第61話
川辺-
中條は、半べそを書いている子どもに尋ねた。
中條「ぼうや、名前は?」
男の子「合田勘吾」
中條「かんご君か…。お父さんの名前は?」
男の子「合田勘一…」
中條「…待てよ…合田勘一といえば…もしかして、お父さん花火を作ってる人?」
男の子「うん!知ってんの?」
中條「有名だからね。京で一、二を争う花火師だから…」
男の子が、とてもうれしそうな顔をする。
中條「家ならわかるよ。さ、一緒に帰ろう。」
男の子「うん!」
中條は、勘吾を合田の家へ連れていった。
家の前では、合田が勘吾を探している様子である。
そして、中條に手を引かれた勘吾を見て、はっとした。
合田「勘吾!」
勘吾「お父ちゃん!」
合田は、半泣きになりながら走り寄ってきた勘吾を、抱き上げた。
合田「どこへ行ったのかと思った。心配したぞ。」
勘吾は、合田に抱きついて泣いている。
合田は、中條に丁寧に頭を下げた。
合田「本当にすいません。どこかで迷っていたんでしょうか?」
中條「…ええ…まぁ…」
合田「どうぞ中へ…お茶でも飲んでいってください。」
中條「いえ。用があるので帰ります。どうぞお気遣いなく。」
合田「本当にありがとうございます…、さ、勘吾、お兄ちゃんにお礼は?」
勘吾「おおきに!」
中條「どういたしまして。勘吾君、また会おうね。」
勘吾「うん!」
中條は、合田と勘吾に頭を下げて、背を向けて歩き出した。
……
中條は、川辺まで戻りながらつぶやいた。
中條「…すごい人なのに…ちっとも威張った風がなくて、いい人だったな。」
ふと立ち止まった。
中條「勇三郎…元気かなぁ…」
中條は川を見つめ、江戸にいる弟や家族のことを思い出していた。




