第31話
新選組屯所前-
中條が屯所へ入ろうとした時、「中條君」と背中から声がかかった。
中條「あ、先生!おかえりなさい。」
中條は振り返って、頭を下げた。
そのとたん、舞妓の泣き顔がふと脳裏によぎった。
総司「中條君もおかえり……おや…?」
総司は、ふと中條の近くによって顔を近づけた。
中條「なっなんですか?」
中條がどぎまぎしてそう言うと、総司がにやりと笑って言った。
総司「いい香りがする…。女性に会っておられたのですか?」
中條「えっ!?…いや…その…!」
総司「おかしいなぁ…さえちゃん、そんな香りのするものをつけていたかな…?」
中條「違います!!これは……!」
あやめさんです…といいかけて、口をつぐんだ。
何か言ってはならないような気がしたのだ。
総司「…胸に白粉がついているよ。君も隅に置けないね。」
総司はそうくすくすと笑いながら、中へ入っていった。
中條は、はっと胸元を見た。確かに白粉がついている。そして少し濡れていた。
中條「…や、やばい…」
こんな状態で大部屋に入ったら最後、周りの人間にからかわれるのは目に見えている。
中條は玄関で困り果てて立ち尽くしていた。その時、山野が入ってきた。
山野「おや、中條さん。」
中條「あ…おかえりなさい。」
中條がふと振り返ると、ぷーんと柔らかい香りがした。
山野「よかったよ…門限ぎりぎりだった…」
中條「山野さんっ!!」
山野「!!!!…な、なんですか?」
今にも掴みかかってきそうな勢いの中條に山野はたじろいだ。
中條「僕と一緒に大部屋へ入ってください!!」
山野「…そ、それはもちろんそうするつもりですが…」
山野は、しどろもどろに答えた。
中條は、想い人の香りの残る山野と一緒に大部屋に入れば、それにまぎれてわからなくなるだろうと、安易な解決策を思いついたのだった。
中條「さ、早く入りましょう!」
山野「え…ええ…」
山野は、不思議に思いながらも中條の横に立った。その時、ふと異変に気づいた。
山野「あっ!中條さん何かいい匂いがする!」
中條「しーーーーっ!!」
中條は、山野を引きずるようにして、中へ入っていった。




