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第11話

新選組 屯所-


屯所では、総司がいなくなっていたことで、大騒ぎになっていた。

休息所にいた土方は、顔を真っ赤にして、報告に来た伍長をどなりつけた。


土方「見失うとは何事だ!…ちゃんと探したのか!?」


伍長は、しどろもどろに「探し回ったのですが…」と答えた。


伍長「まだ…中條と山野が探しています。」

土方「…総司のことだ…。捕まってどこかに連れて行かれたということはないと思うが…」


土方は、興奮を押さえながら言った。


土方「今夜は月もない…闇雲に探すのも無理かもしれん。……よし、明日の朝まで帰ってこなかったら、討幕派の集まりそうな場所を洗おう。中條と山野を呼び戻せ。明日のために、体を休ませるんだ。」

伍長「はっ!」


伍長は、急ぐように出て行った。


……


綾の家-


その時総司は、老人に腕の治療をされていた。


老人「ほんまは縫った方がええんどすけど…下手に縫って傷がひどなったら困りますさかいな。…きつくしばっときますよって。」

総司「…ありがとう。」


総司の前には、主人と綾という娘が心配げに、総司の様子を見ていた。


総司「本当にご迷惑をおかけしました。」


治療後、総司は二人に深々と頭を下げた。


主人「いえ…うちらは、ほんまこんなことしかできまへん。命かけて、京の治安を守ってくださる新選組はんには、本当に感謝しとります。」


総司は、顔が赤くなるのを覚えた。こんな言葉をかけられた事は、今までになかったからである。


主人「…実は…この綾の許婚いいなずけが昨年、不逞浪人に殺されましてな…。…町人の私らでは仇を討つこともできず…この綾はほんま辛い思いしたんどす。」


総司は目を見張って、綾を見た。

綾は唇をかんで、下を向いている。


主人「でもその後、新選組はんがその浪人のいる集団と斬りあっているところを、下働きの者がたまたま見まして…。そしてその浪人があっさり斬られて死んだと聞いて、ほんま嬉しかったんどす。その時から新選組はんの屯所へは足向けて寝られまへんのや。」

総司「そうでしたか…。」


総司は、何か恥ずかしくなって下を向いた。


主人「綾はほんま、その死んだ許婚に惚れてましてな…。あれから1年も経つのに、まだ忘れられんとおるんどす。…新しい縁談の話もあるんどすけど…本人が嫌やいいましてな…。」


総司は、胸が痛んだ。綾の思いが、自分にもよくわかるのである。


主人「あの…お武家はんは、どこの隊の方どすか?」

総司「え?」


総司はぎくりとして、主人を見た。


主人「…実は、斬り合いを見た者は、浪人が斬られたところをみただけで、その時にどの隊だったか覚えていなかったんどす。…で、後であちこちで聞いて回ったら、あれは沖田総司はんという方の率いる、一番隊やとわかったんどすけど…。」

総司「そ、そうでしたか…」


主人は「あっ」と言ってから、あわてて尋ねた。


主人「すんまへん…お武家さんのお名前聞いてまへんでしたな。教えておくれやす。」


総司は、困り果てた。今になって「沖田」と名乗るのが、恥ずかしかったのである。


総司「いえ…私は隊でも下の方ですので…名乗るほどのものでは…。」


主人は「どうか教えておくれやす」と食い下がったが、総司があわてて言った。


総司「綾殿のお話は、沖田…さんにお伝えしておきます。…きっと、喜ばれることでしょう。」


照れくささに、舌をかみそうになりながら総司がそう言うと、主人は嬉しそうに「たのんます!」と言って、頭を下げた。

隣で、綾も手をついて頭を下げている。そして、涙声で言った。


綾「ほんまに心から感謝しておりますと、お伝えしておくれやす。」


総司は黙ってうなずいた。声をかけるのが辛かった。


……


総司は、泊まっていくように主人から言われたが「隊に戻らないと怒られるから…」と断った。

名は最後まで名乗らなかった。


主人「どうか…これからも不逞浪人達を成敗しておくれやす。…綾のような人間をつくらんよう…たのんます。」


その主人の言葉に、総司はうなずいた。


総司「…はい、できる限りのことはいたします。…そして、沖田さんに伝えておきます。」


総司はそう言って、綾を見た。


総司「綾殿…どうか幸せになってください。…亡くなられた許婚殿も…きっとあなたに幸せになって欲しいと思ってらっしゃいます。」


綾は目を潤ませながら「おおきに」と、総司に頭を下げた。

総司は、ずっと頭を下げている主人と綾を後に歩いた。


総司(…綾殿のような人をつくらないために…か…)


…月がやっと雲間から顔を出した。

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