第73話
中條は、少女から視線を外して言った。
中條「でも…」
少女「?」
中條「…あの人の手紙には…ずっと僕の事を思って下さるとありました。…だから…会えなくても…きっと気持ちは通じ合っていると思うから…」
少女の顔色が変わった。
中條「あの人が、もう僕を好きではないとしても…僕はあの人が好きなんです。」
少女「……」
中條「一緒にいられなくても…会えなくても…好きなんです。」
少女は中條をつき離すようにして体を離し、背を向けた。
少女「中條はん。あほやわ。」
中條「…」
少女「そんな嘘を信じるなんて、ほんまあほやわ!」
少女は泣きながら走り去って行った。中條は黙って女の子を見送った。
中條(…嘘…か…)
中條はぼんやりと、真二つに割れた薪を見つめていた。
「よお、色男」
その声に、中條は驚いて振り返った。十番隊組長の原田佐之助であった。
中條はあわててはだけていた右肩をしまい、頭を下げた。
原田「見てたぜ。あの子を振っちまったんだな。」
中條「!?…いえ…その…」
中條は口篭もった。
原田「おめえって真面目な奴だなぁ。俺だったら食っちまうけどな。」
中條は苦笑して「そんなことできません」 と言った。
原田はふと真顔になった。
原田「女に振られたってか?」
中條「…はい…」
原田「手紙だけで振られたのかい?」
中條「……」
原田「おせっかいだろうが、聞かせてくれねぇか。…どうして振られたんだ?」
中條は、目を伏せた。




