第13話
屯所への帰り道-
土方が腕を組んで、総司の前を歩いていた。
総司「ご心配をおかけして申し訳ありません。」
土方「…もういい…お前が無事でよかった。」
土方が、呟くように答えた。
総司「迎えに来てくださらなくてよかったのに。」
土方「ばか…無事とわかっていても、お前の顔を見るまで落ちついてられるか。」
何かというと、すぐに飛んできてくれるのは、土方だった。たぶん、近藤には伝えていないだろう。総司は、そんな土方にいつも感謝していた。
土方「怪我は…すぐに治りそうか?」
総司「ええ、さほど深くないそうです。ただ、糸を抜くまでは、おとなしくしているようにと。」
土方「そりゃ、そうだろう。」
二人は、黙って歩いていた。なぜか話すことがない。
総司は、ふと思いついて言った。
総司「近藤先生は、休息所ですか?」
土方「ん…」
総司「土方さんは、戻られないのですか?」
土方「そのつもりだったが…戻る気が失せた。」
総司「責任を感じるなぁ…。戻ってあげてくださいよ。後で、ぶつぶつ言われるのはいやですし。」
土方「…ばかやろう…」
土方は笑った。
総司は知っていた。近藤も土方も、総司が想い人と別れてから、しばらく休息所へ戻っていなかったことを。
総司「…本当に…戻ってあげてください。…気を遣われるとよけいにつらいんです。」
土方は、立ち止まった。
総司も、一緒に止まった。
月が雲に、隠れて暗くなった。二人は、しばらく黙っていた。
土方「…じゃぁ…行って来るかな。」
総司「ええ。でも、だらしない顔で歩いちゃ駄目ですよ。」
土方は笑って「ばか」と言って、総司に振り返った。
総司が、微笑んでいた。それを見て、土方は再び背中を向けた。
土方「何かあったら、下の者にでもすぐに呼びに来させるんだぞ。」
総司「はい、わかりました。…でも、もう今夜は何もないでしょう。ゆっくり羽をのばしてください。」
土方「…ああ…ありがとう。」
土方は、道を引き返して去って行った。
総司はそれを見送ると、屯所へ向かった。
……
土方はしばらく歩いていたが、ふと月を見上げて立ち止まった。
土方「…総司…ほんとにすまねぇな…」
そう呟いた。




