第21話
先斗町近くの道-
刀を抜いた男たちが、舞妓を背にした総司にゆっくりと近づいてきていた。
「舞妓を連れて歩くとは、いい身分だな。」
総司と知ってか知らずか、集団の頭らしい男が言った。
総司「人の勝手でしょう。」
男がふんと鼻で笑った。
「女の前で、格好つけられるのもそれだけだ」
そういい終わらないうちに、総司に斬りかかってきた。総司は抜き打ちにその刀をはじき返した。
舞妓が小さく悲鳴をあげ、総司の背にしがみついた。
刀をはじかれた男はよろよろと後ずさりした。どうも酔っているらしかった。
総司のことも知らないようである。
総司は刀を構えて言った。
総司「…そちらは女性の前で刀を抜いて、格好が悪いとは思わないのですか?」
「なんだと…?」
男たちはその言葉に逆上した。
総司「酔った相手には…逆効果だったな。」
総司がそう呟いたのを聞いて、舞妓が震えながら言った。
舞妓「…うち…邪魔やありまへんか?」
総司「いや…とにかく離れないで…いいね。」
舞妓が総司の背でうなずいた。
時間の経過--
舞妓は総司の背で伏せていた顔をあげた。
2人の周りに、男たちが倒れうめき声をあげていた。
舞妓「…沖田はん!?…大丈夫どすか!?」
舞妓は苦しそうな息遣いをしている総司の顔を覗き込むようにして言った。
総司は男たちを斬らずに峰うちにしたのである。
総司「…大丈夫だ…。早く帰ろう。」
総司は舞妓の体に腕を回して歩きだした。
舞妓はその総司の胸にしがみつくようにして、総司に従って歩いた。
舞妓「…追いかけてこんやろか。」
総司「しばらく動けないはずだ。心配しないで。」
その総司の言葉に、舞妓は少し安心することができた。
舞妓「…すんまへん…うち、こんな格好で歩いてええんやろか?」
総司「…え?」
舞妓「この総司はんの胸…想い人はんだけのものでしたんやろ?」
総司は苦笑した。
しかし、震えている舞妓を振り払うことなど、総司にはできない。
総司「そうだな…。」
舞妓「…いつもこうして、想い人はん抱いてはりましたんか?」
総司「…ん…」
舞妓「…ほんま…幸せなお人どすな…。沖田はんのような優しゅうて強いお人に愛されて…。」
総司は首を振った。
総司「今はもっと幸せな日を過ごしていると思うよ。」
舞妓「……」
舞妓が立ち止まった。
総司「?…どうしたの?」
舞妓「そんなことないはずどす…!。沖田はんの傍にいた方がずっとずっと幸せやったはずどす!」
総司は驚いて、自分の腕の中でこちらを見上げている舞妓の顔を見返した。
舞妓の目に涙が浮かんでいる。
総司は微笑んだ。
総司「…そうかな…だとしたら…悲しいな…。あの人には幸せになってもらわなきゃ。」
舞妓「…沖田はん、優しすぎはる…。…もっと…自分勝手しはっても、ばちあたらんと思います。」
舞妓はそう言うと、両手で顔を伏せて総司の胸にもたれて泣いた。
総司「…ありがとう…」
月明かりの下で、2人はしばらくそのまま動かなかった。




