第81話
総司の部屋-
総司は床の中で何度も寝返りを打った。
中條を安心させるために横になったはいいが、眠れないのである。
疲れているように感じるのに、何故か頭の芯が過敏になっているようだった。
総司(…困ったなぁ…)
総司の脳裏に姉が現れた。
『まるで子供みたいね…姉さんが、子守唄を唄ってあげましょうか?』
みつがそう言って笑っている。
総司(…うん…久しぶりに聞きたいな…)
みつは、くすくすと笑った。
『本当に子供みたい…。じゃぁ、唄ってあげるわね。』
総司は眼を閉じた。姉の美しい声が総司の記憶から呼び覚まされ、脳裏に流れた。
総司(姉さん…死ぬまでに会えるかなぁ…。もう一度、その唄…聞けるかな…)
総司は眠りに落ちていった。
……
総司は夢と現の間をさまよっていた。
遠くから、気合の声が聞こえてくる。
総司(稽古が始まったのか。…今日は…吉村さんかな…?)
ぼんやりとした頭で考えた。その時、背中に人の気配を感じた。
総司「…!…」
総司は反射的に体を起こし、刀へと手を伸ばした。
「おい!」
その声に、はっと振り返った。土方であった。
土方「全く、勘まで鈍っちまったのか?…屯所に刺客など入ってくるわけなかろう。」
総司「そう…ですね。」
総司は苦笑して、土方に向いて床の上で座った。
土方「大丈夫か?…ついふらっと入ったら、寝ているから…。」
総司「私が眼を覚ますまで、待っているおつもりだったのですか?」
土方「いや…そこまで考えてはいなかったが、何だか出ていけなくてな。…時々咳をしていたぞ。…最近、ずっとそんな感じなのか?」
総司はぎくりとした。また土方に、よけいな心配をかけてしまうと思ったのである。
総司「大丈夫ですよ。…ちゃんと薬も飲んでいますし。」
土方「そうか…。薬を切らすなよ。」
総司「はい。」
土方「まぁ…寝てろ。…起こしてすまなかったな。」
総司は「はい」と返事をした。土方は総司が寝るのを手伝ってやり、布団をかけてやった。
総司「土方さん…」
部屋を出ようとする土方に、総司が呼びかけた。
土方「…ん?」
総司「近藤先生には…言わないで下さい。」
土方は、きっと口を結んだ。…が、やがて「わかってる」と言って、部屋を出て行った。
総司は、ふすまの向こうで土方が立ち尽くしているのを感じていた。




