第54話
三条橋下-
用人たちが後始末を終えたのを見届けた総司は、屯所へ向かって歩き出した。
その時、後ろからこちらへ駆け寄ってくる足音がした。
総司が振り返ると、さっきの女の子が駆け寄ってきていた。
総司「!!…」
総司は驚いて言葉を出せずにいた。女の子は息を切らして総司の前で立ち止まると、両手にもった小花の束を総司に差し出した。
女の子「…これ、あげる。」
総司はとっさに、目を見開いたまま黙って受け取った。
女の子「…助けてくれて…おおきに…」
女の子はそう言うと、そのまま堤を走り去っていった。
総司が呼び止めようとしたが、もうほとんど姿が見えなくなっていった。
総司はしばらく、女の子が立ち去っていった先を見つめ続けていた。
総司(…私の方こそ…ありがとう。)
花びらに総司の涙が落ちた。
……
新選組屯所 総司の部屋-
総司は部屋に入るなり、女の子にもらった小花を水を入れた湯飲みにさした。
総司(母親には何も言わずに来てくれたのだろうか…。見つかって怒られなかっただろうか…?)
それが気になった。礼を言うために、わざわざ花を摘んで戻ってきてくれたことがとても嬉しかった。
母親のしつけができているのだろう。
「だんだらに近づくな」と言うのも、危険な目に合わないようにという親心からに違いない。
総司は着替えると、窓を開け、ごろりと横になった。
新しい空気が総司を包み込む。総司はその空気を吸い込んだ。何か心地よさを感じる。
最近は自分でもはっきりわかるくらいに、体力気力とも落ちてきている。
そしてそれを悟られないように、無理に気を張る。そして、それがまた疲れを呼び、体力が落ちる。…その繰り返しであった。
ふと、文机に置いた小花を見た。
小さく風に揺れている。
いったいどこで摘んできたのだろう。小花の名前さえわからなかった。
総司は眼を閉じ、その女の子と遊ぶ光景を想像した。
総司(…壬生寺の子ども達は元気かな…)
ふと会いたいと思ったが、今はもう体が泥のように重い。
総司(また非番の日にでも行ってみようか…)
そう思った。…しかし、子ども達の前で咳き込んだりしないか…子ども達と遊ぶのに、体力がどれだけ持つのか不安であった。




