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第42話

京の町中 夜-


一番隊は、夜の巡察を終えようとしていた。祇園から、屯所へ向かう途中、四条の橋へとさしかかった。

総司は久しぶりの巡察に、少し体に疲れを感じていたが、何か心地よい緊張感を感じていた。


総司(少し、体がなまっているようだ。…明日、稽古を少し長めにしようかな…)


そう思っていたとき、「先生!」と言う声がした。ふと振り返ると、最後尾を歩いていた中條が橋から下を見下ろしていた。


総司「?…中條君どうした?」


そう問いかけたとたん、中條は「あっ!」と叫んで、突然橋を引き返し、堤を走り降りた。

一番隊士達は何事かと橋から下を覗き込む。総司も同じように下を覗き込んだ。

総司は、一緒に堤を降りようとしていた一番隊士達に「降りるな!」と命ずると、自分が堤を降りようとした。

しかし、中條の声がそれを止めた。


中條「誰も来ないで下さい!!沖田先生も…!」


悲痛な声だった。その声を聞いて、総司の脳裏に悪い予感が走った。


総司「…わかった…。…何かできることはあるかい?」

中條「…かごをお願いします。」


橋の下から、中條の涙声が響いてきた。


総司はすぐに山野にかごを呼びに行かせた。そして他の隊士達は伍長に命じて屯所へ帰らせた。

総司は橋の上から、中條へ声をかけた。


総司「…中條君…君が今腕に抱いているのは…私の知っている人だね。」

中條「…はい…」

総司「…その人は…生きているのか?」

中條「生きてらっしゃいます…でも…。」

総司「生きているのなら、それ以上は言わなくていいよ…。」

中條「……」

総司「…私は礼庵殿を呼んで来る。…どこに行ってもらえばいい?」

中條「……」


中條の返事がない。が、やがて、何か囁きあう声がした。


中條「…先斗町の…綾乃屋へ…」


総司は息を呑んだ。


総司(…あの舞妓か…!)


総司は今にも堤を駆け下りたい気持ちを抑え、答えた。


総司「…わかった…。すぐに呼びに行く。」

中條「…申し訳ありません…」


総司は、礼庵の所へ走った。


……


四条橋の下-


中條は、腕に抱いている舞妓の乱れた着衣をそっと直した。

舞妓の顔には殴られた痕があり、唇が切れ血が流れていた。その血も固まっているところを見ると、舞妓が襲われてから、かなり時間が経っているようである。


舞妓「門番はん…。えろう気を遣ってくださっておおきに…。こんな顔、沖田はんに見られたら…うち、もうお座敷には出られまへんわ。」


舞妓はそう言って、気丈にも中條に微笑んで見せた。

中條は怒りに震えながら、唇を噛んでいた。

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