第27話
お民の家-
お民が戸口を開け放つと、外にいた浪人たちが一様に刀を振り上げた。
すぐに中條が刀を左手に持った状態で、お民の前に立ちはだかった。
お民は中條にかばわれた形のまま、叫ぶように言った。
お民「やめて下さい!…私は、こんなことをされるために沖田さんを家に入れたわけではありません!」
浪人「じゃぁ、どういうつもりだ?…我々を裏切るつもりだったのか?」
お民「!…違います!」
総司が姿をあらわした。浪人たちは動揺したような声をそれぞれ洩らしている。
総司「この方はあなた方を裏切るつもりなどありません。私が勝手に家に入っただけです。…お望みどおりお相手しましょう。ですが、ここでは、長屋の人たちが迷惑する。…場所をかえましょう。」
総司はそう言って進み出た。中條があわてて、総司の前に回り浪人たちを威嚇する。
浪人たちは刀を構えてはいるものの、とまどった様子で襲い掛かってこなかった。
2人が浪人の間を通り抜けた時、中條は今度は総司の後ろに回って浪人たちに向いた。左手にはまだ鞘のついたままの刀を握っている。
やがて中條はその刀を腰元に差して、柄に手を当てた。いつでも抜刀できる状態である。
総司は、ふと浪人たちに振り返って、笑いながら言った。
総司「歩く時ぐらい、刀を納めなさい。」
そう言って、前を向いて歩き出した。中條は浪人たちを威嚇しながら、総司について歩いた。
総司はその中條に小さい声で言った。
総司「見たところ、4人ですね…。たぶん他にも何人か隠れているでしょう。」
中條「…はい…」
総司「どうするかな…人数が多かったら、峰うちで逃げ切れる自信がないな。」
中條「彼らは賞金稼ぎか、さもなくば討幕派でしょう。…どちらにしても、斬らねばまた何を起こすかわかりません。」
総司、苦笑する。
総司「…君らしくない言葉だな…だが、確かにそうかもしれない…。」
総司はため息をついた。
総司「…また、彼らの家族を不幸にするのか…できることなら、避けたいが…」
中條「……」
2人はやがて、川辺につく。
総司「ここでいいでしょう。」
総司が踏んだとおり、敵の人数が増えていた。総司はこいくちをきり刀を抜いて言った。
総司「今のうちなら、あなた方の命はお助けする。…私のために命を落とすなど無駄なことですよ。…残された家族がどうなるか…よくお考えなさい。」
その総司の言葉に、何人かの表情がはっとなった。
やがて、総司から離れている浪人が1人2人と背を向けて、走り去っていった。
しかし、総司と中條の真前にいる浪人たちは、今更引けないのか、刀を構えたまま動かなかった。
総司「…どうしても、斬りあわねばならないのですね…」
総司がそう言うと、1人が刀を振りかぶって総司に斬りかかってきた。総司はいったん、その男の刀を受け止めて体をよじり、相手の体を引き寄せた。
総司「…もう一度考え直しなさい。」
浪人「うるせえ!」
浪人は総司の体を押しやると、再び襲い掛かってきた。総司はその刀をひらりとかわすと、背中から袈裟斬りにした。
悲鳴があがり、血飛沫が上がった。
総司の顔がむなしさに歪んだ。




