第25話
川辺-
総司は女性の腕を押さえている中條に言った。
総司「中條君、手を離してあげなさい。女性をそんなにしめあげるものじゃない。」
中條「し…しかし…!」
総司「離しなさい」
中條はしばらく困ったような表情をしていたが、やがてゆっくりと手を離した。
女性は、はっと懐刀を再び構えた。
中條が思わず総司の前に立ちはだかる。が、総司は中條の肩を叩き「大丈夫だよ」と微笑みながら言った。
中條は体をずらした。しかし、左手はいつでも抜刀できるように刀のこいくちに親指をあてていた。
総司はそれに気づいて、こいくちにあてている手を軽く叩いて首を振った。
中條「…しかし、先生!」
総司「離れていなさい。」
中條「先生!」
総司「私の言うことが聞けないのですか?」
中條は静かに一喝され、黙って少し下がった。しかし左手は刀から手を離さずにいた。
女性は刀を構え震えていた。それでも総司をにらみつけたまま、動かない。
総司「…ご婦人…その細腕では私を刺すことはできません。それもこんな至近距離ではね。」
女性は目を見開いた。
総司「本当に刺す気なら、刀をしっかり両手で持って、もっと遠く下がってからぶつかってきなさい。」
落ち着き払った総司の態度に、女性の目に少しあきらめの色が見えた。
総司「そのままでも構いません。…ご主人の仇と言われましたね…斬られたのは、いつのことでしょうか?」
女性はやっと刀を下ろし、うつむいた。その目から涙が流れ落ちた。
女性「ふた月ほど前です。主人は京の人間ですが、ずっと尊攘派といわれる人たちの会合に顔を出していました。」
総司「私が斬ったと、どうしてわかったのです?」
女性「…近所の人が見ていたんです。…その人が「主人は沖田総司に斬られたのだ」と。」
襲撃はよくあることである。が、総司には思い出せなかった。
中條が何かを思い出したような表情で、ゆっくりと近づいてきた。
中條「…先生…ふた月前というと…あの押し込みの集団ではないでしょうか?」
総司「押し込み…?」
総司ははっとした。
『おぬしも男ならわかるだろう…?生き恥をさらしたくないだけだ…」
総司「…あの時の…!」
女性は、驚いたように目を見開いた。




