第72話
中條は微笑んで「こんにちは」と答え、再び薪を割り始めた。
少女はしばらく、中條が片肌を脱いで薪を割る姿を、頬を染めて見つめていた。
少女「…この前…会うって言うてた人…は…どうしはったんどす?」
明日香のことだ。突然の少女のその言葉に、中條は斧を振り上げたまま動きを止めたが、やがて振り下ろした。
中條「もう会えないんです。」
少女「振られたんどすか?」
中條の胸がずきりと痛んだ。しかし、平然とした顔で答えた。
中條「…そうですね。」
少女「ひどいお人どすな。中條さんを振るやなんて。」
中條は、苦笑いしながら首を振った。
中條「あの人は悪くありません。」
少女「振られても、好きなんどすか?」
中條は、動きを止めた。
少女は、中條のそばに近寄ってきた。
少女「中條はん、その人のどこがいいんどすか?」
中條「……」
少女「うち、中條はんの事…ずっとお慕いしとりました。うちやったら、絶対に中條はんを裏切ることなんてしまへん。…中條はんが寂しいときも、つらい時も…こうやって毎日、中條はんを慰めること…できます。」
少女は、前方を見つめて黙っている中條の胴に、ゆっくりと抱きついた。
少女「その人のことなんか忘れた方がよろしおす。うちが忘れさせてあげます。」
中條は少女に微笑んだ。
中條「ありがとう…」
少女は気持ちが通じたと思ったのか、その中條の表情を見てうれしそうに微笑んだ。




