんな呟きがあちこちで聞こえた。

稽古の様子を見ていた永倉が、あわてて近寄ってきた。


永倉「総司…どうした…?」

総司「私に最後の稽古を…」

永倉「!…」

総司「お願いします。」


総司は永倉に頭を下げた。永倉はしばらく立ち尽くしていたが、やがてにっこりと微笑むと、道場へと振り返って大声で言った。


永倉「聞け!!今日は特別に、沖田先生が稽古をつけてくれるそうだ!!我こそはと思うものは、前に進み出ろ!!」


道場は、再び水を打ったように静かになったが、やがて嬉しそうな声を上げて、一人二人と手を上げた。


永倉「よし…一番隊の人間からだ!…沖田先生、びしびししごいてやってくれよ!」


総司は永倉に微笑んでうなずき「ありがとう…」と呟いた。

そして、顔をひきしめると、道場の真中へと進んだ。


総司「…一番は中條君か…よろしく。」


中條は面も胴も取り外していた。その目から涙がぼろぼろとこぼれている。


中條「よろしくお願いします!」


涙を拭いながら、中條が声を張り上げた。


総司(…最後の稽古だ…倒れて皆に迷惑をかけないようにしなきゃ…)


総司は型どおりの挨拶を済ませると、厳しい表情で中條と対峙した。


中條(…いつもの先生だ…!)


中條は喜びに震えながら、気合の声と共に、総司に打ちかかった。


……


ずっと寝たきりでいたとは思えないほどの総司の気迫に、皆押されていた。

一番隊の人間は、総司の稽古に慣れていたにも関わらず、打ちひしがれた状態となった。

この総司の勢いに、二番隊の人間はすっかりのまれてしまっている。

永倉も、驚きを隠せなかった。


永倉(なんのなんの…総司の奴、まだまだいけるんじゃないか?)


そう思ったほどだった。


二番隊の二人目が進み出た時、総司は突然口元に手を当てた。


永倉「!…総司!」

中條「先生!!」


一同がどよめいた。総司は咳き込みながら目で謝ると、道場を出て廊下を走った。


総司(…やはりここまでか…)


とうとう、廊下の真中で座り込んだとき、胸に熱いものがこみ上げ、そのまま喉を通って手の中へ落ちた。


総司「!!」


血を吐いたのだった。ぼんやりと真っ赤に染まった手を見つめていると、人が走り寄ってくる足音がした。


「総司殿!!」


総司はその声に驚いて顔を上げた。

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