第12話
屯所への道-
総司は月の光に導かれるようにして、屯所へ向かっていた。
傷の痛みも、いつの間にか消えていた。老人が「痛み止め」だと言って飲ませてくれた薬が、効いたのだろう。
総司「…どうしようか…礼庵殿のところに行こうかな…。」
老人が「縫った方がいい」といった言葉を、思い出していた。
総司「…痛み止めが効いている間に縫ってもらった方がいいか…」
総司が、屯所への道をかえて歩き出した時、突然曲がり角から、男が飛び出してきた。
総司「!!」
中條「先生っ!?」
総司は一瞬、刀にかけた手を、ほっとして下ろした。
総司「驚いた…中條君か。」
中條「中條君かじゃないですよおおっ!どれほど、心配したと思うんですっ!?」
総司「すまないすまない…」
中條の泣き出しそうな顔に、総司は吹き出しそうになりながら、謝った。
中條「副長が心配しておられます。すぐに帰りましょう!」
総司「いや、それが…ちょっと怪我をしているんです。…礼庵殿のところへ寄るからと伝えてくれませんか。」
中條「先生、怪我をされてるんですかっ!?」
中條の顔が、みるみるうちに青くなった。
総司「心配しないで下さい。大した怪我ではありませんが、一応、診てもらった方がいいと思ってね。…頼みましたよ。」
総司は青くなっている中條を背に、歩き出した。
……
礼庵の診療所-
総司は礼庵の治療を終え、はだけていた肩を直した。
礼庵「傷は深くはないですが、しばらくは動かしにくいでしょうね。」
総司「…夜中に申し訳ない…」
礼庵「いえ…これが仕事ですから。」
礼庵は、手を洗いながら言った。
礼庵「しかし、お気の毒ですね…。その女性の話…」
総司「ええ…。早く立ち直ってくれるといいけれど…」
総司は、ぼんやりとした。
総司が井戸で血を洗い流している間、青い顔をしながら灯りを近づけてくれた綾のことを、思い出していた。
その綾の顔が、可憐の顔と重なった。
礼庵「総司殿…?」
総司は、はっとして、礼庵を見た。
総司「…すいません…あの人のことを思い出していた…」
礼庵「!!」
礼庵が、表情をくもらせた。
礼庵「…お元気でしょうか…」
総司「…ええ、きっとね…」
総司が、微笑んで礼庵を見た。礼庵は、少し微笑んで総司を見返した。
その時、土方の声がし、ばたばたという足音が聞こえた。
総司が、肩をすくめた。それを見た礼庵は、思わずくすっと笑った。




